彩花の札守 参幕 序(テスト投稿です)
「逃ぃぃげんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
月光る真夜中。
僕は黒い狼のような禍々しい異形を追い回し、町中を駆け回っていた。
長い時を経て溢れる人々の憎悪に当てられ「穢れ」た四十八の彩花札と、それに取り憑く「荒神」。それを浄化するのが、十二の札神に選ばれた僕達「札守」の使命だ。
「三屋!そっちから回り込め!挟撃だ!」
「任せろっ!!」
かくいう僕、三屋 櫻も札守の一人であり、相棒の「弥生」と一緒に、というか弥生が転身した衣をまとって、ついでに肉体も弥生と同調できるように幼女に組み変わって荒神を追い回していた。隣では、白銀の幣を握ったアップテールの少女、鈴城 葉月が僕達を先導する。
「飛ばすぞ弥生!」
『がってんです!』
「『桜吹雪』!!」
ロリ化して軽くなった体に纏った「神衣」が、脚に霊力を供給し、爆発的な加速を生む。そのまま横の路地に突っ込み、壁を駆けながら荒神を挟んで葉月の向かいに迫出し――
「『紅枝垂』ッ!!」
地面に思い切り団駄を叩きつける。衝撃を殺しきれずに盛り上がった岩盤は、巨大な壁となって荒神の行く手を阻む。
「決めるぞ!構えろッ!!」
「応!!」
葉月の合図と共に、僕は罅割れた地面を蹴る。月の光を背に浴び、重力から開放された薄桃色の髪が、流星のように銀の尾を引く。
「紅華絢爛!!」
「八尺霊術!!」
空の僕と、地の葉月が、ほぼ同時に印を結ぶ。
「灯織!!」
僕よりひと足早く、葉月が印を解く。刹那、黒い獣に無数の真っ赤な針が突き刺さる。その軌跡から、煌々と燃え盛る火の糸が尾を引き、炎の布を形成し荒神を縛り付ける。次いで、
「八重ッ!!!」
僕が高空からありったけの力と自由落下を乗っけた踵落としを、額に叩き込んだ。
地面に衝撃が逃げるより早く、拳を叩きつけた衝撃が、岩盤ごと荒神を砕く。クレーターの中心で、黒狼がどす黒い流線をぶちまけながら断末魔をあげる。
「よっしゃぁ!ナイス葉月!」
「下の名前で呼ぶなと言っているだろう………まぁ、三屋も今回はよくやった方だ」
駆け寄る葉月と、互いを讃えながら、僕達は平手を打ち鳴らし合う。
今日も、戦いは終わった。
となれば、残るは「お清め」だけだ。僕は足元に転がった、悪意に穢れた札を拾い上げる。
「穢気に溺れし大いなる尊よ、我が清めの言寿ぎにて、白へと還れ…祓!」
黒く澱んだ札は、僕の祈祷と発破に合わせ、その穢れを散らす。散った穢れは、祓った札守が纏う札神の力に合わせ、花弁へとその様相を変える。僕と弥生の力は「櫻」。桃白色の吹雪が、月明かりにキラキラと輝いて花の雪を降らせる。光の花びらは街中の罅割れに触れるが早いか、シャボン玉のように弾け、街をあるべき姿に戻してゆく。まるで、何もなかったかのように。
「さーて、無事お清めも終わったし、帰って夜食でも――」
「夜食は餡蜜を所望したいが待て」
「たまにお前図々しいところあるよな」
やることも終え、クレーターがあった場所に背を向けながら懐に札をしまう僕を、葉月が引き止める。
「んで、何かあったのか?」
「なにか、空気が変だ…………まるで、我々の力にそのまま穢れを流し込んだような……………」
「はぁ?何言ってんだよ葉月。もう荒神はぶっ倒したんだし、もう帰ろ…………」
『まってください』
「………ああ」
気づいた。いや、気づいてしまった。たった今僕達が清めた、否、清めた『筈』の札に、まだ夥しい量の穢れが眠っている。見た目には穢れを祓い切り、真っ新な彩花札に見えるこの札、中にいつものカス札で言っちまえば10枚ぐらいの穢れを、まだまだ溜め込んでやがる………!
「そいつは私が清める。お前ではまだ無理だ」
「………悔しいけどそうっぽい。んじゃこいつ頼――――」
視界が、暗転した。
左袖に入れた札に右手が触れた途端、四十八枚の中で最も強固な加護が施された桜色の衣を、黒い力が内側からずたずたに引き裂いた。弾けだした闇はそのまま勢いを殺さず、僕の四肢を、五臓を、六腑を、神経すらも突き刺してゆく。
「…………!!……………………!!」
痛みを感じる場所から糸が伸び、まるで意識が縫い止められるように、急激に意識が遠のいてゆく。もう、葉月の声も、弥生の、声も、聞こえない。
闇はそのうち、弥生からも、僕を引き剥がしてしまう。
深く。
深く。
虚のような深淵へ。
僕の意識は引き寄せられていった。




