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永遠の封印

ーーーいまから500年前。


 魔王の野望である、世界の滅亡を食い止めるため、伝説の勇者ハロルドが、魔王との戦いに挑んでいた。


 さまざまな激闘、多くの仲間たちの別れ、人との出会いなどを経て、勇者ハロルドは、ついに魔王の居城、魔界最深部の魔城にたどり着く。


 そこで、魔王に対峙した勇者ハロルドは驚愕することになる。


 ハロルドが到達した魔王はーーー

 なんと、女帝だった。


 女帝の名は、天魔王ルルブル。

 ハロルドは、その姿を見てさらに愕然とする。


 ルルブルは、ハロルドの生まれた村に住む恋人ジェミニの姿に瓜二つだったのである。


 ジェミニは、ハロルドが旅立つ数年前、村から行方不明になっていた。


 考えてみれば、ジェミニが消えたころと、人々が魔王によって闇に包まれていく時期は重なっていた。


 そう、天魔王ルルブルこそ、ジェミニだったのである。


 ルルブルは、あるとき記憶を失い、人間界に転生していた。

 彼女は、その記憶が戻るまで、人に育てられ、自身も人であると信じていた。


 そんなあるとき、魔界がルルブルを見つけ出し、ついにルルブルは魔界に帰還する。魔界の力により、ルルブルは天魔王としての記憶を取り戻すが、今度は人間界での記憶を失っていた。


 天魔王ルルブルと勇者ハロルドの勝負は決着がつかず、やがて、ハロルドはルルブルがジェミニだったと気づき、ルルブルもまたジェミニとして暮らしていた頃を思い出す。


 ルルブルはハロルドに言う。


「私がいま生きているのは、あなたの村で育てられていたからです。私は優しさや暖かさを人から学びました。しかし、私の育ててくれた、人の父も母も、我が魔界のモンスターたちが殺してしまったのです」


 ルルブルは涙を流し続ける。


「これまで魔界が与えてきた、人々への悲しみや絶望は、もう取り戻すことはできません。でも、未来は違います。私はもう世界の滅亡を望みません。今後、世界の破滅を望む魔界のものが現れたなら、私が彼らをすべて滅ぼします。二度と人間界には迷惑を与えないことを約束しましょう」


 勇者ハロルドも、ルルブルに伝えた。


「ルルブルの気持ちはわかった。これで魔界と人間との争いは終わるだろう。ただし、自分にも願いがある。自分は人間界には帰らず、魔界に残り、ルルブルの役目を担いたい」


 ルルブルの役目ーーーそれは、魔界に残る邪悪なモンスターたちの殲滅。

 それを勇者ハロルドは、ルルブルに代わって行いたいと希望したのである。


 勇者ハロルドは、魔界の王である天魔王ルルブルが、自らの手で、同族を殺さねばならないことを、避けたかった。


 ルルブルは最初は拒絶していたが、人間と魔族の真の和解を実現したいハロルドの思いに打たれ、最後は涙を流し、ハロルドの願いを受け入れる。


 こうして勇者ハロルドは一度人間界に戻り、人間界と魔界との和解を王に伝える。王は喜び、人間界において、その旨が布告され、魔界がもたらした闇の終わりが実現することに人々は歓喜する。


 そして、勇者ハロルドはふたたび魔界に戻る。天魔王ルルブルに伝えた、自分の使命を果たすためである。


 天魔王ルルブルは、人間との和解、世界の破壊や殺戮の禁止を魔界に布告する。


 もちろん、抵抗するモンスターもいたが、天魔王による布告の意味は大きく、ほとんどのモンスターはそれに従った。

 その布告に逆らうモンスターは、勇者ハロルドが約束通り殲滅していった。


 やがて魔界も、人間界との平和共存で統一された。


 いつの日にか、魔界に残る勇者ハロルドとルルブルは、ふたたび恋に落ち、やがて2人は結婚する。


 こうして魔界と人間界の平和が実現した。


 しかし、その共存に最後まで逆らう勢力がいた。


 悪魔界のデビル族である。


 悪魔界には3つ階位があった。

 

 最上位のサタン族、中位のデーモン族、そして下位のデビル族である。


 勇者ハロルドが、天魔王ルルブルを目指す旅ではさまざまなモンスターと戦ったが、そのなかには悪魔もいた。


 ただし、その悪魔は、ほとんどがデビル族だった。


 デビル族の多くは魔王を目指す勇者ハロルドにより次々に殲滅された。

 そのなか、デビル族のダハーカが、父と母を勇者ハロルドに殺される。


 ダハーカは父と母を殺された憎しみから、ハロルドへの復讐を誓った。

 ダハーカは自らが育てた破壊竜アンラとともに、その能力を鍛え続けた。


 ダハーカには勇者ハロルドの打倒への勝算があった。破壊竜アンラが創造神にまで成長すれば、その力は魔王に匹敵するとまでいわれていたからである。


 そんななか突如、魔界に布告されたのが天魔王ルルブルによる、魔界と人間界との和解だった。


 ダハーカは当然、それに反対したが、悪魔界はそれを承認した。


 なにより悪魔界の最上位に位置するサタン族の主、悪魔王ルシファーが同意したからである。


 サタン族は、勇者ハロルドと直接交戦は行っておらず、勇者ハロルドに殺された悪魔族は、ほとんどがデビル族だった。また、中位に位置するデーモン族も、その被害は軽微だった。


 デビル族の多くの悪魔が、人間界との和解に反対したが、そうした悪魔たちは、ルシファーの命により、次々にサタン族の悪魔たちに殲滅された。やがて、同族のデビル族の悪魔たちの多くも、ルシファーの決定に同調するようになる。


 デビル派に残る反対派の悪魔たちへの粛清の波は、ついにダハーカにも訪れる。


 ダハーカを殲滅したのは、ルシファー直属のサタン族ではなく、同族のデビル族だった。


 悪魔界は、悪魔界の意思に反対するものを説得はしない。問答無用で殲滅するのみである。


 悪魔界では、情愛や優しさといった、善なる感情はもともとなかった。

 そのなかで、デビル族だけは、そうした善なる感情をもつ悪魔もいる種族だった。そして、そんな彼らが人間界との和解を拒否する一団となった。


 人間界と和解した後、悪魔王ルシファーをはじめ、悪魔界全体でも、そうした善なる感情を理解する者も生まれたが、それはこの時から数百年後の話である。


 当時はデビル族であっても、善なる感情を理解できない悪魔も多かった。


 そして、ダハーカは最後の仲間たちともに、ついに殲滅された。


 ダハーカは破壊竜アンラとともに、闇の最深部の結界、永遠の封印に処せられた。


 この永遠の封印こそが、すなわち悪魔の死を意味していた。


 やがて、人間界との和解を拒むデビル族の悪魔は、すべて殲滅された。


 永遠の封印に処された悪魔は、無限の苦しみを味わい、やがて力尽き、完全に消滅する。


 ダハーカは、勇者に家族を殺され、仲間に自分を殺された。

 

 ダハーカの信じる善なる心は、完全に否定された。


 ダハーカは無限の苦しみのなかで、何千回と叫び、何万回と泣いた。


 そして人間と魔族との和解から500年になろうとするある日、あることをきっかけに、その永遠の封印が解かれた。この封印を解いたものこそ、後の賢者ゾロゲだった。


 ただし、永遠の封印が解かれた時、生き残っていたのはダハーカだけだった。


 同じく封印されていた仲間たちは、すでに、すべて闇の奥で消滅しており、破壊竜アンラもまた消滅していた。


 封印から、ただひとり脱することができたダハーカは、封印を脱した時、人間のような姿をしていた。しかも、まだ幼な子の姿をしていた。


 ダハーカは悪魔の頃の年齢は、人間界では生涯の幾つもの年月を経るほどの歳だったが、それでも悪魔界で、その歳は、まだまだ幼い歳だったからかもしれない


 その肌色こそ、悪魔の青黒い肌を持っていたが、その姿をゾロゲは呪文により、人の色へと変えた。


 ゾロゲはダハーカをコルネオと名づけた。


 コルネオはその成長のなかで、ゾロゲからこの500年の人間と魔族の歴史を学んだ。


 天魔王ルルブルはその後死に、彼女と勇者との間に新たな天魔王が生まれたこと。


 魔族と人間界の和解は続き、互いを干渉しない、平和な時代が続いていること。


 ただし、この関係は魔界がすべて影に潜むことで成立しており、いまの人間は、かつて人間と魔族が和解したことも知らなければ、魔界そのものが存在することも知らないこと。


 そんな今日では人間に知られずひっそり暮らす魔族でも、コルネオが悪魔だった頃、魔界で否定されていた善なる心が、当たり前の感情となっていること。


 だから、今では魔界でも、家族や仲間を助け合い、支え合い、愛し合っている、ということ。


 やがて、コルネオは少年へと成長した。


 ゾロゲはあるとき、少年コルネオに聞いた。


ーーーお前の夢はなんだ?


 ダハーカの願いは、1つだけだった。


 それは、世界の完全なる滅亡。

 完全なる闇。


 人間に魔界の怖さを教え、滅亡させる。そして、そんな魔界全ても、最後には滅亡させること。


 あまりに邪悪な望みをゾロゲに伝えたことを、コルネオは少し心配になった。


 しかし、それは杞憂だった。


 ゾロゲの望みもまた、コルネオと同じだったのである。

 

 

 



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