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鉄騎士物語  作者: 天斗蹴
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BATTLE WITHOUT HONOR

サブタイトルのBATTLE WITHOUT HONOR

HONORは名誉、つまり名誉なき戦いとなります。

 鉄騎兵の4本の脚の形状は馬ではなく蜘蛛のそれに近い。移動は底面にある球状の車輪によって滑るように走行するが、歩行も可能である。

 

 操縦は誰にでもできるものではない。左右の操縦桿には10cmぐらいの透明の球があってここを握って前後左右に動かすことができる。さらに足元の床には靴のように履くフットレバーがあり、これもまた前後左右に動かすことができる。さらに専用のヘルメット、これは座席に繋がっていて操縦者の考えを読み取るらしい。


 以上の5つを駆使して初めて鉄騎兵は動く。だが満足に動かすには試行錯誤を繰り返して自分に合った操縦を確立する必要がある。マックスは直感的に操作できたが、それでも自分の身体のように動かせるには1年の時を必要とした。ウルフは考えが過ぎて緩慢な動きしかできないので諦めた。ソフィは過ぎた力は不要と試しもしていない。そしてアークに至っては身体が大きすぎて操縦席に収まらなかった。



 マックスの鉄騎兵の右腕のアームガンが火を噴いた。赤熱化した金属棒が叩き込まれる。カカカッと幾つかの乾いた音の後、バンと大きな爆発音が響き、もうもうと煙が舞い上がって賊の鉄騎兵を隠した。


「やったか?」


 マックスはサブコントロールモニターを覗きこんでそう呟いた。煙でよく分からない。両手の操縦桿と両足のフットレバーを振って鉄騎兵を覆う枯れ草を振り落とす。これで全方位モニターに光が入るようになった。


 突然地を揺らす振動、それを感じた次の瞬間強烈な衝撃を受けて、マックスは後ろに大きく仰け反った。シートベルトがなければ座席から振り落とされていたであろう。今までうざいとしか感じていなかったシートベルトに助けられた。これは何たる副産物か、マックスは口の中に苦さを感じながら操縦桿を握り直した。


「貴様かっ!舐めたまねしやがったのは。」


 煙の中から飛び出してきた鉄騎兵がマックスの乗る鉄騎兵に突撃、さらに怒声がマックスを襲った。


「だったらどうしたっ!」


「なんてことしやがる。こいつを直すのにいくらかかると思ってんだ。」


「知るか馬鹿、惜しいなら倉庫にでもしまっておけ。」


 そう返事をしたものの何のことかまだマックスには分かっていない。やがて煙が晴れて全方位モニターが全てを映す。敵騎の右腕がアームガンごと吹っ飛んでなくなっていることに気付いた。だが敵も往生際が悪い。残った左手でこちらの右腕を握っている。これではこちらのアームガンは使えない。


「おい、離れろ。こいつでダンスを踊る趣味はねえ。」


「うるせえ、離れたら撃つだろうが。」


「だったら降りろ。命だけは助けてやる。おわっ!」


 返答は言葉では返ってこなかった。腕は離さずにガツガツと体当たりをしてくる。当たりが強くなる前にマックスも自身の鉄騎兵を押し付けてその動きを止めた。


「今度は相撲か。俺はこんな戦いがやりたかったんじゃねえよ。」


「知るか。このまま押し込んでやる。」


 押し込む?その言葉にマックスはコックピット内で身体を捻って後ろを振り返った。全方位モニターに大河の流れが映っている。このまま退がると10m以上の高さがある崖だ。


「だからお前と相撲を取る気はないって言ってるだろっ!」


 マックスは左の操縦桿を操作してサイドアーマーにあるバトルアックスを取ろうとした。鉄騎兵の左手が何もない空間を探る。あるはずのアックスがない。機体の左前方に転がっていることに気付いた。どうやらさっきの突撃で外れたらしい。だったら殴るか。だが鉄騎兵の手で硬い物を叩いてはいけないとウルフに強く言われていたことを思い出した。繊細にできていて壊れやすいらしい。あとできそうなことは左腕の丸盾ラウンドシールドで殴る。それも効果的でないと心中で却下した。


「くそっ、結局相撲しかねえのかよ。」


 もう格好のいい戦いは諦めた。だが相撲だろうが何だろうが価値は譲る気はない。掴まれた右手で握り返し、踏ん張る。2騎の力が拮抗して一瞬動きが止まった。底面の車輪が抗議するかのように音を立てて空回る。どうやらこの地面では鉄騎兵同士の戦いを支えることはできないらしい。


「さてどうしたものか・・・?」


 マックスは手詰まりを感じていた。そもそも現時点でマックスが知りうる方法で鉄騎兵が鉄騎兵を倒す方法は2つしかない。まずはアームガンで装甲の薄い場所、つまり関節や頭部カメラアイ、アームガンを撃つ。2つ目は手持ちの武器バトルアックスで直接攻撃する。これなら硬い装甲も垂直に近い角度で入れば亀裂を生じさせることは可能で、繰り返すことで装甲を打ち破るか関節に多大な負担をかけ可動を不可能にできる。いずれにしても今できることではない。


「そうか、いつもやってることじゃないか。」


 いつもとはソフィやアークとやっていることである。マックスは木剣の二刀流、ソフィは棍棒と盾、アークは槍を想定した棒による模擬戦を散々していた。他にはマックスとアークがクロスボウ、ソフィがスリングによる射撃を、これは訓練だけでなく狩猟もする。鳥や鹿、ときには猪も狩って肉や皮を手に入れていた。そして相撲、アークが相手で実際には打撃、投げ、絞め、固めなど何でもありで戦う。これは残念ながらアークの背が伸びて体格差ができてからはマックスはほどんど勝てなくなった。それでも負けん気で再戦を続け、10の内2か3は勝てるようになっている。その方法を思い出した。


 マックスはフットレバーの操作を駆使して相手の力を測る。出力はこちらの方が上、だが底面からピックでも出されたら全く動かなくなる。そうさせないために出力を緩めた。敵に押されるままに後退する。


「見掛け倒しが。どうやらこっちの方がパワーは上のようだな。」


「くっ!」


 マックスの思惑通り敵が押し込んできたので、悟られなように焦ったフリをする。段々速度が上がる。崖まであと10m、タイミングを計って左後脚のピックを下ろす。同時に他の3つの脚を勢いよく後退させた。相手の手は握ったまま、ピックを中心に弧を描く。ガガガッ!重い物が地面を削る音、180度程回転して立場が入れ替わった。


「うわっ、おい、止めろ!」


 必死な悲鳴が上がる。崖の際が崩れ、バランスを失った鉄騎兵がそのまま後ろ向きに落下していった。グシャッ!カッ!バーン!!!耳を劈く爆発音、無数の金属片が宙に飛び散る。爆発によって巻き上げられた河の水が雨のように降り注いでマックスの鉄騎兵を濡らした。


「マジかよ・・・。」


 この結果は想像していなかった。鉄騎兵は何らかの衝撃で爆発するらしい。対場が逆ならああなったのはこちらだ。今更ながら空恐ろしさを感じる。落ちないように急いで崖から離れた。緊張の糸が切れる。操縦桿とフットレバーから手足が外し、弛緩した身体を座席に預けて目を瞑った。



 ソフィを先頭に3人が走る。森を抜けて見えた鉄騎兵のシルエットに一先ず安堵の胸を撫で下ろした。駆け寄って声をかけるが動きはない。ウルフは鉄騎兵の脚部にある外部操作盤を操作して、外からコックピットハッチを開けた。


「マックス、大丈夫ですか?」


 下から声をかけた。緩慢な動きでマックスが出てくる。水平に開いているハッチに足を投げ出し、仰向けに倒れた。表情は見えない。


「大丈夫?怪我してない?」


「ああ、怪我はしてない。でも・・・なんか疲れたよ。」


 心配するソフィの言葉に力ない声が返ってきた。最近は聞いたことのない声である。ソフィは鉄騎兵の脚をよじ登ってマックスに横に立った。怪我はしていない。少し安心した。


「何があったか教えてくれますか?」


 鉄騎兵の左腕を外部から動かしその手に乗ってウルフが上がってきた。心配するより先に質問から入ったのはウルフらしい。ソフィはそう思ったが口には出さなかった。


「作戦通り腕を壊したらなんでか相撲になった。んで押してくるから河に引き落とした。そしたらドカーンだ。こいつ爆発するんだな。びっくりしたよ。」


「爆発ですか・・・落ちた時の姿勢はどうでした?」


「背中から真っ逆さま、グシャッと音がしていきなり爆発した。」


「なるほど、おそらく背中の無限コンバーターでしょうね。そこに衝撃を受けないように気をつけましょう。」


「気をつけましょうって、お前さ・・・。」


 涼しい顔をして話すウルフにマックスは文句を言おうとした。だが言っても無駄なので止めた。そもそも戦う意思を示したのは自分だ。結果無事に終わったのならそれでいい。次はもっとうまくできる。そのための情報は手に入ってウルフの頭に収まった。それで十分だ。


「ねえ、村の方から誰か来たよ。」


 鉄騎兵の下からアークの間の抜けた声がした。馬が2頭、片方は二人乗りだ。


「やべえ、親父達だ。どうする?」


「諦めなさい。結果はともかく怒られることは覚悟の上でしょう。」


「そうだな。」


 マックスは近づいてくる3人、父親を含む村の3役を見下ろしながらそう答えた。

この舞台は彼らには狭すぎる。村という頚木から解き放たれた少年達が世に出る。

次回鉄騎士物語第6話『BREAK IT DOWN!』

お楽しみに!


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