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七曜の物語

七曜の物語 金曜日の行商人

作者: 白波

 王都から離れたこの場所にある村人が唯一生活用品を手に入れられるのは、毎週金曜日に行商人が持ってくる商品がほとんどであった。

 これには、この村独特の特殊な事情があるからだ。


 そもそも、この村は山の奥地にあり、途中には盗賊の根城があったりとここまでの道のりは大変危険である。

 そのため、需要こそ十分にあるのだが、それほどのリスクを冒してまで商いをしに行く物好きは少ないのだ。


 だが、いつもの行商人は、生活必需品を売り、村の野菜を買って帰っていく。


 どちらにしても、村人がお金を使う機会などこの行商人が来る時ぐらいなのだから、いっそのこと物々交換でいいのではないかという意見があるのだが、行商人は他でもそうだからと言ってあくまで現金での取引を行っていた。


 そんな行商人にお世話になっている村人の一人は、午後には到着するであろう行商人から物を買うために必要なものを整理していた。


「お母ちゃん! 行商さんが来たよ!」

「あら、今日は早めなのね」


 いつもよりも早い行商の到着に若干驚きつつ、女性はなけなしのお金と桶を持って村の広場に向かった。


 村の広場につくと、すでにたくさんの人で人だかりができていて、飛ぶように商品が売れていた。


「あぁ押さないで! 押さないでください! 数は十分に用意していますから! ちゃんと並んでください!」


 行商人が叫ぶように声を上げると、広場は落ち着きを取り戻して人々は順序良く並び始める。

 数は十分にあるといわれているが、やはり先着順に次々と商品が売れて行ってしまうので出遅れてしまったことはかなり大きい。

 周りの人たちも大きな桶を抱えているから、かなり買いだめするつもりなのだろう。


「お兄さん! これ頂戴よ! えっと、なんていったっけ?」

「はい。こちらですね。こちらは200Gです」

「えっと、200ね……はい」

「ちょうどですね! ありがとうございます!」


 やっと、前の人の買い物が終わり、女性の番が回ってきた。


「いらっしゃいませ。どうも、何を買っていきますか?」


 女性がぐるりとまわりを見ると、目的の物は大体残っていた。

 それらを次々と手に取っていき、会計をしようとしたその時だった。


「それってなんですか?」


 女性の目に留まったのは、一冊の本であった。

 赤色の背景に金色の線で模様が描かれたその本には題名が書かれていなかった。


「あぁそれですか。いやーもらいものなんですけれどもね。なかなか読む時間がなくて……よかったら持って行きます?」

「いいんですか?」

「えぇえぇどうぞ、持って行ってください」

「はい。ありがとうございます」


 女性は、商品の会計を済ませて、買ったものとその本を持って広場を後にした。


 その後、不思議なことにその行商人が村にやってくることはなかったという。

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