カユイ
むずり、と耳の奥が疼いた。
ベッドに寝転がっている時、プツプツとした痒みが生じた。
おれは耳につけていたイヤフォンを外して、指を突っ込もうとした。
しかし、突っ込む前にその痒みは治まり、おれは持ち上げた心もとない手をまた下げた。
くしゃみが出そうで出ない時のような若干の苛立ちが湧いたが、痒くないならいいやとおれは再び音楽を再生した。
むずりむずり。
取引先へメールを打っている時、再び痒みを感じた。
謝罪メールを送っていたことも相まって、おれは苛立ちまぎれに強く耳を引っ掻いた。
しかし、そんなおれを嘲笑うかのように痒みはふっと消え、おれはただ伸びた爪の先で耳の皮膚を傷つけただけだった。
むずりむずりむずり。
イライラする。
出来の悪い部下を怒鳴りつけ、気の利かないウェイトレスに嫌味を言う。
耳が痒い。
これは何かがおかしい。
おれは耳鼻科へ行く決心をした。
むずりむずむずりむず。
痒い。
医者に診てもらったが、どこにも異常はないようだ。
「ストレスかもしれませんね」
医者は、とりあえず...と軟膏を処方した。
これを塗れば少しは和らぐだろうか。
おれはむずむずと疼く耳を抱えて、帰路についた。
むずりむずりむずりむずり。
ー痒い!
おれは叫びぐしゃぐしゃと頭を掻きむしった。
痒みを感じる頻度が増えた。
痒みもどんどん強くなっている。
あれから何度も耳鼻科へ行き、医者が悪いのかと別の病院にも行ったが皆「何も異常はありません」と口を揃える。
「むしろ、わずかな耳垢すらない異常なほど綺麗な耳です」と。
なら何なんだ一体!!
背を丸め威嚇してくる猫を蹴り飛ばし、おれは叫んだ。
むず
むずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむず
むずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむず
むずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむずむず
せいしんかにもいった
のうにいじょうがあるのかとのうげかにいった
ないかもひふかもほとんどすべてのかにいきしんさつしてもらった
えむあーるもとったしれんとげんもとった
しかし、どこのいしゃもふしぎそうにいうのだ。
「何も異常はありません」
それじゃあこのかゆみはなんなんだ。
耳のみならず、全身の皮膚を切り裂き、髪の毛を引きちぎり、目の前の人間も物もぐちゃぐちゃに引き裂いて!潰して!無残に殺したくなるようなこの痒みは!!
ああかゆい
ああああああああああああああああああああ
痒い痒い痒いかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイカユイ!!!!
だれかたすけて
真っ白な病室で、緑色の服を着た男は、自身を傷付けぬようベッドに固定されていた。
ブツブツと訳の分からないことを呻き、叫ぶ。
「あの患者さんってちょっと不気味よね」
そう言って眉をひそめる看護師を咎めるように、もう一人が顔をしかめた。
「そういうこと言っちゃダメでしょ。私たちはナースなんだから」
さ、仕事に戻りましょ。
カラカラと注射針や薬液の乗った台を押して看護師たちが去る。
男は未だ病室でブツブツと呟いていた。
かゆいかゆい
ひたすら呟きつづける男の耳の中。
むずり、と嘲笑うように何かがうごめいた。
耳が痒かったので衝動的に書きました。
痒みって何かこう......嫌ですね!