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鉄騎士物語  作者: 天斗蹴
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POWER OF MASIC

サブタイトルのPOWER OF MASICはそのままの意味です。

この世界では魔法を使う者は魔素マナを導引し思念によって力を具現する。そこから魔導士と称されています。


「くそっ、待ちやがれ。」

 

 そう言われて待つ馬鹿はいない。森の木々の間をソフィとウルフが颯爽と走る。賊徒達が追うが膝まである下草に足を取られてその差は縮まらない。時々ソフィとウルフが後ろを振り返る。


「どう?ついて来てる?」


「駄目です。予想以上に遅い。少し落としましょう。」

 

 ウルフとしては追うのを諦めて戻られては困る。もし彼らが戻ったら鉄騎兵同士の戦いに巻き込まれる。それではソフィのオーダーに沿わない。だから人の相手は人ですることに決めていた。速度を少し落として走る。今までは木々を縫うようにして走っていたが、これからは走りやすい獣道を選んだ。行く先で森が開けて見える。そこで二人は左右に散った。


「あっ!ぎゃっ!」

「おい、急に止まるな!」

「うわっ!」


 賊達が大声を上げたのも当然である。開けた先は大きな穴が開いていて、走りこんできた一人がそのまま落ちた。2人目は気付いて止まろうとしたが後ろから追突されて落ちることになった。深さが3m近くあると走ってきた勢いもあって軽症ではすまない。おそらく骨ぐらいは折れているだろう。穴は横幅3m、縦幅は5mはある。全体的に水で濡らしてあって簡単に登ることはできないい。ウルフは2人を無力化できたと判断した。そして予定通り魔法を行使するために魔素マナを集める。


「もう一人ぐらいは落ちて欲しかったのですが、まあ想定内です。」


「てめえ、ふざけたまねしやがって!絶対許さねえぞ。」


「元々許す気などないでしょうに・・・出でよ炎の柱。」


 ウルフの腕が下から振り上げられた。賊達との間に炎の柱が立ち上がる。これでウルフの方に来るには茂みか炎を突破するか、穴を反対に回るしかない。その反対側にはメイスと盾を構えたソフィが立ちふさがっている。


「こいつとんだ腰抜けだ。女を盾にしやがった。」


「やあっ!」


 先頭に立つ賊がウルフに悪態をついた。その隙をソフィのメイスが正確に右手の甲を襲う。ゴキッと鈍い音がしてその手にあった剣が地に落ちた。さらに一撃、痛みに蹲ったところに蹴りを入れて、穴に落とし込んだ。


「女と侮ると痛い目に合うわよ。」


「このアマ、なめたまねを!」


 ソフィの切り口上に残った賊が激高する。しかしその力量には一目置いたようでしっかりと武器が構えられた。もう一人後ろにいる賊もなんとか前に出ようとするが、深い草むらに遮られて思うようにいかない。何度か賊の剣とソフィのメイスと盾が打ち合わされる。ウルフから見て互角以上、だがもう一人が藪を突破できれば均衡は破綻する。ウルフは介入する為に魔素マナを集め始めた。ウルフの周りに3本の炎の矢が現れる。


「行け!」


 1本の炎の矢が賊の頭を襲う。のけぞって避けたところをソフィが盾で押し返して距離が開いた。


「もういい。逃げろ。」


 ウルフの号令にソフィが賊に背を向けた。後を追おうとする賊に残りの炎の矢が打ち込んで足を止める。走るソフィを賊が追った。


「ふんっ!」


 木陰に隠れていたアークが気合と共に丸太を賊に叩き付けた。後続を巻き込んでそのまま穴に落とす。これで5人、全ての賊徒が穴の中にある。


「さて、これをどうしましょうか?」


「わたし達が裁かない。そういう約束よ。」


「そうでしたか?どうせなら這い上がって来れなくなるぐらいには痛めつけた方がいいかと。」


 ウルフの言葉が冷たい。感情を感じさせない声をソフィは怖いと思った。


「おい、ここから出せ。そうすれば命だけは助けてやる。」


「これですよ。やはりお仕置きが必要ですね。」


「ふざけんな。おかしらが来たら貴様から真っ先に殺してやる。」


 穴の底から喚かれても何ら感じることはないが、このまま放置しておくといずれ穴から出てくるだろう。誰もできないなら自分がやるしかない。ウルフは芝居がかった声で言葉を続ける。


「私は幾つかの魔法が使えます。」


「何の話だ?」


「まずは先ほど撃った炎の矢、アロー、ボルト、バレットなど人によって名称が違いますが同じ物です。ちなみに熟達によって数が増やせます。もし一瞬で5本撃ってくるような相手に会ったら逃げた方がよろしいですよ。次に最初に撃った爆発する球、ファイヤーボール、エクスプロージョンとか言います。そして放射状に炎を噴射するバースト、人によっては口から吐いてブレスと言う場合もありますがあまり格好がよいものではありませんね。ちなみに爆発と放射の魔法は熟達によって威力が上がります。これらの魔法は地水火風のどの系統でもだいたい同じです。」


「おい、いつまでわけのわからんことを言っているんだ!」


「さらにもう一つがそこにある柱、熟達によって数を増やした物が壁の魔法です。壁なので動かすことはできないとよく勘違いされていますが、実は動かすことができます。人が歩く程度の速度ですが。」


「おいっ、まさか・・・やめろっ!」


 ウルフの顔に冷笑が浮かんだ。炎の柱に向かって手を差し向けて引き寄せる。ずずずっと少しずつ炎の柱が穴の中に降りてきた。迫りくる炎に賊徒達が逃げるが水で濡らされた土の壁は登ることはできない。


「やめなさいっ!」


 静止の声を上げたのは賊だけではなかった。ソフィもである。こんなことは望んでいない。少なくとも作戦の中にはなかった。ウルフの真意はどこにある?ソフィはウルフの表情を伺う。黒いはずのウルフの目が赤く爛々と輝き、口元に冷笑が浮かんでいる。人のする表情じゃない。その顔に賊徒達も気付いた。


「おい、何だその目は?」


「ああ、これですか?魔法を使うには大気中の魔素マナを身に取り込む必要があります。そして大きな魔法を使うにはより多くの魔素マナを取り込まなくてはなりません。これが問題で私は魔素マナを取り込みすぎると目が赤くなり破壊衝動を抑えられなくなる、一種の酔ったような状態になります。あまり褒められたことではないのですが体質なので仕方がありません。しかしこうなると誰かを殺すのことに何の躊躇いも感じなくなる。欠片ほどにもね。」


 さらにウルフの手が動いて、炎が賊徒達を追いつめていく。炎に追われた者達がなんとか逃れようともがく。味方を壁に無為の時を稼ぐ者、ただ助けを請う者、味方を踏み台に穴を登ろうとする者、しかしいずれもその甲斐なく炎に飲み込まれていく。


「やめろ、押すな、押すな。熱い、熱い、熱い、あちい、あっ・・・」

「たっ頼む。もう悪いことはしない。だから助けてくれ。助け・て・・・」

「どけ、どいてくれ。炎が、炎がこっちに・・・ぎゃぁぁぁ。」


 断末魔の悲鳴が少しずつ小さくなり、やがてその声も炎の中に消えた。穴の傍に佇んでいたソフィが怖い顔でウルフに詰め寄った。


「なんでここまで!?」


「そう見えましたか。なら成功ですね。」


 ウルフは愉悦の表情を消すと右手をパチンとならした。炎が消える。なぜか無傷の賊徒達が穴の底で折り重なって倒れていた。


「えっ?」


「幻ですよ。彼らも死んではいません。死んだとは思ったでしょうけどね。」


「だったら初めから教えておいてくれてもよかったのに。」


「いえ、それも計算の内です。よく考えてみて下さい。森の中で燃える炎なのにどこにも延焼していない。何かが焼ける臭いもしない。誰かが少しでも疑問に思ったらそこで終わり、唯の幻と暴かれていたでしょう。わざわざ長々と魔法の説明したのも、この目を見せて魔法に酔うと謀ったのも、貴女が本気で止めてくれる様黙っていたのも、全て幻に真実味を持たせる為の策です。」


「へえ、やっぱりウルフはすごいや。全然気付かなかったよ。」


 アークの口調にはどこか抜けた感じがした。意識してはいないのだろうがそれで殺伐とした空気が弛緩する。ソフィの抱える鬱屈した感情もどこか薄れていった。


「さてとりあえずこちらは終わりです。ソフィ、これでよろしいですか?」


「ええ、言いたいことはあるけど今はやめておく。でもこれはどうするの?」


 ソフィは穴の底を指差してそう言った。その表情に笑顔が戻っている。ウルフは許されたと思った。


「半日は目を覚まさないはずです。放っておきましょう。」


「そう、ならそれでキャッ!!


 ソフィが突然悲鳴を上げたのは突然大きな爆発音が聞こえてきたからである。さほど遠くない場所から響いたそれは、空気を揺らし森の木々をざわめかせた。思わず耳を塞ぎ地に伏せる。マックスの戦いに何らかの動きがあったに違いない。3人は走り出した。

干戈を交え技量が競われる。その行き着く先に望むものは金か命か、それとも名誉か?

次回鉄騎士物語第5話『BATTLE WITHOUT HONOR』

お楽しみに!


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