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禁忌破りの最狂魔工士  作者: 荒式雷穂
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3 アルヴィ、ボロ屋敷を研究所にする

 アルヴィが北の辺境――エンドデッドに追放されて三日が過ぎた。アルヴィはその間、ひたすら農作業に従事していた。


「いやはや。俺はてっきりとんでもねえボンクラが来ると思ったが、中々良い動きをするじゃないか。ほら……今日の日当だ。がんばれよ、アルヴィ」


 と言うのは、農場主にしてアルヴィの雇い主のボダムだ。

 ボダムははじめのうちはアルヴィを見下していた。


 ある意味では当然の反応だ。由緒ある魔法貴族の子どもが追放されるということは、途方もなく無能であることを意味しているのだから。

 しかし想像以上にアルヴィの働きはよく、農場主はすぐさま通常の賃金を支払うようになった。


「ありがとうございます」


 農場主のボダムは、豪快に笑いながらアルヴィに日当を支払った。


「それにしても不思議なこともあるもんだな」


「何がでしょうか?」


「ついこの間までお前は、魔法貴族だったんだろう。それなのに、農作業もずいぶん慣れてるみたいじゃないか。馬糞も平気な顔で片付けるし、妙に体つきはいいし。鍛えてたのか?」


「まあ、三日もあれば慣れるので。三日の間に力がついたのかもしれません」


「あっはっは。面白いことを言うな! まあいいや。アルヴィ、これからも頼むぞ」


「ありがとうございます。ところで、提案があるのですが」


「何だ、言ってみろ」


「農機具を一新したいのですが」


「なんだそりゃ? 雇われの小作人がそんなこと言うなんて、聞いたことがねえぞ」


 ボダムは怪訝な顔でアルヴィを見る。

 しかしアルヴィは本気だった。この世界の農作業は、人間の手で行なうにはひどく効率が悪いのだ。

 アルヴィはその農作業を一瞬で終わらせ、研究に没頭するつもりでいた。


「迷惑はかけませんよ。農機具は俺の給料から少しずつ作るので。収穫が増えた分、給料を増やせなんてことも言いません」


「お、おう…………そこまで言うなら良いだろう。一体、何を作るつもりだ?」


「何、大したものではありませんよ」


 アルヴィの頭の中にあるアイデア――。

 それはこの世界の人間にとっては禁忌そのものの、恐るべき発想なのだ。


 いかに僻地の農場経営者といえど、恐れおののいてしまう可能性がある。

 今はまだ早いだろう。

 アルヴィはそう判断して言葉を濁したのだ。


「というか作るって何だ……? 鍛冶屋でもないのにか?」


「まあ、気長に待っててください。もう少し時間がかかるので」


「そうか。何だか分からんが、楽しみに待っているぞ」


 ボダムから給料を受け取った後、アルヴィは屋敷へと帰った。

 追放されたと言っても、一応は元魔法貴族だ。


 ルネリウス=ドーンファル家は当面の間、アルヴィに対して使わなくなったボロ屋敷を与えることにしたのだった。


   *


「さて……そろそろ荷物が来るころだが……」


 アルヴィの予測どおり、屋敷に着くと同時に荷馬車がやって来た。

 中年の運び屋の男がアルヴィに問い掛けた。


「アルヴィ・ルネリウス=ドーンファルさんの屋敷はここですかい?」


「ここで間違いない。もっとも、今は名前が変わっている。俺はただのアルヴィだ。家から追い出されたのだ」


「ああそうですか。そいつは難儀なことで」


 運び屋はにこやかな顔で大量の荷物を馬車から降ろした。


「でも、そういう方が楽しいでしょう。あっしも若い頃は色々冒険をしやしたが、無茶をした方が人生楽しくなるってもんです」


「そのとおりだ。魔法貴族などつまらん肩書きだ。俺にそんなものは不要だからな」


「ほおー! そいつは何と! 魔法貴族の肩書きをいらないと」


「厳密には魔法が使えないから追放された訳だが」


「はっはっは。そいつは大変だ。でも、その顔は自由を楽しんでる顔ですなあ! 年頃の男ってのは、一人になりたいもんですからね。女も連れ込み放題だ!」


 アルヴィは女に興味はないが、運び屋の言うことは合っていた。

 アルヴィは今、最高に気分が良い。


「ああ……全ての計画が上手く行くというのは、実に気分がいいものだ」


 荷物は全て、アルヴィが密かに買い集めていたものだ。


 アルヴィは未成年ではあったが、平民を遙かに超える額の小遣いを毎月貰っていた。アルヴィはその金を密かに貯め、ラボを作る資材を調達していのだ。

 そして家を追放されたタイミングで荷物を屋敷へ送る手はずを整えていた。


「そいじゃ、あっしはこの辺で。頑張ってくださいよ」


 男は大量の荷物を屋敷の中に運ぶと、さっそうと荷馬車に乗り込んでいった。




 アルヴィは屋敷の中で荷物を確認し、一人笑った。


「実に良いタイミングだ。煉瓦に大工道具一式。これは計量の天秤か。いいぞ、必要なものは全てある……あとは、この頭の中にある設計図どおり、作るだけだ……!!」


 アルヴィの屋敷には応接間に寝室、そして地下に巨大なワインセラーがある。

 そのワインセラーを取り壊し、地下研究室にするのだ。


 ラボには巨大な作業テーブル、重い物資を運搬するためのレール、金属を精錬するための窯に、金属を加工するための金床を設置する。

 実に気が遠くなる作業だ。

 だがアルヴィはただただ興奮していた。


「いいぞ、いいぞ……何と言う自由……!! 原始的な化学実験室とはいえ、実に素晴らしい。最高の気分だ……!!」


 さらに幸いなことがあった。

 その後数日は雨が続き、農作業がなくなったのだ。

 アルヴィは寝食を忘れ、徹夜で作業を続けた。


「ははははは……!! はははははっ!!! まったく、最高だな。異世界というやつはなあ!!!!」


 そう、アルヴィはブレーキがぶっ壊れている類の天才なのだった。

 数日後、ラボが完成したと同時にアルヴィは大の字になって倒れ込んだ。


「終わった……。次はこの世界の農機具を千年分、アップデートしなければな。数百倍の効率で金を稼ぎ……全てを研究に注ぎ込むのだ……!!」

 アルヴィはそのまま、ラボの床で眠りについた。


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