第1話 魔法研究部
ここは四国地方の東に位置する徳島県。
5月中頃、桜は散り、暖かな気候と共に青空を見せる・・・。
なんて事はない。
桜の木どころかほかの木々は朽ち果て、青空が見えるのは真上だけで周りは500メートル程の頑丈な壁で四国を囲んでいる。
そんな鳥籠の様な世界で四国地方の人々は、比較的平和で平凡に暮らしている。
そう、まるで壁が建っていて当たり前だと人々は思っているかの様に。
しかし、ある1人の青年はこう言った。
「なぜ、こんな壁を建てたんだ?」
ここは徳島県の中央に位置する、唯一の高等学校。「青葉高等学校」。
本日もだらしなく登校する、新1年生の姿があった。
「あ〜、部活どうするかな〜」
青葉高校の黒い制服を着用した黒髪の男はダラダラと学校へ向かって歩いていた。
なにやら、印刷されたリストの様なものを持ち、ブツブツと愚痴をこぼしながら何らかのリストと睨み合う。
ーー俺は右腕を痛めていているから運動部は無理か・・・。
彼が持っていたのは部活動の一覧をプリントアウトしたものであり、5月にもなって入部する部活が決まっていない為、どの部活にしようかと悩んでいるのである。
「ん?」
学校指定の鞄からもう1枚の紙を取り出した彼は、何かを発見したのかその紙を凝視する。
「魔法研究部?これ、部活か?」
ーー怪しすぎるだろ!
ま、文化部っぽいし見学だけでも行くか。と軽く呟き、学校へと向かっていった。
そしてその日の放課後、彼はリストに表記してある部室の場所へと足を運ぶ。
ーーけ、見学だけだ。怪しいと思ったらすぐ帰ろう。
この校舎の1階に堂々と「魔法研究部」と張り出されている部室の扉をコンコンコンと軽くノックし、彼は固唾を呑み反応を待つ。
「うぃ〜・・・」
「あっ・・・、その・・・」
扉が開くと黒い制服に白衣を着用した銀髪の少女が顔を出す。
「何?新入部員かなにか?」
表情を表に出さずに銀髪の少女は問いかける。
「あ、1年の高見誠司です。魔法研究部の見学に来ました。見学に・・・ね」
「なぜ2回言ったの・・・。まあいいや、私は2年の水口涼葉。とりあえず入って」
誠司と名乗った彼は涼葉に引かれて部室に入る。
「あれあれ〜?涼葉ちゃん、その子はー?」
同じく制服に白衣を纏った茶髪の元気な少女が誠司に寄り掛かる。
「こちら入部者の高見誠司、1年。誠司、こいつは神木愛理沙。私と同じ2年」
「は、はぁ・・・、よろしくお願いします」
ーーてか何で入部する事になってるんだ?
「よろしくね!誠司君。私の事は気軽に愛理沙ちゃん☆って呼んでね!」
「よろしくお願いしますー・・・」
トホホ・・・と誠司はうなだれているところを、誰かが肩をポンポンと叩く。
「まあ、見学だけでもいいからさ見ていってくれないかな?」
誠司が後ろを振り向くと、同じく制服に白衣を纏った金髪で一見チャラそうだが優しく微笑む男性の姿があった。
「は、はいぃ!」
「僕は部長の間宮玲、3年だ。ここでは魔法の研究を行ってるんだ。胡散臭いと思うけどこれでも成果は上げてるんだ。よろしく、高見君」
ーーこの人、優しいな〜
「じゃあ早速、僕達の研究の成果をお見せしよう!」
その後、3人の部員達はテキパキと準備を進めて1時間。
魔法研究部の3人は準備が整ったと言わんばかりに誠司の前で整列する。
「まず、僕達が最初に着目したのは四国を囲む壁は何の為に、そして誰が建てたのかだ。」
ーーそれは!まさか俺と同じような事を考えてる人がいたんだ。
誠司は目を見開き、部員達の研究の成果を聞く。
「この日本地図を見れば分かるが、この四国以外にも九州や中国地方などが存在する」
玲は大きな日本地図をコルクボードに貼り付け説明する。
「そしてこの事から考えられる事が、日本列島の何かから四国を守る為に建てられたか・・・」
「四国地方の何かから日本列島を守る為封鎖したか、のどちらかですね」
誠司は玲の言葉の続きを代弁してみせた。
「高見君も気になって調べたんだね」
「まあ、少しではありますが・・・」
誠司は少し照れた様子で頭をポリポリとかく。
「なら話は早い!高見君に僕達の一番の成果を見せよう!」
誠司は3人に部室からの隠し通路を通り、地下へと連れたれていった。
ーーやけに本格的だな。何かを隠してるのか?
誠司は辺りをキョロキョロと見渡しながら歩く。
「着いたよ高見君」
到着したのは大きな扉の前だった。
「2人共、開けてくれるかい?」
愛理沙と涼葉はこくりと頷き扉に手を掛け、ゆっくりと押す。
扉が開くと共に淡い青の光が差し込み、全長30メートル程の巨大な青い岩石が現れた。
ーーこれは一体なんなんだ!こんなもの見たことない!
「こっからは私が説明する」
涼葉がテクテクと青い岩石の方へ向かって歩き出す。
「これはフォトン鉱石。今発見されているのは四国でこの場所のみ。昨年発見された」
涼葉は足を止め、クルッとターンし誠司達の方へと目を向ける。
「まだ完成してはいないが、この鉱石のエネルギーを使った武器を製造中だ」
涼葉は真横にビシッと指さしたその方向には、いろんな機械を並べられていた。恐らく製造場なのだろう。
「それにしても、なぜ武器を作るんですか?俺達が戦う理由なんて無いじゃないですか」
「それがあるんだよね〜誠司君!」
今まで黙って話を聞いていた愛理沙が身を乗り出してそう言った。
「そ、その理由は?」
「魔法使いだよ、四国の壁の向こうには魔法使いがいる」
ーー魔法使い?一応いるとされてるけど、伝説やお伽話の様なものだぞ!
「この写真見て、誠司君!」
愛理沙はほいっ、と言って1枚の写真を誠司に渡した。
「・・・っ!!!!!」
ーーこれは四国の空か!?人が空を飛んでる・・・。
「今まで聞いてきた伝説やお伽話は本当だったんだね〜」
「まさか、このフォトン鉱石?を狙って攻めてくる感じですか?」
誠司はチラッとフォトン鉱石を見て問いかけた。
玲達3人はこくりと頷いた。
ーーこの鉱石にどんな力があるんだろう。
誠司はフォトン鉱石へ近づき軽く手で触ってみた。
淡い青の光が誠司を包み込む。
ーーあれ?どうなってるんだ?体の感覚が・・・。
・・・高見君!・・・誠司・・・誠司君・・・っ・・・・・・・・・。
ーー皆の声?
(目覚めよ・・・エウロスの子よ)
ーーえ?
(今が覚醒の時だ)
ーーなんだよ!
(3000年間の呪縛を解いてくれ、高見・E・誠司・・・)
お読み頂きありがとうございます。本作品は2作目になります。どうか感想と評価を頂ければ幸いです。