エロ神父と喪女サキュバス
目が覚める。
視界いっぱいに映るのは、アイツの顔だった。
「ねぇ、サッちゃん……おっぱい見せてくれない?」
ごめん、挨拶代わりにそれを言うのやめて。
普通に嫌だから。論外だから。
なんで開口一番におっぱいの開示を要求してるの?
頭おかしいんじゃないの、このエロ神父。
「いやぁ、清々しい朝だね。こんな日は洒落た店でお茶でも嗜みたい気分だよ」
私はアンタの登場で最悪の目覚めよ。
変態男に馬乗りされてる女の気持ちとか、考えたことある?
「うーん……………………おっぱいを見られたい?」
熟考の結果がそれかよッ!
アンタに聞いた私が馬鹿だったわ!
エロで脳みそが腐ってるの忘れてたわ!
あと、あんまり騒ぐと下の大家さんに怒られるからさ。
お願いだから怒らせないでくれる?
「もちろんさ! それにしても、サッちゃんってば露出度低くない? サキュバスなのにそんな色気のないパジャマなんて、僕じゃなければ興奮しなかったよ」
……別にいいじゃないの。そういうサキュバスだっているでしょ。
私はいつか素敵な旦那さんを見つけるつもりなの。
というか、さりげなく興奮してることをアピールしないで。
もうちょっと遠慮や気遣いを覚えなさいよ……。
「フフッ、それは非常にナンセンスな提案だ。僕から興奮を取ったら、ただの聖職者になるからね!」
いや、ただの聖職者でいいじゃん! なんで頑なに興奮を守るんだよ!
……アンタって信仰心とかないの?
もうちょっとさぁ、神への想いを持った方がいいんじゃない?
こうやってサキュバスに質問されてる時点でお察しな感じだけど。
「そんなことより、サッちゃんはいつおっぱいを見せてくれるのさ」
おい、こいつ神とか信仰心をそんなこと呼ばわりしたぞ。
やべぇよ、おっぱいにしか興味ねぇよ。
紛うこと無き性欲の権化だよ。
こんなのが教会で大きな力を持ってるとか世も末だわ。
「僕はね、何事もメリハリが大切だと思うんだ。立場上、聖職者として神に身を捧げるけど、心までは決して縛られない。人にはそれぞれ譲れない一線がある。僕にとってのボーダーは、まさしく君のおっぱいなわけで――」
おいおいおいおい、理屈こねながらパジャマのボタンを外すなッ!
待って待って、ストップ。一旦落ち着こう。
滑らかに動く手先と口先に驚きだよ。
どうしたの、何がそんなに不満なの?
「おっぱいが見たいんだよね」
てめぇはおっぱいbotかよ!
もう少しエロ以外に思考を割こうよ、ね?
「あ、谷間が見えた」
この腐れ○○○野郎があああぁぁぁっ!
死ねよ! 一回死んで来いよ!
ちょいとくたばればその頭も多少マシになるだろうなぁ!?
「昇天するなら、君の上がいい」
前言撤回。百回死にやがれエロ神父!
煉獄に芯まで焼かれて輪廻転生できずに消滅しろッ!
「芯、まで……?」
何でもかんでも性的な意味で捉えるなよぉ!?
違うから! そういう意味じゃないから!
本当どうなってんだ、アンタ。
「サッちゃんも強情だねぇ……よし、交換条件だ。聞いてくれるかい?」
交換条件? うん、いいけど何。
「一方的な要求だから駄目だと思ったんだ。つまり僕の聖なる杖を君に披露――」
それ以上言ったら聖なる杖を圧し折るぞコラ。
どういう風に考えたらそんな結論になるんだよ。
「僕は至って本気さ。たとえハルマゲドンが訪れようものなら、君と最期まで添い遂げる覚悟がある」
勝手に添い遂げるなよ! こっちは望んでねぇんだよ!
アンタの頭の中がハルマゲドンだわ!
口説き文句と見せかけて、結果的に性欲満たしてんじゃねぇか!
「えー、だって等価交換だよ?」
一ミリも等価交換じゃないからね? 私、損しまくりだからね?
なんで聖なる杖を見せつけられた上におっぱいを出さないといけないのかな?
「まったく、サッちゃんは欲しがりだなぁ。他に僕のナニを知りたいの?」
だーかーらー!
「朝っぱらからうるせぇんだよ! こちらとは二日酔いで頭が痛ぇんだ! 騒ぐなら出て行きやがれッ」
「え?」
え?
凄まじい剣幕でドアを蹴り開け、ズカズカと部屋に踏み入る大家。
呆然とする私とエロ神父。
――このあと大家に滅茶苦茶怒られた。