帰り道の途中で
次話タイトルは『来ない彼女とハンカチ』
「いやぁ、まさか冬野君とヒイラギ達が友達なんてなぁ! 世界は狭い!」
つぐみの隣で上機嫌で品子は運転を続けている。
「特にヒイラギなんて、顔はいいのに愛想が無いからさ。あいつは女の子と話すことないまま一生を終えると思っていたよ!」
驚いているのは品子だけではなくつぐみも同様だった。
まさか品子がヒイラギ達の従姉だったとは。
彼らは『二人だから大丈夫』と言って、そのまま電車で帰っていってしまった。
「あの先生……」
「何だい? 晩飯なら悪いが、もう済ませたから誘われてもお断りしちゃうぞ」
「あ、大丈夫です。家にまだ昨日の残りの肉じゃががありますので」
「そうか。美味いよな、肉じゃが。冬野君のお手製か?」
「はぁ、まぁ。独り暮らしなので。……よ、良かったら持っていきます?」
「いいのか? 催促したみたいであれだなぁ!」
矢継ぎ早の話に翻弄されながらも、案内を続けようやくつぐみの家に着く。
「容器に入れて持ってきます。少し待っていて下さい」
「おう、いつまでも待つぞ! だから糸コン多めで頼む!」
うなずいて家に戻り、つぐみは冷蔵庫から鍋を取り出した。
要望通りに、肉じゃがを糸こんにゃくを多めに容器に入れていく。
容器を抱え外に出ると、車の中にいる品子へ声を掛けようと覗き込む。
品子はスマホで誰かと会話中のようだ。
少し待とうと、その様子をぼんやりと見つめる。
電話をしている品子の綺麗な横顔に、駅でのシヤの様子を思い出してしまう。
彼女は今の品子の様に耳に手を当てていた。
(でもシヤちゃんは電話など、持っていなかった)
しばらくして品子がつぐみに気づくと、慌てて電話を切る。
「すまない。声を掛けてくれてもよかったのだぞ? 待たせてしまったね」
窓が開いたのでつぐみが容器を渡すと、品子は嬉しそうに助手席へと置いた。
ふと先程の疑問もあり、つぐみは問いかける。
「あの、シヤちゃんは先生と仲良しなのですか?」
「ふふ。私はシヤのことが大好きだよ。でも最近は反抗期かな? あいつらの家に週五で通っているのだがね。先日もそんなに来なくていいって言われてしまったよ」
「え? あの先生。従姉とはいえ、週五って通いすぎでは……?」
「いや、これでも我慢している! あと二日は窓からこっそりのぞいて、顔を見たら帰るってところまで妥協してっ!」
(先生、それは不審者の行為です)
つぐみの心の声を知らない品子は言葉を続けていく。
「愛の一方通行って辛いよな。でも燃える思いは留まるどころか燃え盛るばかりで……」
「先生、それだけ仲良しなのですね?」
「おう、お互いに分かり合っているぞ! 私達は!」
「そうですか。あの、先生はピアスとか着けないですよね?」
「あぁ、そうだな。……いや、……ところで冬野君」
「はい?」
「……過ぎた好奇心には、気を付けた方がいいかもしれないよ」
そう言ってつぐみを見つめる品子の顔は。
品子の口に先程までは生まれていたはずの笑みが、姿を消していた。
「じゃ、帰るわ。肉じゃがをありがとな。容器は明日には返すから~」
だがそれは数秒の間だけ。
再び笑みを浮かべ、品子はヒラヒラと手を振ると車を発進させ去っていく。
角を曲がり車が見えなくなるまで見送ると、つぐみはぽつりと呟く。
「……好奇心、か」




