奥戸透と冬野つぐみは思う
次話タイトルは『奥戸透と冬野つぐみの場合』
「さて、まずは自己紹介からでしょうか? 私、ここの店長で奥戸と申します」
奥戸は一礼をしてつぐみを眺めた。
転倒した彼女を立ち上がらせると、彼は隅へと片づけていた椅子と机を取り出し並べ直す。
彼女を座らせ、彼自身も机を挟み向かい合わせで座った。
つぐみの顔には怯え切った表情がくっきりと表れている。
これはよくない。
彼女には最期まで穏やかな感情でいてもらって、薬になってもらわねば。
「驚かせてしまったことを、まずは謝らせてください」
悲しげな表情を作り、奥戸はつぐみを見つめた。
千堂沙十美からは、彼女は人を悲しませるのを嫌う性格だと聞いている。
「そんな! 私が勝手に転んだのに、笑うなっていう方が無理な話です!」
慌てた様子で逆に謝ってくる姿に、話の通りだと奥戸はほくそ笑む。
「では、許していただけるのでしょうか?」
「店ちょ、……いえ。奥戸さんとお呼びしてよろしいですか? 奥戸さんは何も悪くないです!」
彼女からは、すっかり怯えが消えている。
それを確信した奥戸は、話を続けようと新たな話題へと移りはじめた。
◇◇◇◇◇
犯人から逃げ出す方法。
それを考えながらつぐみは彼へと笑顔を向ける。
隙をついて逃げるのは難しい。
この店にいる間は、急に体の自由がきかなくなる可能性が高いと考えよう。
つぐみの頭に浮かぶ対策は二つ。
一つ目はどうにかして店の扉に近づいて、そこから一気に逃げ出す。
二つ目はなるべく時間を引き延ばして、品子達が助けに来てくれるのを待つこと。
さらに言えば、シヤの聴く力がまだ繋がっていると信じて、なるべく相手から話をさせる。
少しでも情報を、品子達に聞いてもらうことも続けていくのだ。
とても厳しい条件。
だがやらなければ結局、このままつぐみも行方不明者になるだけだ。
(まずは、相手が私をどれだけ把握しているかを知ること。そして相手の油断を見つけて、そこから相手に情報を話させることが大切だろう)
つぐみは考える。
どうしたら自分が生き残れるか。
どうしたら相手の情報を引き出すことが出来るか。
今、頼れるのは自分だけなのだ。
(さぁ、はじめよう。私は、必ず先生達の所に帰るんだ!)




