21.お引き取り下さい速やかに
「はぁ…私はなんて運が無いのでしょう…」
「まぁまぁ…仕方ないよ、切り替えていこう?」
今日は定期的に冒険者ギルドで定められたパーティーが暗黒森林を探索しなければならない日。そう他ならぬ私、キリミが属する銀級冒険者パーティー「スクランブルシープ」の担当日である。
本来ならばまっさらになった暗黒森林跡地を適当に歩き回って終わりの筈が…さっき来てみるとこのありさまだ、なんだこの建物は。この巨大な協会のような建物はまるで生きているかのように魔力を揺らがしている、新種のモンスターなんだろうか?今のところ何か異常な点はないけれど。
「あれをどう思いますか…?」
「協会…ではないよね」
単純なモンスターならまだよかった、ただ討伐するだけでいいのだから…腕にはある程度自身があるし本当に今からでもいいからただのモンスターになってほしい。よりによって何故建物なんだろうか?もし入って閉じ込められでもしたら逃げる事すら出来ない…最悪、本当に運が無い。
「キツレ、今からでも引き返しませんか…」
「だめだよキリミ、これも立派な仕事なんだから」
たった一人の友達でありたった一人のパーティーメンバーのキツレは知的好奇心が大変旺盛で、一度気になると実際にやってみたり調べてみたりしないと収まらない。キツレのせいで一体何回死にかけたか分からないけれど、それでも今まで何とか生き残ってきたので信頼はしている。
でも今日のは明らかに危険度が違う、帰りたい。
「応援を呼んで再突入しましょう」
「ごめんくださぁーい!」
「キツレエエエェェェェ!?」
キツレが大声で協会に呼びかけると目の前の大きすぎる扉が勝手に開く。わ、私は触っていませんよ!どうなっても知りませんからね!
「はーい!あ、こんちわー」
「おや、こんにちは!あなたがこの教会を?」
「きつ、キツレ!もう少し慎重にですね…!」
こんな得体の知れない協会を一晩で作り上げるような奴がまともなわけ無いんだからもっと慎重に動いて欲しいいィィ!!下手したら私達がどうなるか分からないのだからもっとこう…とにかく慎重に…!
「ハハハ!ご明察ゥ!!」
ちょっと色の薄い黒髪の男はとても気分が良いのか高笑いをしている…?というかそんなに笑うところありましたか…?えぇ…怖い、なんで笑ってるのこの男…?得体が知れないってだけでホント無限に怖い!!
「へぇ!すごいですね!」
「リズム天国…いやなんでも無いわ。それで何か用かな?」
よくわからない事を呟いた男だったけど、すぐに本題へと話を続けてくれる。こちらとしてもさっさと帰りたいのでちゃちゃっと話だけ聞かせて欲しい。
「え…えとですね…気が付いたらそちらの建物が建っていましたので街の皆さんが怖がっているのです…」
「そんな感じなんですよー」
「まぁ確かに突然コレ出現したら怖えわなぁ…」
どうやら私が説明した内容に納得している様子の男、今のところは襲ってくる様子はないけれど…かと言って注意はしておかないと。
「まぁ…我慢すればいいんじゃね」
「えぇ…そんな」
「できれば他のところに移して欲しいんだけど…」
なんてことを言うんだこの男は。まるで関心のない様子、こちらがどれだけ困っていようと平気で通り過ぎるタイプの瞳をしている…気がする、見て見ぬふりどころか見ながらスルーをするような…
「え、ヤダよ。嫌ならそっちが移動すれば良いだけじゃね?」
「それが出来たら苦労はしていませんよ…」
「それはこっちも同じなんだけどなぁ」
なんか感じの悪い男…性根が腐っているんじゃないだろうか?いやこれは絶対腐ってる!!
「こちらには沢山の人が住んでいます…!少人数派の貴方が移動したほうがより多くの人が幸せになれるんです」
「人数的に多いそっちのほうが労働力が多いんだから簡単に移動できる気がするけどなぁ…?」
ああいえばこういう…聞き分けの無い子供と話している気分だわ…ホント運が無い。
「そもそも貴方が勝手にやってきたのですから、もともと住んでいる私達に迷惑をかけないでください」
「でも君たちも勝手にここに住んでるじゃないか」
余りに幼稚な答えを繰り返すので流石の私もイライラしてくる。今どきの子供ですらここまでひどくありませんよ。
「私達は国に許可を頂いてるんですよ!」
「でも国が勝手にそんなことやってるんだからやっぱり俺には関係無いよなぁ」
「キリミ、その辺にしておいた方が…」
キツレに止められましたがこの男だけは許しておけません、あろうことか私たちの国を馬鹿にしたのですから。
「ですが国が無ければ、規律が無ければ私達人間は生きていけないのですよ!弱者でもお金を稼げる環境があり、そしてそのお金で生きる事ができるのです!」
「うーん…君たち生きるって事に対しての理解が浅いなぁ」
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「はい?」
目の前に居るシスターっぽい女が素っ頓狂な声を上げる。
見事なアホ面だね!
「何故人間が生きてるか分かってる?」
「な、何故生きてるか…?それはもう愛する人に出会って…子孫を残して最終的に幸せになるため…でしょうか」
はい~?違う違う!今聞きたいのは外向けの色々なところに気を使った言葉じゃあないんだよなぁ、いや待てよこの人本気でコレ言ってるのか!?
「いやいや…可笑しな事を言う人だなぁ。そもそも、生きるなんて事は全くの無意味なんだよ?」
「なんという事を…そんなはずがありません」
「人間なんてたまたまそういう環境があったから勝手に生まれて生きているだけだし、死んだら無くなるだけ」
「で、では何故私達は生きているというのですか」
「そんな事知らないよぉ~!それは自分で見つける事でしょ?人間いつだって死っていう逃げ道があるもんだよ、それを選ばないからには何かあるんだろうねぇ」
そう、何もかも意味はない。少なくとも俺はそう思っている。結局は全て死に、いつか忘れられて無くなる。そして話を続ける。
「そもそもさ、意味が無かったらやっちゃいけないのかい?理由が無いとやっちゃダメなのかい?それ、誰に言い訳してんの」
「それは…」
「思いつかない?じゃあ君はやっぱり勝手に生きてるんじゃないかな、みんなそんなもんだよ勝手に生きてるだけ、意味なんて無くてもね」
「…」
「はいつまりは君も結局勝手にここに住んでるって事ですお引き取り下さい速やかに」
うわすっごい顔…こっわ。反論できない方が悪いんじゃね?頑張って学力を上げよう!そうすればこうやって話の途中で混乱することもなくなるよ!
「それって結局あなたも勝手にここに住んでるって事なんじゃ…」
「ほっほう。バレたか!まぁでもこれで全ては無意味って事も少しは理解してくれたかな?」
「うぅ…キリミ、めんどくさいねこの人」
ははは、あきらめろあきらめろ!
「折角だからもっとめんどくさい事を教えてあげよう。実は生きる事にはちゃんと意味もあるんだよ」
「はいぃ!?」
「何の意味も無かったらそもそも生き物なんて出現しないでしょ。意味を狭く考えすぎなんだよ、そもそもこの言葉自体の可能性はとても多いんだ、だからすべての事には必ず"そうなった理由"がある、つまりは意味があるんだね」
「意味が分からない…あ、いま正しい使い方した気がします…」
「ちなみに俺は平気で嘘付くからね」
どんどん難しい顔になっていく両名…シュールだね。よかたな。
「嘘ついてるけど本当の事も言ってるよ、つまりはどれが噓かを見破るまでは同時に噓と本当の可能性が存在していることになるね」
「???????嘘であり真実だなんて…む、矛盾しているではありませんか!」
「え?矛盾しちゃダメな理由なんてある?」
「それは…どっちが本当で嘘かわからないじゃないですか」
あったま硬いなぁ~異世界だとこんなもんなのかねぇ。
「はぁ…じゃあなんで真偽が確かでないとダメなのさ」
「いろいろと困るじゃないですか」
「全て意味のない事なのに?」
「さっきは意味もあると…!」
「さて…そもそもそれは嘘か真実か…どっちだろうねぇ」
「ぬわあああああああああああん!!」
シスターっぽい女、キリミだっけ?は頭をくしゃくしゃにしながら悶えてる。ははは、やっぱり難しいかぁ。
「貴方はめちゃくちゃだ!!もういいです!帰ります!!」
「あはは、だからこそ俺は此処に来たんだろうなぁ」
今でも覚えてる、あののっぺらクソ野郎の言っていたことを。
【私の代わりにその世界を滅茶苦茶にして欲しいんだ】
俺が呼ばれた理由なんて考えればすぐわかる。良く子供の頃からお前はめちゃくちゃだと言われていたしね。俺はただ全部許容しただけなのに。
「ちょ、待ってよキリミ!!」
「バハハーイ」
女二人組はそそくさと街へ帰っていた。…そういえばあの人たち何しに来たんだ…
「創造主様、あの者達を殺しますか?」
「落ち着け落ち着け…殺さないから」
ファーストの顔がかつてない程めっちゃ怖い…でもやっぱり元がイケメンだから何故か絵になるなぁ…
「はぁ…矛盾も嘘も本当も生も死も全部許容することはそんなに難しい事なんかねぇ…」




