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【小説】掌編小説

憧れ

作者: 菜須よつ葉

白い天井、白い壁に囲まれた部屋に1人ポツンといる。


左腕には点滴が繋がれていて自由のない私。


唯一、私の楽しみは窓から見つめる外の世界。


一度で良いから出てみたいなぁ・・・。


心の声が病室に響く。




ドアをノックする音が聞こえる。


『はい』


いつものように答える私。


『検温しましょうね』


『少し熱が上がったかな?』


『先生に診てもらいましょうね』


いつも繰り返される会話に、ただ相槌を打つだけの私。


『美由ちゃん、熱が出ちゃったんだって?』


主治医の先生が声を掛けてくれる


『はい』


力なく返事を返す私。


『熱が下がったら、少しだけお外に行ってみようか?』


主治医に先生が外の世界へと誘ってくれる。


『行ってみたいけど、怖いから・・。』


外に行ったことがなく、勇気の出ない私。


『美由ちゃんが、窓からお外を眺めているの知ってるよ。元気になったら行ってみましょうね』


担当看護師さんが声を掛けてくれていたが


熱が高くてボーッっとしながら窓を見つめる。


外は雨。


いつも開いている窓が、閉められている。


その窓に雨粒達が


『美由、早く元気になって』


とでも言うように踊って見える


そんな私の目からも涙の粒が落ちる。


消毒薬の匂いのシーツの上で 私の涙の粒がひとつまたひとつ落ちては踊る。


白い天井、白い壁に囲まれて今日も独りでいる。


左腕にはいつもと同じように、点滴が繋がれている。


『美由ちゃん、回診の時間だよ』


主治医の先生が声を掛けてくれる。


『うん』


いつものようにいつもと同じ診察を受ける。


『今日は、顔色も良いし落ち着いているね』


主治医の先生の言葉が、私に届く。


『ありがとうございます』


朝の回診が終わり、暫くしたら看護師さんが車椅子を押して病室に入ってきた。


『さぁ、美由ちゃん お散歩に行こう。これに乗ってね』


と言いながら、車椅子を私に向けてくれる。


『歩けるよ』


『うん。知ってるよ。でも、今日はコレに乗ってね』


大人しく看護師さんの指示に従った。


『どこに行くの?』


『内緒。着いたらわかるよ』


こんな会話をしながら、移動した。


着いた先は、噴水のある中庭だった。


『うわぁ~ 綺麗キラキラ光ってる』


初めて見る景色に、大興奮の私。


『美由ちゃん、落ち着いて 興奮したらダメだよ』


看護師さんに窘められる。


誰が、水遊びして良いって許可出したかなぁ』


背後から、優しい声が届いた。


『えっ? 先生だぁ~』


大はしゃぎ気味の私。


『美由ちゃん、今日はもう病室に戻るよ』


先生が、私の状態を見て直ぐに、声を掛けてくれた。


『はい』


『良い子だね。それじゃあ車椅子押すよ』


主治医の先生と、中庭での出来事を話しながら


病室まで戻ってきて、診察を受けた。


『それじゃあ安静にしていてね』


と、言って病室を後にした先生。


初めて外の世界に触れ、キラキラした世界を知ってしまったので


急にこの空間に不安を覚え、呼吸が乱れ始める。


息を吸い込むけど、吸い込んだ空気をうまく吐き出せない状態に焦りを覚える。


ナースコールを押そうと思っても、ナースコールのボタンが遠くて、今の私には押すことが出来ない。


焦れば焦るほど乱れる呼吸、大きく揺れる肩、震える指先もうダメだって思った瞬間


『美由ちゃん、落ち着いて深呼吸だよ』


主治医の先生の声だった。 ナースコールで指示を出す先生の声に安心したのか、一気に力が抜けた。


気がついた時は、いつも見ている窓の外がオレンジ色に染まっていた・・・。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 「憧れ」というテーマが新鮮で素敵でした! 病室の風景の描写はさすがのハイクオリティですね!(*^^*)
[良い点] 儚い少女の危うくも幻想的な世界が描かれた佳作です。 窓の外に出るという何でもない行為がとてつもなく大変な美由。 取り巻く人間関係、静かに進行していくドラマが淡く叙述されたこのお話は、胸を打…
2018/12/24 12:50 退会済み
管理
[良い点] 素晴らしい人間性によって書かれた素晴らしい作品だと思いました。 キラキラした外の世界を知ったからこそ、白い壁に囲まれた空間に不安を覚え、呼吸が乱れる場面。日ごろから患者さんの身になって考…
2018/01/27 11:59 退会済み
管理
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