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3/4

0/0/0.事の前兆

バッドエンドを描いた事が何故このような奇妙な現象を体験している原因だと思うのか。

それは、数時間前に遡る――――。




=====




数時間前、午後8時。

仕事を終え、早足で家に向かう。

何故こんなに急いでいるのか、それは高揚感が身体を滾らせているからだ。

わくわくが止まらない。

何故こんなに心が踊っているのか、それは数年にわたりコツコツと描いてきた漫画が遂に完結を迎えるからである。


最終話のラストシーン、物語構成の調整はバッチリだ。

仕事中に頭の中で散々組み立て、開幕からの設定に矛盾点がないかもしっかりと確認した。

あとはあたりだけ描いたページに清書するだけだ。


趣味から描き始めた漫画、題名は《COLORs(カラーズ)》。

安直ではあったが、色が濃く絡んでくる内容である為、そんな名前にした。

ふと描き始めた頃を思い出す。

最初は、ただ看板娘の世界観を正確に表し、動かしたいと思った。

言ってしまえば看板娘の資料、自己満足から始まった漫画だ。

絵を描くのは好きだったけど、絵が下手で、漫画を描くことによって画力を向上させるという目論みもあった。

描いた絵をイラスト掲載サイトにアップして一週間、閲覧数やお気に入りが二桁行かないことなんてザラだった。

オリジナルキャラクターだけじゃなく、アニメや今流行のキャラクターを描くと評価が増えると言われているけれど、気乗りしないで描くよりも、好きなオリジナルキャラクターを描く方が楽しく感じれる為、アップしたイラストの九割はオリジナルである。


記念を飾る第一話も、全く閲覧はされていなかった。

しかし、漫画の話数が進むにつれて閲覧数が増え、評価やコメントを付けてくれるユーザーが増えていった。

評価やコメントの数はモチベーション向上に繋がる為、本当に有難みを覚え、泣くほど感謝した。

閲覧数や評価を気にしないで描くと言っても、支えてくれたユーザーが居なかったら、ここまで熱中して完結を迎える事は無かったんじゃないだろうか。


完結に心を踊らせる中、少しながら罪悪感を覚えながらも家に着いた。

正直ここまで続くとは思っていなかった漫画。

応援をしてくれたユーザーのお陰なのに、それは仇となって返す事になる。

何故ならば。


「この漫画、バッドエンドで終わるんだよなぁ…。」


この漫画は、元々バッドエンドで終わらせる為に開幕から結末に向けて走り書きをしたものだ。

今になってハッピーエンドに戻していくのは少々頂けないと思ってしまった。

結果としては目照と耳豆、二人の看板娘が争う。

目照が操られ、世界を崩壊させる役割を担うのだ。

それを阻止する為に耳豆が目照と戦い、結果敗れる。

そうして誰も止められなくなってしまい世界が崩壊へと迫っていく。

今となっては厨二病の設定だなぁと笑えるが、寧ろ厨二病を受け入れている。

残りのページは争いの結末を描くだけだ。


明日は休み、風呂に向かわずに仕事着のままパソコンの前に座り電源を入れる。


低スペックのパソコンが悲鳴をあげるかのようにモーター音を鳴らし、デスクトップ画面を映し出し、愛用している画面ペン傷だらけの液晶タブレットも同じ画面を映す。


「…さて、ラストスパートだ!」


イラストツールを開き、最終章54頁中残り5頁を清書する作業に入った。

夜明けはまだ長い。




「…よし、よし。ペン入れ不備は無し、誤字脱字も無いな。」


最終章開幕から終結までじっくりと舐め回すかのように画面に顔を近づけ確認する。

そして、確認をしっかりと取れたところで、大きく息を吸い。


「…完結だぁー!!!」


息を吐くと同時に身体の力を一気に抜き、使い古された椅子の背もたれに身体を預ける。

椅子の背もたれや脚が軋む音がする。

その音を聞き、ふと時間を携帯で確認する。

時刻は23時27分。

作業時間は3時間半ば、思ったより早く終わり、少々不安になってくる。

いやいや、大丈夫だ。今日まで頑張って描いてきたではないか、しっかりと確認したし、自身を持とう。

描き終えた事だし、早速paxcivに投稿しよう。


パソコン画面に映る漫画のプレビュー画面を閉じ、念の為再保存を行いイラスト掲載サイトを開く。

サイトのホーム画面上にある象のアイコンに赤い数字が浮かんでいる。


「お、また評価とブクマ数が増えてる。コメントも数件あるな!支えて下さるユーザー様に感謝…!」


現在掲載されている漫画の最新話をクリックし、コメントを確認する。


コメントの数は5件、漫画の感想や、励ましの声があった。

その中に一件。


「…なんだ、これは。」


奇妙なコメントがあった。




regacy

おねがい やめて

2021-05-17 20:00




この漫画は次回で完結するとは最新話の詳細に書いてある。

漫画を終わらせないでくれって事なのか?

確かに、アニメや漫画の最終回を見終わった後に心の中に穴が空いたかのような、そんな喪失感を産むことがある。

まだ続いて欲しい、もっとこの先の話が見たい。そう思ってしまうこともしばしばある。

でも俺は、先がわからず延々と話の終わらない漫画程、寂しいのではないかとも思う。

続くに続いた末、打ち切りという終結を迎える可能性もある。

それ程悲しい物語の終わり方はないのではなかろうか。


ふと気になり、そのコメントを残したregacyというユーザーのページに飛ぶ。


作品投稿数0。

ブクマ数0。

フォロー、フォロワー数0。

プロフィールは空白。


paxcivではありきたりな事だ、作品の閲覧を目的として登録するユーザーもそう少なくない。

あまり気にしないでおこう。


そのページから作品投稿ボタンを押し、最終章54頁を順番通りに貼り付け、応援をしてくれたユーザー方への感謝のメッセージを書き込む。

作品投稿時間を0時に設定し、投稿ボタンを押した。

何故かきっちりとした時間に投稿したくなる自身にとって、作品投稿時間を設定できるようになったのは本当に有難い。


やる事を終えたので、一服しようと煙草を取り出す。


「…げっ、一本もないじゃないか。」


そういえば、仕事場の休憩中に残り一本を吸ったのを忘れていた。

時刻は23時38分、まだ日付は変わっていない。

コンビニまで買いに行こう。

仕事着だったのを思い出しさっと着替え、財布と携帯を持ったのを確認して家を出る。


家を出ると同時に隣人が帰ってきたらしく、鍵を開けている場面に出くわした。

ふんわりとした黒髪のショートカットで制服姿の少女。

コンビニのレジ袋を片手に持っている、部活帰りだろうか。こんな時間まで大変そうだなぁ。


ふと少女がこちらに気付く。

少女はにっこりと笑いながら「こんばんは」と挨拶をしてきた。


「こ、こんにちは。」

唐突だったので、思わず昼の挨拶で返してしまった、とても恥ずかしい。

少女はくすっと笑い、会釈をして家に入っていった。

思わず赤面してしまう。

…でも可愛い子だなぁ、こんな子が隣に住んでたとは知らなかった。

ショートカット、耳豆が現実にいたらこんな感じかなぁ。

そんな可笑しな事を考えながら、俺はコンビニに向かった。

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