表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄騎士物語  作者: 天斗蹴
9/12

WITH THE LIGHTSOUT,IT’S LESS DANGEROUS.

サブタイトルのLIGHTSOUTは光を消すを意味し

全文では、暗闇の方が案外危険は少ないとなります。

危険から闇雲に逃げるのではなくあえて飛び込んだ方が助かる場合もある。そう判断できる者は多くはありません。

 青い光の中、下の村に異変が迫っていた。村の周りを囲む森の中に赤い双眸が光る。一つや二つではない。ガチャガチャと不穏な音が村に近づいてくる。村人達はまだ気付いていない。


 ウルフが宴の中に飛び込んだ。まだ酒を飲んでいる者、酒に潰れて寝ている者の中にマックス達を探す。人の集まりの中にその姿を見つけた。


「おっ、ウルフだ。どうかしたのか?」


「今すぐ酔いを醒まして下さい。敵が来ます。」


「敵?敵って何だ?」


「魔物です。青き月が照らす時、魔物が現れる。古くは帝国暦の3年、帝都に突如現れた巨人。この巨人を倒すのに帝国騎士一個師団を必要とし、その結果城壁の一部が崩壊したそうです。ちなみに今ある巨人門がその名残です。次に記録があるのは帝国暦305年、カッパーフィールドの東にあったエヴァーグレースが一夜にして魔物が闊歩するダークグレースとなった。今もそのままです。他にも幾つかありますが今は止めておきます。まず村の外に偵察を出します。後のことはその結果から考えましょう。」


「分かった。ソフィ、頼めるか?」


 マックスがソフィに問いかけた。ソフィは自分の顔を両手で挟んで熱を診る。酔ってない。魔法の行使に問題はないと判断した。


「ええ、行けるわ。まず水を飲んで、それから解毒の魔法をかける。」


「了解。」


 マックスが水を飲んでいる間にソフィは集中して魔素の導引を始めた。ウルフと違ってそう早くはない。十分に時間をかけて導引したところで思念を込めてマックスの背中に触れた。魔法が効果を現す。加速された自然治癒力によって酒の酔いが消えた。


「おっ、おお・・・やっぱりすげえな。一気に酔いが醒めたよ。」


「だったら外を見てきなさい。アーク、あなたもついていって。」


「ああ、分かってる。」

「うん。」


 二人同時に返事をする。次の瞬間走り出した。それを見送ると村長のダンを探して声をかけた。簡単に説明をする。更に言葉を続けた。


「村で戦える人を集めて下さい。魔法で酔いを醒まします。」


「あ、え、うん?よく・・分からんが、まずは俺を頼む。」


 存分に酔っているダンが何とか答えた。先ほどと同じくソフィが魔法を使う。ダンの目の色が戻った。


「それで魔物が現れるって本当か?」


「まず間違いなく。今マックス達を偵察に出しています。じきに戻ります。それまでに戦力を整えましょう。」


「そうだな。おい、みんな集まれ。酔っ払いは気合でなおせ。動けない奴はここに引きずってこい。魔法で治してもらえるぞ。治ったら武器を取れ。皆で村を守るぞ。」


 ダンの言葉で村人達が動き出した。次々とソフィの下に酔っ払いが集められる。ソフィの魔力は無限ではない。ソフィの診断とダンの判断で誰を優先して治すか決めた。



 マックスとアークは土塁の上から顔を覗かせた。堀を挟んで30mほど平地が続く。その向こうの森の中からこちらを望む赤い双眸が見えた。何匹か二足歩行の者が森から出てきた。


「ゴブリンだな、結構いるな。」


「そうみたいだね。どうしよう?」


「俺が鉄騎士あいつで抑える。乗るのを見届けたら橋を外してくれ。その後は戻って伝えてくれ。正門は俺に任せろと。」


「うん、分かった。」


 アークの返事を待たずにマックスが走り出した。橋替わりの板の上を飛ぶように走り抜ける。鉄騎士を駆け登るとハッチを開けて乗り込んだ。サブコントロールモニターに手を当てる。鉄騎士が起動して全天モニターに青い月の光が入ってきた。マックスは振り返って今来た方を見る。アークの手で木の板が外されたことを確認した。


「アーク、急げ。他がどうなっているか分からんぞ。」


 声が聞こえたのかは分からないがアークが村の中に走っていった。堀の幅は5mはある。水があるからゴブリンは渡れないだろう。いや、そもそも泳げるのか、知らない。


「ま、いっか。ここを通さねば問題ない。」


 マックスはそう呟くとサブコントロールモニターを操作してガンモードを実弾から火球に変更した。右手のトリガーに指をかける。迂闊にも近づいてきたゴブリンに向かってアームガンを放った。炎の弾がゴブリンを消滅させ、更に後ろのゴブリンを焼いた。


「どう見てもオーバーキルだ。普通の神経をしてたら・・・と、こいつらに言っても仕方がないか。」」


 ゴブリン達が今の威力を見て引く様子はない。じりじりと鉄騎士ににじり寄って来る。アームガンを連射してその全てを消し炭に変えた。それでも攻め手が減らない。マックスは倒し続ける。突然ピーピー音がした。


「何だ?」


 コックピット内が赤い。その光源はサブコントローラーにあった。鉄騎兵の簡略図の右手、アームガンが赤く光っている。どうやら警告を意味しているらしいことだけは分かった。


「くそっ、なら白兵戦だ。」


 サイドアーマーからバトルアックスを取る。鉄騎兵から離れた場所を走り抜けるゴブリンがいる。フットレバーを踏み込んで距離を詰め、斧の一撃でゴブリンを真っ二つにした。だがその隙に先ほどいた場所の向こうを走るゴブリン達が見える。


「舐めるなあ!」


 マックスが吼えた。フットレバーを強く踏み込む。一気に距離を詰めてまとめて跳ね飛ばした。また反対で同じ作戦が繰り返される。腹が立って転がっているゴブリンの死体を掴んで投げつけた。当たった死体が飛び散る。何体かのゴブリンが巻き込まれて地に伏せる。死んではいないのもいるが、まともに動くことはできないであろう。


「いけるな。なら・・・。」


 マックスは左腕をだらんと下げさせると円盾をパージした。左手を開いて握る操作を繰り返す。生身と同じく右と代わらない動きができそうだ。正門前を縦横無尽に動きゴブリン達を倒していく。踏み潰し、斧を振り、死体を弾とする。その中でマックスが覚醒した。鉄騎士に前後はないと、工事作業で理解している。後退するのにいちいち振り返る必要はない。上半身だけを反転させればいいのだ。それで数秒が稼げた。また上半身の回転を利用して物を投げる。好きな方向に投げることができ威力も上がった。だんだん人にはない動きに慣れてくる。戦いを楽しんでいる自分がいた。



 村にアークが駆け込む。ウルフにマックスからの伝言を伝えた。


「正門はマックスに任せます。ただし何人かは配置しましょう。撃ち漏らしをクロスボウで迎撃してもらいます。技量は問いません。それなりに撃てれば結構です。また連絡役も兼ねます。そういった人材を選んでください。」


「よし、セシル、ノーマン、ヴィクター、行ってくれ。それで後はどうする。」


「堰を切ります。アーク、君は河の堰へ。中央の堰には村長が行って下さい。双方共反対側に渡る必要がありますから近接での戦闘力がある人員を。堰を切るタイミングは任せます。他の者は射撃で援護します。できる限り多くの人を送って下さい。」


「分かった。みんな得意の獲物を持ってそこに並べ。近接はこっち、飛び道具はそっちだ。」


 ダンの言葉に各々が適当な獲物を手にする。並んだ列に割り込んだダンが何人かを入れ替えた。


「ここまではアークについて行け。でかいのを目印に走れ。残りは俺が率いる。」


「「「おうっ!」」」


「よし、行くぞ。」


 ダンとアークが走る。その後を十数人が追った。残されたのはウルフとソフィと女達だけである。


「ウルフ、私は?」


「まずは落ち着いて下さい。魔法の使い過ぎで息が荒いですよ。」


「そんなことない。」


「いつもより魔法の効きがいいと思いませんでしたか?それは青い月の影響です。無限に沸いてくる力に溺れて破滅した例もあります。息を整えて冷静になるまでは魔法を使ってはいけません。」


 ウルフにそう言われてソフィは自分の胸に手を当てた。確かに息が荒く、鼓動も激しい。なぜ気付かなかったのか不思議なくらいだ。大きく深呼吸をする。


「貴女は女性の指揮をお願いします。矢、水、手ぬぐい、包帯など必要な物を運んで下さい。その後は任せます。戦う者が戦い易いように。」


 ウルフはそれだけ言い残すと走り出した。


「何処へ?」


「中央の堰へ。村長を援護します。」


 残されたソフィに周りの女達の視線が集まっていた。不安が目に宿っている。普通の女は荒事には慣れていない。自分がしっかりしないといけないと再認識した。


「・・・3つの場所に人と物を分けましょう。わたしとそこの5人が河の堰、そこの5人は中央へ、残った2人が正門へ。まず矢から運んで下さい。後は現場の者に何が必要か聞いて下さい。」


 女達が走り出した。行き先はバラバラだが矢の保管してある所を目指している。ソフィは手近の女性について行って矢の束を受け取った。さらに自分の荷物を漁ってメイスと円盾、スリングを取り出す。アークの行った方向に走った。

 敵の猛攻に終わりが見えぬ。対抗するには限界を超えて戦うしかない。

 次回鉄騎士物語第10話『NO LIMT』

 お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ