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鉄騎士物語  作者: 天斗蹴
12/12

EYE OF THE DRAGON

タイトルはそのまま、得に深い意味はありません。

この世界ではドラゴンは珍しく強大な存在です。人間が単体で倒すことはまず不可能で、人数を集め兵器魔法などを駆使してやっと追い払うことができるとされています。

 今鉄騎士のコックピットにあるのはレオナルドである。だが不満なことがあった。それは自身では動かしていないことである。


 二日前に村を出た後、レオナルドの提案はマックスに快諾され搭乗の為の登録がされることになった。ウルフがサブコントロールモニターを操作してレオナルドを呼んだ。そして手の平で触れるように言われそのとおりにした。それから簡単な講習の後に操縦を任せられるようになったのだが、できることは簡易モードと自動操縦だけであった。それならと簡易モードで動かしてはみたが思うように動かず後ろの荷車から不満が出たため、今は勝手に動くに任せている。


「くそが、あの魔導士め!」


 レオナルドは文句を言いながらサブコントロールモニターを操作していた。あの登録方法だけでも探ろうとしたのだが必ずどこかで警告音が鳴り動作が止まった。赤い文字で読めない文字が表示されてもいる。何度目かの試みの結果、それらが制限されていることだけが分かった。



 数日進んだ所で集落に辿り着いた。柵に囲まれた中に建物と畑、牧場がありマックス達の村より規模が大きく見える。その入り口でマックスは鉄騎士を止めた。当然人が集まってくる。敵意がないことを示すためにコックピットハッチから降りた。


「おい、止まれ。」


「分かってる。これ以上は近づかない。」


「よし、それでお前は何者だ?いや、それよりそれは何だ?」


「ああ、俺はノースレイク村から来た。名をマックスという。これは鉄騎兵、いろいろできるが今は馬のかわりだな。」


 マックスが答えるも納得はしていないのは目に見えて分かった。


「今御当主様が来る。それまで大人しくしてくれ。」


「分かってる。」


 マックスは答えるのをウルフ達が馬車の中から見ている。出てこようとしたのをマックスが目で抑えた。しばらくして集落の中から護衛を連れた初老の男が姿を現した。格好は周りと同じく野良着だが髪と髭が綺麗に整えられていて気品が感じられる。


「やあ、本当にマックスじゃ。」


「あれっ!もしかして氷のおじさんか?」


「おい、御当主様に失礼であろう。口を慎め。」


「よい、わしの知己じゃ。許せ。」


 お付きの者の叱責はその当主自身によって制された。笑顔で全く怒っている様子はない。


「おじさん、もしかして貴族だったのか?」


「そうだ。フォーウッド男爵という。偉そうであろう?」


「うん。でも何でその男爵様が俺の村に氷を買いに来てたんだよ?」


「それはな、金がないからじゃよ。代々の領地はあるが見たとおり山ばっかりで金にならん。ならば当主自らが金策に走るしかないのじゃ。」


「あんなのが金になるのか?」


 マックスが首を捻る。冬の間に保存しておいた氷を夏に買いに来るから氷のおじさんと呼んでいた。船にいっぱいの氷で金貨10枚、それをひと夏で2,3回、10~15才位までの子供達の小遣いとしては十分な額である。だがその先は知らず大した金になるとは思っていなかった。


「あの氷を細かく削って果実の汁をかける。すると西都では10倍の値で売れるのじゃよ。おっと不満があるならお門違いじゃぞ。溶かさないように運ぶにはそれなりの労力を必要とするんじゃ。誰でも真似できるものではない。ちなみに一番必要とする力はこれじゃ。」


 フォーウッド男爵が大きく息を吸い込む。ゆっくりと差し出された手の平の上に氷の塊が現れた。


「氷だ。おじさん、魔法が使えたんだ。」


「魔法が使えないと貴族にはなれんよ。」


「へえ、そうなんだ。」


 マックスはあっさり答えたがそう単純な問題ではない。“貴族は産まれながらにして貴族ではない”という言葉があるぐらいで、建始帝より魔法を授かった者が帝国貴族に叙せられたことから始まっている。以来帝国の歴史500年に一切の例外なく守られてきた。例え長子といえど魔法が使えなければ跡を継ぐことができず、もし係累に該当者がなければその家は断絶となってしまうのだ。


「皆のもの、心配はいらぬ。このわしが保障しよう。普段の生活に戻るがよい。」


 その言葉で集まっていた者達が散っていく。残されたのは当主様と2人の付き人、そしてマックス達だけとなった。


「そうだ、もう一つ言っておくことがあった。実は一昨年に倅に家督を譲っておってな、正式にはわしはもう男爵ではない。元男爵ってところじゃ。そこは間違えないでくれ。」


「でもみんな御当主様って呼んでたけど?」


「癖みたいなものだな。長年呼び続けた呼称は変えられないらしい。止めよとも言えないしな。」


「例え隠居されても御当主様は御当主様です。」


「信頼されてるんだ。」


「そうらしいのう。倅もそうなってくれると嬉しいのだが・・・。」


 どうやらマックスの知っている貴族像とは違うらしい。こんな貴族もいるのだと思った。もっともマックスの村に来る貴族は5年に一度だけ来る徴税官だけである。その徴税官は尊大で横暴、いろいろと要求も多い。父親のエドガーは貴族なんてそんなものだ。適度にあしらって追い返せばいいと言っていた。


「で、その現当主様は?」


「帝都で帝国官吏をしておる。」


「帝国官吏って?」


「帝に仕える文官のことじゃ。わしも若い頃に行ったがすぐに戻ってきた。帝都の水が合わなくての。」


「水が合わない?」


「まあいろいろあって、才無き身には行き辛い場所であった。いや愚痴っぽい話はよそう。今夜は宴を催そうと思う。付き合ってくれるかの。」


「ああ、いいよ。」


 マックスが快諾する。分かっているのだ。田舎には変化がない。だからちょっとしたことに楽しみを見出そうとする。それが自分の役割だと理解した。なら自分も楽しもうとも思った。



「♪~」


 翌日にはフォーウッド男爵領の集落を出た。それなりに整備された道を進んでいる。その鉄騎士のコックピットからご機嫌な歌声が響いていた。マックスは操縦席に浅く腰をかけサブコントロールモニターに足を投げ出してふんぞり返っている。歌声が外まで聞こえるのはコックピットハッチが開けっ放しだからだ。


 ピピピピピピピピ・・・・・!鉄騎士が警告音を発した。マックスが慌てて身体を起こす。突然コックピットハッチが閉まった。次の瞬間、轟音と衝撃がマックスを襲った。


「なんだ、何だ!?」


 全方位モニターを見回す。後上方に遠のいていく影が見えた。


「トカゲ?いや、ドラゴンだっ!」


 マックスは鉄騎兵の上半身だけを反転させた。荷車がついていることに気付きサブコントローラーを操作してその接続を外す。モニターに目を移すとドラゴンが旋回を終えていた。このままでは荷車が巻き添いになる。急いで大きく後退し、アームガンをドラゴンに向かって撃った。空中では距離感が掴みにくい。火球が序所に小さくなりドラゴンの手前で消えてなくなった。


「くそっ!」


 アームガンの実弾を装備していなかったことが悔やまれる。火球モードは無限に撃てるが射程が短く威力も低い。それでもドラゴンはこちらを敵と認めたようで正対したまま向かってきた。アームガンをもう一度構える。ドラゴンの口が大きく開き、あちらも火球を吐こうとしていることに気付いた。だがこっちの方が一瞬早い。


「くらえっ!」


 トリガーにかけた指に力を入れる。アームガンから火球がドラゴンに向かって飛びだした。ドラゴンが身体を捻って火球をかわすが姿勢が崩れてそのまま鉄騎士にぶつかってくる。双方が激突を避ける為に行動に移した。マックスは鉄騎士の左腕の円盾を、ドラゴンは翼を大きく開き脚を突き出す。


 ガキッ!ドラゴンの左脚の爪が盾に引っかかって大きな音を立てた。外そうとドラゴンが翼を羽ばたかせて空中に逃れようとする。ギシギシと嫌な音が操縦席にまで響いている。


 バキッ!何かが折れる音と共に鉄騎士が大きく揺らぐ。マックスが視線を戻した時には空中にてドラゴンがこちらを見ていた。双眸に怒りが見て取れる。


「ギャギャァァァァァァァッ!」


 ドラゴンの咆哮、空気がビリビリと音を立てる。生身の生物なら何らかの影響を受けるはずだが鉄騎士には効かない。ドラゴンは不利を悟ったのか、翼を羽ばたかせてそのまま飛び去って行った。

進む先に城壁が見える。城壁の中には当然人がいるだろう。

次回、鉄騎士物語第13話『COLLISION OF WORLDS』

お楽しみに!

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