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グレゴニア城に着くなり案内された応接間。
私は自身の目の前に座る面々と、その背後に立っている人物達を見て思わず『死にたい』と言いたくなった。
まあ、その理由はこうだ。
先ず最初にグラオスの隣に何故か知らないが、グラオスの祖母であらせられるシルヴィー様がクスクスと笑いながらこちらを見ており、そんなシルヴィー様の背後にはこの国の宰相でありグラオスの幼馴染み兼親友のレイネルと、この国の王国騎士でありレイネル同様グラオスの幼馴染み兼親友のジェラードがこちらを思い切り冷たい目で見ているのだ。
こんなの『死にたい』の一言や二言ぐらい誰だって言いたくなるだろう。
と、まあそんなことは置いておいてだ。
何故この場にシルヴィー様がいらっしゃるのだろうか?
本来ならば今私の目の前で思い切り楽しそうに笑うシルヴィー様はこの城ではなくこの城の西にある竜の泉に居住を構えて泉の守護をしている御方。
私はチラリとシルヴィー様に目を向ける。
すると、そんな私を見ながらグラオスが私をこの城へ連れてきた理由である本題へと入ってきた。
「……それで、お前がその宝玉を持っている訳を教えろ」
途端に静まり返る部屋の中。
私はゆっくりと目の前に座るグラオスにありのまま自身が宝玉を持っている理由を告げた。
「これは生まれた頃から私が手に持っていた物です」
「それはまだ目も開いていないような年齢ということでいいか?」
「はい」
これは嘘偽りない事実。
私自身、生まれたばかりの記憶などはなく当時の事は知らないが父や母は勿論のこと私が生まれる前から屋敷にいる使用人達ならば誰もが知っている。
真っ直ぐにグラオスの目を見詰める私と、そんな私の目を見ながら小さな声で「そうか」と呟きながら目を閉じたグラオス。
……納得、して貰えたのだろうか?
私は一度この部屋の中にいる人物達それぞれに目を向ける。
そうすれば、私の視界に入ったのは怪訝そうな顔をしているレイネルとジェラードと、その前でニヤニヤと笑っているシルヴィー様。
先程から何故そうもずっとシルヴィー様が笑っているのか一切分からないが、私の前世の記憶が確かならばあの笑みを浮かべている彼女に関わると碌な事がない。
私はそっとそのままこちらを見ている彼女から、何かを考えるように目を瞑っているグラオスに視線を移す。
そこから待つこと数分。
グラオスはゆっくりと瞼を開けたかと思うとこう言った。
「……お前がその宝玉を手に持って生まれたのが本当か嘘かは分からない。だが警備も硬い城内にあるティリアの墓の中から宝玉を盗み出すというのも完璧に不可能。ならば俺はお前の言葉を信じ、ティリアがお前にそれを与えたということでその宝玉はお前にくれてやる」
しかし、グラオスがそこまで言い終えたところでレイネルがグラオスへ異論を唱えた。
「待て、グラオス。お前は本当にそれでいいのか?あれはお前がティリアちゃんに渡した番の証。……まさかその子を嫁になんて考えてないだろうな?」
訝しげに思い切り鋭い目付きでグラオスを見詰めるレイネルと、そんなレイネルを真っ直ぐに見上げるグラオス。
正直、宝玉に関してはグラオスには返したくはない気持ちはある。
けれど、私が宝玉を持つことで二人が喧嘩をするならば私は大人しく宝玉を返そうではないか。
私は険悪な様子の二人を見ながらそっと自身の胸元からネックレスを取り出す。
だが次の瞬間、グラオスがその場から立ち上がったと思うとレイネルの肩に手を置きながら「そんな訳ないだろう。俺の番は自分が死ぬその時までティリアだけだ」と告げたでは無いか。
この時、思わず彼の言葉に泣き出しそうになった私。
だが、そのタイミングで唐突に先程までニヤニヤと笑っていたシルヴィー様が真剣な表情を浮かべながらこの場にいる全員に対してこんなことを言い放った。
「はいはい、仲直りしたならなによりだ。それよりも一旦だがお前達は部屋の外に出て行きな。私は少しこの子とゆっくり話がしてみたい」
ここで思わず『えっ、何怖い』と思った私。
でも逃げることが出来ないのは分かり切っているので、私は渋々と言った様子で部屋を出て行こうとするグラオスらに縋り付きたくなるのを我慢しながら目の前でニコリと微笑んだシルヴィー様に慌てて愛想笑いを返したのであった。




