男同士の秘密
霜月透子事務局長のひだまり童話館「ぺたぺたな話」に参加しています。
今日はママはお出かけだ。いつも仕事と家事で忙しくしているから、パパと僕がお休みをあげたんだ。
「お昼はお好み焼きだぞ!」
ソファーでテレビを見ていたパパが宣言した。テレビでお好み焼き特集をやっていたので、きっと食べたくなったんだ。パパっていつもテレビで見た食べ物が食べたくなるんだ。単純だよね。
「お好み焼きを食べに行くの?」
僕はお好み焼きが大好きだ。だから、とても嬉しい! それに、僕もテレビで見た食べ物が食べたくなるんだ。これって遺伝って言うんだって。ママが笑っていた。
「なら着替えなきゃね!」
うちの近所にはお好み焼き屋さんは無いけど、パパとなら車で行ける。ドライブとお好み焼き! ママもお休みだけど、僕とパパもお休みを楽しまなきゃね。
「いや、ちょっと待って……」
パパは冷蔵庫の中に頭を突っ込んだ。何だか嫌な予感がする。
「キャベツ、卵、豚肉……おっ、お好み焼き粉もある!」
「えっ、もしかして作るの? 台所を汚したらママに叱られるよ」
前のママのお休みの日に、僕とパパはカレーを作ったんだけど……ガスレンジと床にはカレーがついちゃって、ママを喜ばすどころか迷惑をかけちゃったんだ。
言い訳をするなら、パパと僕もカレーがついたガスレンジや床をふいたんだよ。
「まぁ、カレーを作ってくれたのね。ありがとう!」
ママは、一応は喜んで食べてくれたけど、食べ終わった瞬間に台所を掃除し始めたんだよね。
ママとパパと僕のきれいさの基準が違うんだ。これは僕の部屋の掃除でもよく叱られる。僕的にはちゃんときれいだと思うんだけど、ママったら机の下とか見ちゃうんだもん。
「今回はちゃんと片付けるから大丈夫だよ。それにママは関西出身だから、お好み焼きは大好物なんだぞ。タネは冷蔵庫に置いておけるし、帰って来たら焼いてあげよう」
パパは張り切っているけど、大丈夫かな? ママはお好み焼きにはうるさいんだ。お好み焼き粉やお好み焼きソースをいつも買い置きしているぐらいなんだから。
「パパはお好み焼き作れるの?」
お好み焼きは家の定番メニューだけど、いつもママが焼いていた。パパが焼いているの見たことない。
「失礼だなぁ、お好み焼きぐらい作れるさ。パパは独身時代に自炊していたんだぞ」
僕はキャベツを何枚かめくって、洗うのを手伝った。切るのはパパだ。
「あとは……卵をボールにわってくれ」
子どもに手伝わせるのってなかなか難しそうだ。刃物は手を切りそうだし、火を使うのも火傷しちゃいそうなんで、パパはあれこれ考えながら僕がやっても問題なさそうなのを指示する。
「僕だって切れるんだけど……」
ママは時々僕に野菜を切らしてくれる。でも、パパはママがお休みの間に僕が怪我でもしたら大変だと子ども用の包丁を使わせてくれなかった。
ボールに割った卵をかき混ぜて、そこにお好み焼き粉の袋に書いてある分量の水を入れ、粉を入れて混ぜる。そして、ちょっと大小のあるキャベツを入れたらタネは出来上がり。
僕が切った方がキャベツはそろっていたと思うけど、それは言わなかった。だって、早くお好み焼きを食べたいからパパともめたくなかったんだ。
「さぁ、後は焼くだけだ!」
パパはホットプレートに油をひいて、タネをおたまでジュとおいた。小さいのが僕の。大きいのがパパのだ。
「豚を並べて……うん、これで焼けるのを待つだけだ!」
ホットプレートの上ではお好み焼きがジュウジュウいってる。
「ねぇ、そろそろひっくり返さなきゃいけないんじゃない? 焦げちゃうよ」
僕は鼻をひくひくさせた。もう焼けている! 僕はテーブルの上のコテを持った。
「いやぁ、まだまだだ!」
僕はひっくり返したいのに、パパは僕のテコを取り上げた。
「生焼けだとお腹こわすぞ」
ぶーとふくれたけど、ちょっとしたらパパも「そろそろ良いかなあ」と言い出した。だっていいにおいがしているんだもん。
「ひっくり返すのは気合だぁ!」なんて言いながら、パパは大きなお好み焼きをテコでひっくり返した。
「ああっ……」大きなお好み焼きはちょっと崩れた。
「僕がやるよ!」やはりパパには任せておけない。小さいお好み焼きは僕のだ。
「いや、コツはつかんだから大丈夫」なんて本当かな?
「ほら、ちゃんとできただろ!」
パパは「えっへん!」偉そうにしているけど、ママなら二枚ともちゃんとひっくり返したと思う。多分、僕だって……
「美味しそうだねぇ」
僕とパパはお好み焼きをテコでぺたぺた叩く。僕のはちゃんとした丸いお好み焼きで、パパのは大きくてちょっと崩れたお好み焼きだ。
「おいしくなぁれ、おいしくなぁれ、ぺたぺた、ぺたぺた、ぺたぺた……」
おいしくなるようにおまじないの歌を僕とパパは歌う。その歌に合わせるように、ジュウジュウジュウと豚が焼ける。
「もう良いんじゃない?」
「そだな!」パパも今度は二枚ともちゃんとひっくり返した。焼けて前よりも崩れにくいみたいだ。
お好み焼きソースをぺたぺたとハケでぬる。青のりとかつお節をかけたら出来上がり!
「本当はテコで食べるんだけど……ホットプレートが傷ついちゃうからな」
お皿にうつして「いただきます!!」
「美味しいね!」
「美味しいな」
お好み焼きは僕のお腹に入った。パパもあっという間に食べちゃった。
「もう一枚焼こうかな?」
「僕はママと一緒に食べたいな」
「そうしよう!」
後かたづけは、僕とパパ的には完璧にした。でも、ママから見たらどうなんだろう? ちょっと不安だ。
「ホットプレートをテーブルの上出したまんまだと、片づいた感じにならないね」
「でも、ママと一緒にお好み焼きを食べたいだろ」
そうこうしているうちにママが帰ってきた。僕とパパはお好み焼きを焼いてあげた。
「おいしくてなぁれ、おいしくなぁれ、ぺたぺた、ぺたぺた」
僕とママとパパの小、中、大のお好み焼きをぺたぺたテコで叩きながら、僕とパパがおまじないの歌を歌っていた。
「ダメよ! お好み焼きを叩いちゃ!」
おいしくなるおまじないのテコはママに取り上げられちゃった。
「お好み焼きはふわふわに焼かなきゃいけないの」
お好み焼きの主導権は、パパからママにうつった。
僕とパパは、ちょっと不満だったけど、ママが焼いたお好み焼きはふわふわでとっても美味しかった。でも、僕はパパと焼いたかたいお好み焼きも美味しかったと思う。
「お好み焼きは叩いちゃダメなんだね」
「でも、おまじないの歌は楽しかったよ」
僕とパパは、きっとママのお休みの日にまたお好み焼きを食べるだろう。
そして、僕はぺたぺたとテコでお好み焼きを叩きながら「おいしくなぁれ、おいしくなぁれ、ぺたぺた、ぺたぺた、ぺたぺた」とパパと歌うに決まっている。
「これは男同士の秘密だ」
パパと僕は、こっそりと指切りをした。
おしまい