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姉のコロナに巻き込まれまして  作者: 優木凛々
2/11

コロナ vs オーガニック



2020年4月13日月曜日。

お昼過ぎ。


昼食を食べながらスマホを見ていると、母からLINEが来た。



「良一さん、コロナ陽性。すぐ連絡されたし」



……この年代の人って、どうして急ぎのメッセージが電報風になるんだろうか。


心の中でそんなツッコミを入れながら電話すると、かなり動転した母が出た。



「良一さん! 陽性だったんだって! コロナよ!」



母の話では、今朝になって症状が出て来たため、入院することになったらしい。


姉さんは? と、問うと、母が暗い声で答えた。



「柚香もびっくり仰天よ。急いで保育園に亜里沙ちゃんを迎えに行ってたわ。今頃検査してるんじゃないかしら」



亜里沙ちゃんとは、5歳になる姉の娘で、俺の姪だ。

良一さんが陽性だったら、妻である姉と娘の亜里沙ちゃんもコロナの可能性が高い。


可愛い亜里沙ちゃんが咳で苦しそうにしている姿を想像して、俺は顔を顰めた。

うう。可哀そう過ぎる……。

姉はどうでもいいけど、亜里沙ちゃんだけは陰性であって欲しい。


「それでね、優真。あんたにお願いなんだけど、今夜柚香に電話して欲しいのよ。きっと参ってると思うのよね」

「ええー……」


俺は、げんなりした気分になった。


姉・柚香は、常に強気で、いつも「あんた無農薬米にしなさい!」とか「ヨガ最高よ!」とか、自信満々に色々勧めてくる少々面倒臭い存在だ。

理不尽だし、八つ当たりも酷い。

こんな状況で電話したら、長いに決まってる。


黙り込む俺に、母さんはため息まじりに言った。


「クセはあるけど、たった1人のお姉さんでしょ。こんな時こそ支えてあげてよ」


……まあ、そうだな。

事態が事態だよな。

こんな時こそ助け合いか。


「分かった。9時くらいに電話するよ」

「ありがとう。よろしくね」




********




その日の夜9時。

俺は、意を決して、姉に電話をした。


プルル「はい、もしもし!」


おう。

ワンコールも鳴らないうちに出たよ。

これは電話を待ち構えていたな。


それにしても、落ち込んでいると思いきや、妙に勢いがある。

意外と大丈夫なのか?


「もしもし、姉さん? 優真だけど、大丈夫?」


そう聞くと、姉が物凄い勢いでしゃべり出した。


「優真! もう! 聞いてよ!」


……うん。

やっぱり長くなりそうだ。


俺は、「それでそれで?」と、合いの手を入れつつ、冷蔵庫から缶チューハイを取り出した。

簡単なつまみも作りたいところだが、流石に自重する。


そして、缶チューハイを2本空けた頃。

ようやく姉のしゃべりが途切れたので、俺は30分振りに「そうだね」以外の言葉をしゃべった。


「ええっと、つまり、良一さんの会社の人が、夜の街でコロナにかかって、症状があるのに黙って出勤してたってこと?」

「その通りよ!」


30分の話が、なんと1行で終わってしまった。


ちなみに、もう少し詳しく書くと、



3月末頃、良一さんの同僚AがBと夜の街に遊びに行く

すぐに風邪症状と味覚障害が出るが、黙って出勤

夜の店で集団感染が確認され、ABがコロナ検査

Aがコロナ陽性

濃厚接触者を調べる

Aの隣の席だった良一さんと、もう1人が陽性診断

今朝になって良一さんの咳が止まらなくなり、高熱が出る

急いで入院、姉と姪の亜里沙ちゃんも検査を受ける

結果が出るまで自宅待機(今ここ!)




「こんな時期に風俗に行くなんて、最低よ! だから男は不潔なのよ!」


憤る姉。

いや、俺も男だし、夜の店は風俗だけじゃないと思うんだけど。


「大体良一さんも良一さんよ! 消毒液持たせたのに、なんでうつるのよ!」


いや。そんな無茶苦茶な。

不幸な事故みたいなもんじゃん。


でも、ここで正論を言っても火に油を注ぐようなものだ。

俺は話題を反らすことにした。


「それで、今日検査受けてきたんだろ? どんな感じだったの?」

「え? あ、ああ。検査ね。長い綿棒みたいなの鼻から入れられたわ」

「結果が出るまで心配だね」

「まあね。でも、多分大丈夫だと思うのよね」

「え? そうなの?」

「良一は不健康なカップラーメンとか食べてるけど、私と亜里沙はオーガニックだし、糖もほとんど取ってないから、免疫力が強いと思うのよ」

「……はあ」

「だから、そんなに心配してないのよね、実は」


すごいな、この自信。

オーガニックって、そんなに効果あるんか。


「それより、あんた! 米は無農薬にしてる? 糖質は取り過ぎると体が糖化するのよ!」

「……(またはじまったよ)」




……と、まあ、こんな感じで、姉が言いたいことを言い終わって電話を切ったのは、何と12時半だった。


姉はすっきり、俺はぐったり。


いやー。マジ疲れた。

もう寝よう。


俺はヨロヨロと洗面所に行くと、歯を磨いてベットに入った。


そして、母にLINEを送った。


「姉さんに電話した。3時間半、ものすごく元気にしゃべってたから、多分大丈夫。」



あー、疲れた。もう寝よう。





―――しかし、その2日後の昼過ぎ。

俺は、姉だけが陽性だったという知らせを受けるのであった。






ちなみに、家族の誰もアレルギーや疾患を持っている訳ではありません。

オーガニックにしているのは、あくまで姉の拘りです。


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