フルートのはなし
童話風の書き方をしたくて書きましたパート3
むかしむかし、あるところに、フルートを持った少女がいました。
あまりにも昔の話なので、彼女の名前は分かりません。
なので、仮に少女の名をFとします。
少女の持っているフルートは、祖母から母へ、母から自分に渡ってきた、年季の入ったフルートです。
祖母も母も他界していましたが、少女は友達の誰も持っていないフルートを貰って満足でした。
フルートをもらったその夜、少女Fはフルートを枕元に添えて眠りました。
すると、祖母の夢を見ました。
幼い祖母が、懸命にフルートを吹いていますが、周りのみんなは下手だと笑います。
祖母は悔しくて堪らなく、懸命にフルートを吹きました。
けれど、いくら練習しても上達せず笑われて、寝る間も食事も惜しくなるほど練習をしました。
何日も不眠不休で練習をしたせいで、とうとう病気で倒れて死んでしまいました。
みんなが「馬鹿だ」と、また笑いました。
夢はそこで終わりました。
少女Fは、泣きながら目を覚ましました。
悪い夢でも見たのだろうと思い、父は黙って頭を撫でました。
夢の中の祖母を想いながら、少女Fは書いた楽譜を父に見せました。
父が少しずつ書きなおしているのを見て、少女は笑いました。
その夜、少女Fは夢の続きを見ました。
祖母が倒れ、同年代の子供たちが笑っている後ろに、母が立っていました。
祖母が倒れて落としたフルートを拾い上げ、それを吹きました。
でも、母も演奏が下手で、またみんな笑いました。
大人になっても母は上達しませんでした。
そんなところに、黒い服を着た人が現れました。
「なんでもうまくいく薬がありますよ」
母は、たくさんのお金と、薬を交換しました。
薬を飲んだ母の演奏は相変わらず音やリズムがおかしく、全然上手になっているようには見えません。
きっと薬の量が足りないのだと、それから母は何度も薬を買うのです。
次第に買える薬の量は減り、とうとう手に入らなくなった時、自分の下手な演奏に涙を流して母も死にました。
周りのみんなが「馬鹿だ」とまた笑って、夢は終わりました。
少女Fは再び泣きながら起きました。
少女Fは楽譜を書きながら、笑われたまま死んだ祖母や母のことを考えました。
せめて自分は、笑われないくらい上手に演奏しようと決めました。
祖母と母の夢を思い出しながら、少女Fはフルートを吹く日々を送りました。
祖母のように睡眠や食事を惜しんだりせず、母のように甘言に惑わされず、父との充実した日々の中で、少女Fの演奏は上達しました。
ある日、街に楽団が訪れ、演奏会が開かれました。
少女Fはフルートを持って、父に見守られながら、いつも書いている音楽を演奏しました。
少女Fの演奏はうまくいき、楽団の一人のフルート奏者が話しかけました。
すると、少女Fは答えず、代わりにフルートを吹きました。
奏者は不思議に思いましたが、すぐにはっとしました。
少女Fは耳が聞こえず、音階を言葉の代わりにしていたのです。
自分の演奏も拍手も歓声も、少女には聞こえていませんでした。
しかし、拍手をする人々とその笑顔に、少女Fは祖母や母の悔しさを晴らせたと、喜びました。