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世界、あるいは殺し屋の

作者: 深山崇宏

―――――今日も僕は人を殺す。

希望の失せた顔を押さえつけ、血糊で切れ味の落ちた刃で皮膚を剃り削る。

黒い肺を刺し抉り、細い手足を踏みにじる。

幾度となく繰り返されてきた光景に涙腺は軋まない。

いつごろからだろうか。僕は度々人を殺す。

対象はいつの日も同一人物。

彼は何も言わない。そうされるのを待っているかのように錆びた刃を受け入れる。

既にこれはただの作業と化している。

事件ではない。

それは心の中で行われる作業。

社会に牙を剥く獣を押さえつけるため。

理性に抗う本能を押さえつけるため。

気に入らない。相容れない。

何故俺は生まれてきたのか。

虫食いだらけの画用紙に描いた夢はその悉くを否定されて。

足は目的地から大きく外れた道を歩む他なく。

夢は夢。現実は現実。

そんな言葉で、人は容易く己の夢を諦める。

力を見せろと人が言う。

全てを賭けろと人が言う。


力も無く、狭い世界にたった独りの男。

それが僕であり、俺であり、私であり、我であり。

悲しみに目を背けて、苦しみに心を閉ざして。

今にして思えば。

それはきっと、当たり前の人生でした。

僕が俺であろうとするほど、俺が私であろうとするほどに、夢は霞み、遠ざかる。

そんな苦痛を忘れようとするかの如く、僕は今日も(ぼく)を殺す。

二度と苦しまぬよう、二度と悲しまぬよう。

無駄だと悟っておきながら、平気な顔をしながら。

涙の温もりも、心の悲鳴も無視をして。

(ころ)して(ころ)して(ころ)して――――。



―――そして僕は人を(いか)す。

どうしようもない旅路の果てに、未だに見え隠れする夢の続きを思い描いて。

そんな幻想に縛られた重い体を引き摺って、僕らは世界を進む。

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