5.いつかまた脅威が現れた時に
『暗黒森林』人間がそう呼ぶこの森にはエルフの民が自然と共生している。
森と水と光に感謝して。そしてそれらと共に長い長い時を生きて来た。必要なものは全てこの森で集められる、森の恵みを頂き…そして感謝をささげるのだ。そう…エルフの民にとってこの森は生きるために必要な存在であり、自分たちの世界であった。
そんなエルフの村で育ったアマンは今日も森で生きる。そして明日も、明後日もそうなるはずだったのだ。
「なんだ…あの光は?」
だが、そんな当たり前で…自分の人生であるはずの世界はいとも簡単に崩れ去ることになる。
たった一人の男の出現によって。
「恐ろしい光だ…」
アマンは長老の声を聴いた、その声には恐怖が滲んでいた。アマン自身は気が付いていないがあの光を見た瞬間から自身の動悸も普段より早くなっている。
「あの方角はっ…」
幼い頃より数十年を共にした腐れ縁の友人が今日恵みを授かっている筈、そう言おうとしたが長老によってその言葉は遮られた。
「ゆくなッ…!」
「っ…!」
何故?そんな言葉は口からは出てこなかった。理由なんてわかっている、危険だからだ。人間の村で教育を受けていない自分にだってそれくらいわかっているのだ。それでも…
「バドゥ!今行く!!」
行かなければならない。
自身の事など知ったことでは無い。友人が危険な時は身を挺してでも救え、それを教えてくれたのは長老じゃないか。バドゥが居なくなってしまうかもしれない、そう考えるだけで気づかぬうちに震えていた足の震えは消え去り自身を友人の元へと運んで行く。
「だめだっ!ぐっ…なんて足の速い…お前達!アマンを追うのだ!!」
「「「はっ!」」」
長老も鬼畜ではない、だからこそ追っ手を出した、勿論アマンと共に恵みを頂きに行った者達を無事に連れ戻す為に。そしてその意図に気づかぬほど長老の出した追っ手は馬鹿ではない。もう何百年と生きたエルフなのだ、長老との付き合いも長い。長老がその3人にアマンを追うように言ったのは信用しているからだ。
「祈りの準備をせよ!迅速に!!」
そして村に残った長老はアマン達の無事を祈るために祈りの儀式を始めた。まだ祭具は準備出来ていない、だがそれでも祈りを森に捧げるべきだと老いぼれてなお聡明な頭で判断した。この森に、エルフの世界を守るために。
「親愛なる森の精霊アトゥスよ!!どうか私の祈りを聞いて欲しい!」
長老が祈りを捧げている途中でまだ若いエルフの男が急いで蔵から取り出した丸い石のような祭具を渡す。この祭具と呼ばれている物はアトゥスコアという物である。かつて実在した精霊アトゥスの…文字通りコア、魔石だ。
精霊アトゥスとはかつて実在し、エルフの民と共に侵略を企てる人間達と戦った本物の精霊だ。その戦いでアトゥスは人間が使う謎の武器により致命傷を受け存在を保てなくなってしまった、その際に自身の力の源であるコアを同じく森を守るために戦った同胞に託したのだ。
『いつかまた脅威が現れた時に』
と言い残して。精霊アトゥスは消えてしまったのだ。
「……もう一度、私たちに力を貸してくれ…!!」
直後、エルフの民たちは温かい"黄金"の輝きに包まれる。何もかもを包み込むような暖かなで、煌びやかな光に。
「おおッ…!」
「これが精霊アトゥス…!」
「きれいな光だ…」
エルフたちは歓喜した。この超常的な輝きがかつての英霊の力なのだと。新たな伝説が生まれる瞬間に立ち会えるのだと。
これが、救いの輝きなのだと。
「」
「」
「」
そしてエルフの里と、暗黒森林は消滅した。
ファーストが放った"黄金"の一撃によって。
×××××××××××××××××××××
「この暖かいひかりは…?」
私は森を直進する最中、まるでおとぎ話に出てくるような黄金の輝きに包まれる。普段ならば深夜のごとく暗い森さえも暖かい光をこぼしている。
「もしや、精霊アトゥスなのか?」
背後から声が聞こえる。振り返ると、そこにはよく見知った者が3人居た。きっと長老が私に追っ手を掛けたのだろう。でも敵意を感じられない所をみるに恐らく一緒にバドゥ達を助けるために追いかけてきたんだろうと察することが出来た。
「これは…木々が光の粒子に…おい!!?伏せろ!!!?」
次の瞬間、3人のうち誰かが魔術を行使した。見たことの無い魔術だった。
「へ」
周囲が光に包まれていくのが眩しくて目を閉じた私に感じられたのは強い衝撃だった。そしてころげ落ちる感覚。
「いってて…」
痛みに悶えつつも目を開くと私はいつの間にか穴の中に落ちていた。穴の中からは空が見える。
「随分と落ちたみたいね…」
穴の中から見える空は遠く感じる。…いや、空?おかしい。それはおかしいんだ。
「なんで森の中にいたはずなのに空が見えるの…?」
恐ろしい予感が頭を過る。その予感を振り払うように私は必死に穴の壁を上る。爪に石が挟まり痛いけれど、そんなことを気にしている余裕は無い。
そして、やっとの思いで地上に出る事が出来た。できてしまった。出来る事ならこんな事実に晒さたくは無かったが。
「なによ…これ…!!!」
必死の思いではい出た地上に、森はもはや存在していなかった。
一緒に来たはずの3人も、先ほどまで暖かい光を発していた木の葉も…何も無かった。村があるはずの方角を見るが、やはりそこには何も無い。あるのは信じられないほど遠くに見える大きな山だ。
「うそよ…こんなの…」
あまりの虚しさに涙すら出てこない。もう、何もない。村も、腐れ縁の友人も…そして私たちの森も。こんな、偽物の世界に私だけがぽつんと一人取り残された。
「ーー!---!」
話声が聞こえる。こんな偽物の世界に。その声は何やら楽しそうだ、こんな状況なのに。
「ッ!」
身体の奥底から怒りが沸きだすのを感じる。生き残って喜んでいるだけなのかもしれない、この理不尽な状況に頭がおかしくなってしまっただけなのかもしれない。だがこの怒りは…理不尽だと理解しているのに、収まらない。一発ぶん殴らなければ、収まらない。
私は、叫んだ。
「こ、これをやったのはお前かッッ!!?!?」
きっと私の声は震えていただろう。やっと涙が出そうだ。きっと全て吐き出せば少しは楽になる。
でも私は叫んだことを酷く後悔した。こちらに気づいたらしい金髪の男と目があった瞬間に。




