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鷹の目

次話タイトルは『蝶は誘引する』


 土曜日に引き続き、日曜日も見事な晴天だ。

 じりじりと肌を焼いてくる太陽にうんざりしながら、惟之は隣にいるヒイラギに目を向ける。

 惟之と目が合うと、ヒイラギはうなずき地図のページを開く。

 多木ノ駅の周辺で一番高いビルの屋上。

 そこで惟之は発動の準備を始める。


「俺、惟之さんの発動を見るの初めてだ」


 ヒイラギが風でページが変わらないように、地図を押さえながら惟之の顔を見上げる。


「そうだっけか。まぁ、これといって楽しいものでもないがな。……始めるぞ。何かあったらすぐに撤退だ。いいなヒイラギ」


◇◇◇◇◇


 目を閉じたまま動かなくなった惟之を見つめヒイラギは呟く。


「これが、惟之さんの発動の『鷹の目』なのか」


 靭惟之。

『鷹』の力を媒体にして発動する能力者。

 その発動能力の一つである『鷹の目』は自身の居る場から離れた場所を見ることができ、同時に周囲の発動者がどこにいるかを把握する力。

 右目を失うまでは、その能力は千里眼を持つとまで言われていた男。

 だが彼は十年前、ヒイラギの母であるマキエの死亡事件の際にそれを失っている。

 その代償は大きく彼の右目の視力と能力は失われ、日の光やそれほどまでに明るくない電灯の光ですら、痛みを伴うものになっている。


 そんな彼の様子を見ながらヒイラギは惟之からの指示をじっと待ち続ける。


◇◇◇◇◇


 すぅと体が浮かび上がる感覚を惟之は感じる。

 発動が完了したのを確認すると、彼は再び集中力を上げていく。

 まずは、周辺に発動者の気配があるかを確認する。

 幸いにして今日は大きな気配を感じない。

 ほっとして一度、目を開くと隣で待機しているヒイラギに伝える。


「奴らはいないようだ。品子に連絡を」


 だがヒイラギからの返事がない。


「ヒイラギ?」


 ヒイラギは黙ったまま惟之を見ていたが、二度目の呼びかけでようやく返事をした。


「あ。ごっ、ごめん。連絡だよね?」


 慌てたように、目を逸らされる。


「……初めて俺の目を見て、怖かったか?」


 彼を動揺させないようにと、なるべく穏やかに惟之は話しかける。


「ううん、違うよ。話は品子から聞いたことあったし。本当に片目だけ金色になるのだなって」


 ヒイラギはスマホを取り出すと品子との通話を始める。

 その様子を見ながら惟之は自身の右目の瞼にそっと触れて思う。


(そう片方だけ。もう片方はもうない、使えない。中途半端な発動者)


「品子が了解したって。あと、惟之さん、あのね」


 電話を切ったヒイラギは、惟之をじっと見つめ口を開いた。


「俺も品子と一緒で惟之さんの目は綺麗だと思った。品子ってさ。惟之さんのことは結構、辛口に言うよね」

「結構どころか、俺は辛口しか聞いたことないが」


 惟之の言葉に、小さく笑うとヒイラギは続ける。


「いつも言うんだよ。惟之さんの目は本当に綺麗だって。人はどんどん変わってしまうけど、惟之さんの目はずっと変わらない。それがいいって。あれ? 惟之さん、笑ってる?」


 自分に対し厳しいことしか言わない品子の一面を知り、惟之の口に小さく笑みが浮かぶ。


「……さてと、本来のお仕事に入りますかね」


 気持ちを切り替え、惟之は改めて地図を見直す。

 予定している場所は昨日、打ち合わせた二ヶ所。


「まずは、こちらの二つの気配を感じた方からだ。恐らくこちらではないかと思うがな」


 惟之は意識を眼下に向ける。

 次第に範囲を広げ、周りを見渡しているとチリリと惟之のまぶたに刺激が来る。

 そちらの方を見やり、軽くまぶたに触れながらヒイラギを呼ぶ。


「あの辺りに何か感じる。もう少し近づいて確認をし……! なんだと! どうしてそこに!」

「どうしたの、惟之さん?」

「まずい、ヒイラギ! すぐに品子に伝えろっ! リードの対象者を冬野君にするんだ! 今から伝えるポイントに取り急ぎ向かってくれと。あの近くに、……冬野つぐみがいる!」


◇◇◇◇◇


「どういうことだ? ヒイラギ」

「それはこっちが言いたいんだけど。とりあえずそこにあいつがいるらしいんだ!」


 多木ノ駅の駐車場。

 そこでシヤと共に車の中で待機をしていた品子は、ヒイラギからの連絡を聞いて焦る。

 品子は助手席に座るシヤへと視線を向ける。


「……品子姉さん。確かにこの近くに、つぐみさんがいます」


 信じられないという顔で、シヤが呟く。


「シヤ、案内して!」

「はい、車は降りて行った方がいいと思います。この辺り、狭い道が多そうですし」


 ストールを首に巻きながら、シヤは車から降りる。


「わかった、行こう」


 車を降り、品子はシヤの後について走る。


「とにかく今は、彼女との合流を。急ごうシヤ!」


 つぐみの無事を祈りながら品子はシヤの後を追った。

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