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姉のコロナに巻き込まれまして  作者: 優木凛々
7/11

そこは異世界だった



4月26日日曜日、夕方。

姉の家の探索を終えた俺は、リビングにある大きなソファにぐったりと座っていた。


姉が、オーガニックに拘っているのは知っていた。

しかし、所詮は、同じ日本に住んでいる同じ日本人。

住んでいる家や生活に大差はないだろう、と、思っていた。



しかし、現実は違った。



まず、一般的な市販品が一切ない。


友達の家に遊びに行くと、どんな家でも必ず、洗剤や、ハンドソープ、台所洗剤などの見慣れた市販品がある。

うちだったら、洗剤はアタックだし、ハンドソープはキレイキレイ泡、台所にはJOYがある。

しかし、姉の家にはそういったものが一切ない。

多分これだろうと思われる物は、全て見たこともないような外国産で、説明は全て外国語。

つまり、洗剤などを使う場合は、この後ろに書いてある外国語を読み解いて使う必要がある。


これは調味料も同じで、見知ったブランドが一切ない。

しかも、顆粒ダシの替わりにあるのは、かつお節の塊とかつお節削り器、利尻昆布だ。

味噌汁を作る度に、かつお節を削るとか、サザエさん家かよ。


そして極めつけは、白い米がない。

全部、茶色い玄米だ。

ネットで調べたところ、玄米は白米に比べて栄養価は高いが、上手く炊かないとマズイらしい。


米の存在意義は ” 手軽に炊ける、美味い、腹が膨れる “ だと思っている俺には、何で手間をかけてマズイ米を食うのか理解できない。

そもそも、玄米を上手く炊く自信なんて全くない。


はあ……。

こりゃ、米は買ってこないと駄目だな。


思わず遠い目をしていると、母さんから電話がかかってきた。



「優真、お母さんだけど、大丈夫?」



どうやら、姉の家が普通の家じゃない、と、いうことを思い出して、心配になったらしい。

俺はため息まじりに言った。



「あんまり大丈夫じゃないな。家にあるものが意味不明だよ」


「柚香、色々拘ってたものね……。あんた、味噌見つけた?」


「味噌?」


「あの子、味噌は手作りしてたから、多分、押し入れの中にあると思うわよ」



味噌を手作り……。

会社の女の子に手作り味噌の話は聞いたことはあったが、まさか自分の身内が作っていたとは。

もしかして、調味料が少ないのって、手作りしてるからか?


不安になって、他に何か変わったことはないか尋ねると、母が考えながら言った。



「そうねえ。使うかどうか分からないけど、多分小麦粉もないわよ。グルテンフリー(*1)もやってたから。あと、ギーを使っていたと思うわ」


「……なに、そのギーって」


「体に良い、バターの上澄みね。ガゼインフリー(*2)らしいわよ。あと、ココナツオイルなんかも使ってたと思うわ」


「……」



俺は、黙り込んだ。

そもそも単語の意味が分からん。

しかも、何で全部横文字なんだ?

コロナの「ロックダウン」とか「クラスター」もそうだけど、どうして日本人は横文字が好きなんだ?


聞いていると頭が痛くなってくる気がして、俺はしゃべり続ける母さんに言った。



「ありがとう。母さん。また分からないことがあったら電話するから、こっちのことは気にしないで体休めて」






***********




電話を切った後、俺は脱力してソファに寄り掛かった。


姉が、オーガニックだの、無添加だのに拘っているのは知っていた。

しかし、ここまで徹底しているとは知らなかった。


鍋やフライパンも変な形だから料理しにくそうだし、冷凍庫も ” Organic “ と書かれた謎肉でパンパンだ。


こりゃ苦労しそうだ、と、溜息をついていると、後ろからパタパタと足音がした。



「ゆうまくん! あそぼ!」



亜里沙が、嬉しそうに俺の膝に飛び乗ると、くっついてきた。


はあ。可愛いなあ。

姉はあんなに憎たらしいのに、なんで姪はこんなに可愛いんだろう。


俺は、亜里沙を頭を撫でながら尋ねた。



「亜里沙は、オーガニック好きか?」



特に考えてした質問というより、自然と出た質問だ。


亜里沙は、うーん、と、首を傾げた。

そして、俺の膝から降りてソファに座ると、耳元にひそひそ声で言った。



「あのね。ないしょにする?」


「え? うん。内緒にする」


「じゃあ、おしえてあげる。ありさ、オーガニックきらい」



まさかの答えに、俺は目を見開いて亜里沙の顔を見た。



「嫌いなのか?」


「うん。きらい。まずいもん」



うえー、と、いう顔をして言う亜里沙。

俺は思わず噴き出した。



「じゃあ、亜里沙は何が好きなの?」


「ありさは、ほいくえんのおやつ好きだよ。うちのとちがって、とってもおいしいよ」



保育園おやつを思い出したのか、にまにまする亜里沙。


そうだよな。

いくら栄養があったって、美味くなけりゃ、楽しくないよな。


俺は、すっきりした気分で立ち上がった。

「姉の拘りには付き合わない」っていう約束だし、ここは開き直って、自由にやるか。



「よーし! 亜里沙。買い物に行こう。今日は、好きなものを食べよう!」



亜里沙が喜んで手を叩いた。



「わあい! じゃあ、ありさ、ほいくえんカレーがいい!」



つまり、オーガニックじゃない、普通のカレールーで作ったカレーってことだな。

お安い御用だ。



「分かった。じゃあ、マスクしておいで」


「はあい!」





その日の夜。

俺と亜里沙は、普通の白米と、普通のカレーを腹いっぱいになるまで堪能した。








*1:グルテンフリーとは、小麦などに含まれるグルテンを摂取しない食事

*2:ガゼインフリーとは、主に乳製品に含まれるガゼインを摂取しない食事


ちなみに、ここでは書いていませんが、ボーンブロスとかいうスープストックやら、マヌカハニーとかいう蜂蜜なんかもあります。



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― 新着の感想 ―
[一言] ナチョラル=未精製=灰汁が多い、だから、お子様舌に合わない味になるのは確か。 料理の腕前を上げれば、美味しくなるんだけどな。
[一言] うわぁ……。こ、これはキッツイですねぇ。 もちろん、お姉さんは家族が大事だからこそよかれと思って手間を惜しまず実行なさっているんでしょうけど……。 でもこれをすることで、一生大病しないとか…
[一言] ゆうきさん……男だったんすね……女性だと思っとった(´◉ω◉` ) 姉、オーガニックをなんか勘違いしとらん?って思ってしまいました。マジでろくでもない( ○ω○ ) オーガニック食品や用…
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