YOU SPIN ME ROUND
サブタイトルのYOU SPIN ME ROUND.
直訳すると君は私の周りを回るですが、これを物理的な意味と取らずにあえて精神的な意味にとります。
すると、君は私のまわりで好き勝手な意見を振り回しているとなり、
主語をひっくり返して、君達には振り回されるとしてます。
ノースレイクの村、中央広場から少し離れた場所にある小屋の中、ソフィーとアークの姉弟は出ていった二人の帰りを待っていた。ソフィーはメイス、円盾、スリング、緑色に染められたハードレザーの鎧を、アークはロングスピア、クロスボウ、黒色のレザーアーマーと完全武装をしていたものの、まずその準備が無駄になると思っている。
マックス、ウルフ、ソフィ、アークの4人はよく一緒に行動している。村の三役の子として優遇されていて近づきがたいと同年代からは敬遠されていた。
とにかくマックスは我が儘である。基本的には善人だが独善的でもあり無茶を言う。それを止めるのはソフィだ。母親に逃げられたマックスの乳母になったのがソフィの母エルザでソフィが姉、マックスが弟として育てられた。その後に生まれたアークはさらにその下の弟で立場を弁えて大人しい。12才から背が伸び村の誰よりも大きくなってもそれは変わらずにいた。そしてウルフ、彼はマックスが8才の時に、最長老のファングによって魔導士として素養が高いと保護されて連れてこられた。ただ村に来る前の記憶がなく感情が乏しい為、どこか気味が悪いと疎遠にされていた。だがそんなことはマックスには関係なく、積極的に近づいていつの間にか行動を共にしていた。それが今に至る。
小屋の外から派手な人の気配がして扉が乱暴に開かれた。
「どうだった?・・・って聞くまでもなさそうね。」
「くそっ、もう少しでいけると思ったんだ。それをウルフのやつめ・・・。」
マックスは腰の武器を乱暴に放り出しながらそう言い放った。アークが拾い上げる。傷はついていないが咎めるような視線からマックスは目を逸らせた。
「武器は大事にした方がいいですね。」
「なっ、ウルフ、いつの間に。」
戻ってきたウルフの声は穏やかだ。逆にそれがマックスの気に障った。一瞬言葉に詰まったものの先の不満が噴出した。
「何で邪魔をした。あのままなら説き伏せた、そんな雰囲気だった。」
「そうかもしれないね。でもそれでは君は主役になれない。」
「は?意味が分からん。」
「いいかい、君はあの時“こちらにも鉄騎兵がある”と言おうとした。違いますか?」
「違わない。でもそれでいけた・・・たぶん。」
いつものことではあるが大抵マックスが無茶を言う。するとウルフが10の内5を黙って聞く。3は幾らかの修正をもって聞く。そして残りの2は断固拒否する。今回は肯定か修正か拒否か、マックスは話を聞くことにした。。
「その結果がどうなったか私には想像できますよ。おそらく誰が鉄騎兵に乗るか?そのことに時が費やさられたでしょう。マックス、君以外を乗せるためにね。」
「何でだ。あれは俺のだ。俺が一番うまく扱えるんだ。」
「はい、それは私が一番よく分かってます。あれを組み上げるのに2年、君が乗りこなすのに1年、ずいぶん苦労しましたからね。今日乗った誰かが満足に戦えるようになるとは思えませんが、それでも君を勝手気ままにさせない為にそうしたでしょう。」
「じゃあどうすればよかった?」
「そうですね・・・例えば自尊心、義侠心、故郷愛、家族愛、他にもありますが心中を揺さぶればよかった。他には夜襲を仕掛けるならより成功度の高い作戦を披露するとか・・・まあ今さら何を言っても仕方がないですね。そんなことより、これからどうします?このまま大人しく引っ込みますか?」
「冗談じゃない。俺達の旅立ちが敗北に見送られて始まるなんて認めない。」
旅立ちとはこの村の通過儀礼のことを指す。15才を過ぎた者は一旦村の庇護から外れて旅に出る。何処に行くか、何時までか、何をするか、何一つ決まっていないがとにかく村から外に出る。尤もそれらは形骸化されて親が世話になった人や店等に送りしばらく預かってもらう場合が多い。しかしマックスはそれを真っ向から否定した。ただ一つ共に行く仲間を除いて何も決めずに旅に出る。その仲間とは当然マックス、ウルフ、ソフィ、アークの4人で、5日後のアークの15才の誕生日を待って決行する予定だ。
「そう言うと思いました。では」
「ちょっと待って!」
ウルフの言葉をソフィが遮った。
「何勝手に決めてるの。わたしは反対。」
「何でだよ?」
「村のことは大人に任せておけばいい。あんたが首を突っ込む必要ない。」
ソフィはマックスに厳しい。マックスは弟、それも実の弟であるアークと違って我が儘で手のかかる弟である。今までもできる限り無茶をさせないようにしてきた。
「おいっ、お前こそ首を突っこんでくるなよ。」
「はい、マックスは感情だけで話さない。ちなみに私は賛成です。これで賛成2、反対1です。」
「まったくウルフはマックスに甘い。じゃあ決定権はアークに・・・あなたはどっちよ?」
いつものことだがマックスが提案者、ウルフがまとめ役、ソフィは押さえ役である。アークは決して自分の意見を主張するタイプではない。そのアークに視線が集まった。賛成なら賛成票3でマックスの意見が通る。反対なら同票となるがその場合はより大きな共同体、つまり村の決定に従う。よってマックスは否決される。じっくり考えてマックスとソフィがじれてきた頃やっとアークの口が開いた。
「僕は勝てない戦いはしない方がいいと思う。」
「じゃあ反対ね。マックス、残念ながらあんたの提案は否決されたわ。」
「うっ!」
ソフィが得意げにマックスを指を突きつけてそう言い放った。マックスが言葉に詰まって助けを求めてウルフの方を見る。ウルフはこの目に弱い。なんとかしてやりたいと思う。少し考える、先のアークの言葉に引っかかりを見つけた。
「アーク、勝てない戦いといいましたね?」
「うん。」
「では勝てる戦いならよろしいですか?」
「それならいい。」
「では私が勝てる作戦を立案しましょう。ソフィもそれでよろしいですか?」
「ずるい、いつもマックスの味方ばっかりして。」
「貴女はしっかり者ですからね、私がどうこう言う必要がないだけで・・・では今回はソフィの意見も大事にしましょう。何か要望はありますか?」
すねたソフィの表情に一瞬だけ喜色が混じった。すぐにそれを隠して考える。どうせならとしばらく考えて精一杯の我が儘を口にした。
「賊徒を無条件に殺してはいけない。」
「なんだそれ?賊なんてどうなってもいいじゃないか。」
「駄目。わたし達が勝手に裁くべきではないと思う。」
「面倒くさいな。ウルフ、できるか?」
「一つ質問が、戦闘の結果による死は?」
「それは仕方がない。戦う以上互いにその危険は避けられない。」
「なるほど、貴女が紅の癒し手であることを失念していました。十分に考慮に入れさせてもらいます。」
癒し手とは人の治療を目的をした共同体にある者の通称である。この共同体では治癒の魔法を無償で授けてくれる。その中でも戦場にあっては武器を手に戦い、戦が終わった後敵味方関係なく癒しを与える者を紅の癒し手と呼ぶ。反対にいかなる戦闘にも関わらず癒しのみを与える者は白の癒し手と呼ばれている。ソフィは紅の癒し手の母親から治癒魔法を、元騎士の父親から武技を習いこの道を選んでいた。
「ええ、それでお願いするわ。」
「よし、決まりだ。じゃ俺は行くぜ。」
「ええ、でも明日の昼まで待って下さい。納得させることができる作戦を考えてきます。」
「了~解。」
マックスは間延びした返事を残してさっさと出て行った。まったく君達には振り回される。だがそれが心地よい。ウルフは深く思案に耽る。考えては消して考えては消して何度も何度も推敲して作戦を練る。やっと納得できる作戦ができた。すでにセンチネル姉弟の姿もない。
人の相手は人がする。勝つ為には使える物は何でも使う。たとえ自身を信頼する者を騙しても
次回鉄騎士物語第4話『POWER OF MASIC』
お楽しみに!