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あの後、応接間に着くなりグラオス達を呼びに行くとのことでシルヴィー様と別れた私は現在進行形で軽く深呼吸をしながら応接間のソファーに腰掛けていた。
この際、私が先程からずっと考えているのはどのようにグラオスに自身がティリアであるということを告げるかだ。
きっとグラオスのことだから急に私が「私の前世はティリアです」なんて言ったら「証拠を出せ」と必ず証拠の提示を求めてくる筈だ。
そうなったら今の私の持っている証拠はシルヴィー様からの言葉と私とグラオスしか知らない幾つかの昔話。
形のある証拠なんてものはあったとしても私が今自身の胸元に付けている宝玉のみ。
私は一人その場で頭を抱えながら「どうしたらいいの……」と呟く。
しかし、この時私はふととあるものの存在を思い出した。
その存在とは私が死ぬ前からグラオス達に秘密で作っていた刺繍の入ったハンカチ。
もし、今でもグラオスと私が使っていたあの部屋に私にしか開けられないロック式の鍵の着いた箱があるならば恐らくその中にそのハンカチがある筈だ。
だけど、その事を話したところで彼はすんなりと認めてくれるのだろうか……。
私は顎に手を添えながら他の証拠になりうる物のがあるかと考える。
でも、私は基本的にグラオスに秘密を作らずに過ごしていた故にそんな物一切でてこない。
私がティリアであった証拠、か。
あとはもうシルヴィー様に助けを求めるしかないのだろうか。
けれど、シルヴィー様に頼って彼に私がティリアであると信じて貰うのは些か嫌だと思ってしまう。
グラオスには自分から私がティリアであると信じて欲しい。
私はギュッと胸元にある宝玉を握り締めながら「他に何か……」と呟く。
私が彼にティリアであると認められるような、そんな証拠が欲しい。
思い出せ、何か、何かある筈だ。
一度目を閉じれば脳裏を過るのは彼との出会いから自分が死ぬまでの記憶。
そして、最後に思い出したのは前世での母が私に教えてくれたとある食べ物の存在。
そうだ、それがあった!
私はグラオスを看病していた時から、結婚してからも彼が時折食べたいと言ってよく作っていた母特性の豆のスープの存在を思い出す。
あれの作り方なら私自身まだきちんと覚えているし、何よりあの頃のままの味を作り出せる!
ただ、彼がそれを作らせてくれるかは分からないが私は母の料理に賭けたい。
そう思った矢先にコンコンとノックされた自身のいる応接間の扉。
私はその扉の向こうにいるであろう彼らのことを考えて一度深呼吸をしてから「はい!」と口を開き、その場から立ち上がりスカートの端を摘みながら部屋に入ってきた彼らに対して頭を下げた。




