0/0/0.事の説明
「な、何が起こっているんだ…。」
俺の名前は目黒香也。
27歳の独身男性である。
そんな三十路間近の独身男性は今、とてつもなく動揺をしている。
何故ならば、今、現実のものではない仮想世界にいて、目の前には真っ白な可愛い獣耳娘がいて、自身の姿がまた真っ白で長い髪の美少女さんになっているのだから。
誰も驚かない筈が無い。
驚かないって奴は冷静さと動揺を隠す事の違いを理解していないただのナルシストだ。
…いやぁしかし、中々に可愛い。
獣耳の方も、今の自分の姿もである。
流石俺の娘達である。
俺はこの世界を知らない訳では無い。
前の世界に生きていた人達の中で一番知っている自信がある。
この美少女達もそうだ。
何せ、これらは全て俺が創造したものなのだから。
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事の説明の前に、俺について話そう。
俺は趣味で絵を描いたりしている。
描き始めたきっかけは絵描きなら知っているであろう、ユーザーが描いた絵や漫画等をアップロードできる有名なイラスト掲載サイト「paxciv」で、独特な雰囲気、かつドストライクなタッチの絵を描いているユーザーを発見した事である。
その前はアニメの可愛い女の子を模写するくらいで、イラスト掲載サイトの使い道はユーザーの投稿した絵を見るだけだった。
しかし、そのユーザー様の絵を見てからというものの、自分も人に惹かれる絵を描きたいと思った。
それからである、俺が本格的に絵を描き始めたのは。
今からそのサイトで掲載した昔描いた絵を見ると、つくづく下手であった事が思い知らされる。
これも所謂黒歴史というのかもしれない。
でも、古い順から見て、徐々に最新のイラストを見ると、「お、上手くなったなぁ」と感じられるのだから不思議だ。
昔の下手な絵も、他のユーザーから見たら需要がないかも知れないけれど、己自身がどれ程進化したのかを実感出来るのだから、自分の身にはとても需要があるものだと思える。
少し脱線してしまった、本題に戻そう。
俺は、絵を描くために自身のオリジナルキャラクターを作ることにした。
絵描きであれば、恐らく一キャラは作っているだろう、看板娘というやつだ。
看板娘を作れば、好きに着せ替えも出来るし、色んな幅が広がる。
そして、このキャラクターはこの人のキャラクターだということを知ってもらえる。
そうして俺は二人の看板娘を作った。
一人は両腕を欠損し、腹部に口があるアルビノ少女、目照。
初代看板娘である目照は、当時俺がハマっていた鬱ゲーと名高いPCゲームの派生作品に出ていたキャラクターを擬人化した際、似てなさすぎるという事でオリジナルキャラクターとした。
その為に、描くには結構不便な身体となってしまった。
我が娘ながらとても可愛い。
一人は耳を生やし、ふんわりとした大きな尻尾を持った狐のアルビノ少女、耳豆。
二代目看板娘である耳豆は、一日一枚絵を描いていた頃、たまたま描いた狐娘のオリジナルキャラクターである。
あのうねうねしたピンク色の虫の名前になってしまったのは、その一日一枚絵に使用していたイラストノートに、一枚描く事に何故か虫の名前を言わせていた事が原因で、丁度そのみみずと言わせた狐娘のキャラクターが自身のツボにハマり、看板娘とさせて頂き、名前を耳豆にした。
我が娘ながらとても可愛い。
そして、その目照と耳豆を主人公とした漫画を描く事にした。
題材は、子供の頃好きだった絵本である。
ある所に魔女がいて、色の無い世界に色を与える、といった絵本だ。
内容は簡潔に説明すると、赤色だけの世界では人が怒りっぽくなる、青色だけの世界では人が悲しみの感情を抱くようになった等、結果単色の世界では駄目だから色々な色で世界に色を与えよう、そういった話である。
漫画の物語説明はまた後程にして、描く工程の中で一つ失敗をしたのかもしれない。
恐らくこれがこの事態を招いたキーなのではないかと思う。
漫画を読んだことのない者は滅多にいないと思う。
漫画を読む人なら皆知っている事だろうけど、大事な要素が主に三つある。
一つは登場人物。登場人物が居なければ物語は始まらない。
主人公、ヒロイン、モブキャラ等、一人一人にそれぞれの役割があり、それが成り立ってやっと物語を作る事ができる。
二つ目は舞台。人が読みたい本を探す時、大半はジャンルを確定して探しているのではないだろうか。
恋愛モノやSF等、様々なジャンルがあるが、舞台によって考えやすくなる。
恋愛モノであれば学校、SFであれば近未来都市。
「今回の舞台は〇〇だからジャンルは××が似合うなー」と考えやすい、逆もまた然り。
三つ目は物語構成。登場人物や舞台があるだけではあまり意味が無い。それだけだと静止画になってしまう。
漫画には躍動感が必要不可欠だ。
動きを付けるためにも表現力と物語の進行状況も予め立てておかなければいけない。
そして、俺はこの三つ目で血迷ってしまった。
物語を構成する際、一部分を最初に予定を立ててしまったのだ。
それは、最終話。フィナーレを飾る為の物語の終幕。
俺が思い付いたのは、後味の悪い、バッドエンドで終わるシナリオだった。