ハラショー、ピロシキ、シンデレラ
匿名希望です。
やたら昔、寒い地域のお話です。
シンデレラと呼ばれる少女が、継母とその連れ子の娘達にいじめられて暮らしておりました。
ある日、シンデレラがボルシチを作っていると、継母達が慌ただしくクローゼットを漁り始めます。
「舞踏会に行かなくちゃ!」
その日、お城では王子様がお妃様を決めるための舞踏会が開かれるのでした。
「シンデレラは留守!!」
案の定シンデレラは除け者です。
継母達を乗せた馬車を見送り小さくfuckと呟くと、シンデレラは隠していたウォッカを取り出し飲み始めました。
「おやおや、可哀想なシンデレラ」
すると魔法使いがシンデレラのもとへ現れました。THE・不法侵入です。
「私がお前を舞踏会に連れて行ってやろう」
魔法使いが杖を振るうと、シンデレラのみすぼらしい服が素敵なドレスに早変わりしました。勿論あの暖かそうな帽子もおまけでついています。
「やった!」
シンデレラはそそくさと舞踏会へ出掛けました。
その頃お城では、
「王子! 私とダンスを!」
しつこい誘いに戸惑う王子、隙を見て外へと逃げ出しておりました。
王子が一息つくと、そこへシンデレラを乗せた馬車が到着致しました。
「なんと美しく、なんと落ち着く香り……」
無い物はどうにもならん。
魔法使いが唯一どうにも出来なかった胸に、シンデレラはパンを仕込んでおりました。パンの香りが王子の心を捉えたのです。
「私とダンスを踊っていただけませんか?」
勿論コサックです。
二人でにこやかにコサックを踊り、「王子、そなたもなかなかやりますな」なんて会話が時折なされました。
しかし、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまい、鐘の音が鳴るとシンデレラは、スッと笑顔を引っ込めました。
「ごめんなさい。帰らないと」
シンデレラが走り出します。
王子が慌てて追い掛けますが、シンデレラはあっという間に見えなくなりました。
「ん?」
王子の足下に何か落ちていました。
それはシンデレラの胸にしまっていた、三日月の形をしたパンでした。
一口囓ると、午後のアンニュイな気分が口いっぱいに広がりました。
「これピロシキやない。クロワッサンや……」
王子のつぶやきが夜の空へと消えてゆきました。
匿名希望でした。