PROLOGUE
この話の中ではレベルの概念はありません。よって敵を倒して経験値を得て強くなるという概念もありません。また他人のステイタスどころか自身のステイタスすら分かりません。もし知りたいのなら相対的に較べるしかありません。強くなる方法は才能と地道な鍛錬と工夫のみです。
HPの概念もありません。怪我をすれば弱ります。折れた腕では剣は振れず、足を折れば満足に動くことすらできなくなります。
また剣の一振りでドラゴンを殺すような人外の能力もありません。これは魔法も同様です。
ただ現実の世界に魔法が混じっただけで科学や物理を超えない世界、その意味をこめてキーワードにScience Fantasyと入れています。
道が大きな拒馬によって塞がれていた。道の左右は高さ4~5mほどの雑木林で、この間道を通らずしてこの先のノースレイク村に行くことはできない。そしてその柵によって鉄騎兵一騎と賊徒達数人の行く手が塞がれていた。
「ここは引いてもらえませんか?」
柵を挟んだ賊徒達にそう声がかけられた。声をかけたのは村の少女で名をソフィア=センチネル、通称ソフィという。年は16、目の色はヘイゼル、髪はゴールドブラウンで見た目は可愛らしい少女だがとても厳しい表情をしている。その後ろにいるのはウルフ=ファング=シーカー、年は18、目も髪も黒、顔を伏せているせいもあって林の影の中では存在感が薄い。
「何言ってんだ、お前。」
「そんな顔したって怖くもなんとなねえぜ。」
「へへっ、金貨で1000枚、準備はできたのか。」
当然ではあるがたった2人では何の抑止力にもならず、賊徒達から品のない罵声が返ってきた。
「どうしてこんなことをっ!正しい行いにはそれに見合った報いが得られるのに。起こるかどうか分からない厄難に1000枚もの金貨を払う義理はないわ。」
「だからその金で俺たちが魔物や賊から守ってやるって、そういう話だろ。」
「賊はあんた達よっ!」
「だったら何だ。どっちにしても俺達に抗える力がない。なら払う物を払いな。ああ、金がなけりゃ物でもいいし、なんならお前でもいい。奴隷商にでも売れば金貨100枚くらいにはなるんじゃねえか、なあ?」
「へへっ、初物ならもっといくぜ。」
「そりゃ意味ないぜ。おかしらが食っちまうからよ。」
その言葉に下卑た笑いが広がった。何か言い返そうとしたソフィの肩にウルフの手がかけられた。
「そこまでです。彼らには何を言っても無駄ですよ。彼らに比べればゴブリンの方がまだましです。」
「おい、そのお前、ふざけるなよ。女の前だからって格好つけてるとぶっ殺すぞ!」
「はあ・・・よろしいですかソフィ。ゴブリンに善悪はありません。そもそも理解できるだけの頭はありませんから。でも彼らは違う。理解する頭はあっても理解する意思がない。いずれが悪かは自明の理です。それに・・・」
「それに何だっ!?」
「十分に時間は稼げました。これからは言葉ではなく実力を行使する時間です。」
そう言うとウルフは右手を開くと、何かを持ち上げるかのようにまっすぐ上に掲げた。頭上5mほどの場所に小さな炎が現れる。それがみるみるうちに50cmぐらいの火球に育った。
「げっ、魔法かっ!」
「魔導士がいるなんて聞いてないぞ。」
「逃げろっ!」
この世界では基本的に魔導士は少ない。使用できることが絶対条件である王族、貴族を除くと大都市以外ではまずいない。もちろん賊徒にもいない。こんな田舎にいるはずがない。予想外の状況に賊徒達が逃げようと背を向けた。
「行けっ!」
ウルフの手が賊徒達に向かって振られた。火球が柵を越えて賊徒達に当たる。その直前で鉄騎兵の手が割って入った。バーンと大きな破裂音、火球が割れ火片が飛び散った。
「ふむ・・・やはり無傷ですか。予想通りとはいえ傷つきますね。」
無傷とは鉄騎兵の方のことである。決して服についた火を消そうと地を転げまわっている賊徒の方ではない。ウルフは不満そうにそう呟いた。
「ウルフ、のんきなことを行ってないで早く逃げるよっ!」
我先にと林に飛び込んでいたソフィがウルフに向かって叫んだ。その声にウルフも同じく林に飛び込む。
「おい、いつまで遊んでいる。さっさと奴等を追わんかっ!女は捕まえろ。傷はつけるなよ。価値が減るからな。魔導士は殺せ。生かしておくと面倒だ。」
「えっ、あ、はい。」
鉄騎兵の外部スピーカーから怒号が響く。賊徒5人がソフィ達の後を追った。
◇
「どうやらうまくいったようだな。」
マックスは一人そう呟いた。賊徒の鉄騎兵の右後方200mほどの場所、自身の乗る鉄騎兵の暗く狭いコックピットの中で一部始終を見ていた。暗いのは鉄騎兵の全方位モニターとやらは鉄騎兵全体をカモフラージュにと覆った草が影を落としていてその役目を果たしていないからで、足元から立ち上がるサブコントロールモニターの明かりだけがマックスの顔を照らしていた。
「なんか安っぽいな。アークの言ってたとおりだ。」
マックスの興味は敵の鉄騎兵にあった。自身の乗る鉄騎兵の方が立派だ。下半身はそう変わらないが上半身に、それも頭部に大きな違いがある。賊徒の乗る鉄騎兵には首がない。胴体から直接四角い窓が上に立ち上がっている。対するこちらの鉄騎兵はちゃんと首があってその上に頭がある。もちろんその頭は左右に稼動するし、目を守る為の装甲は騎士のフルヘルムのようだ。あちらが騎兵ならこちらは騎士を名乗っていいのではないかと思った。
モニターの中の鉄騎兵は拒馬に手をかけて揺らしていたが簡単には壊れないことを理解したようだ。しばらくしてそこから距離をとる。突撃するのか、アームガンで撃つのか、いずれにしても隙だらけだ。マックスはこの状況を待っていた。アークはサブコントロールモニターに手を伸ばし人差し指で映像の鉄騎兵の右腕にあるアームガンに触れた。その瞬間上の方でガサッと大きな音が立った。
「うわっ!」
思わず大きな声が出た。上から少し光が入っている。どうやら今の操作で頭が動いた時に覆いかぶせてあった草が崩れたようだ。
「ばれてないよな。」
全く必要ないが小声で呟いた。モニターの中の鉄騎兵に動きはない。
「次は・・・・・あれ?」
心臓の音がうるさい、ふいにそう思った。緊張に喉の渇きも感じられる、モニターに触れた指が汗に濡れ震えていた。
「・・・そうだった、ガンモードの確認・・・・・・実弾モードで、あとは・・・フルバーストだっけ?・・・よしこれでいい、これでいける・・はず。」
ぶつぶつ呟きながら操作する。操作するうちにだんだん落ち着いてきた。そうしている間に鉄騎兵のアームガンが拒馬に向けられている。今だ、撃つなら今しかない。トリガーにかけた指に力を込めた。
子供と大人、その境にある者が叫ぶ。俺達は大人達の操り人形じゃないと。
次回、鉄騎士物語第2話『GIVE ME A BREAK!』お楽しみに!