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さらくんはさらちゃんにもどりました

 食事も風呂も終わって改めて四人で席に着く。なぜかキセトは男に戻っているというのに変える様子は無い。


 「キセト君はいつ帰るんだ?」


 「そうですね、リクスさんも戻ったのを確認すれば帰ります。この世界の魔法の原理とかなり違うようですから、念のためです」


 男に戻るといつも通りの無表情に戻って、キセトは機械のような表情と声で正当な理由を主張した。


 「それはそうと、俺が食べてから二時間ほど後にサラさんが食べたはずです。ですからサラさんもあと二時間ほどで戻るわけですが、この際ですからやりのこしたことなどありますか?」


 「やりのこしたこと……ね。せっかく男になったのだから一度誰かと戦ってみたかったわ」


 「俺ねじ伏せただけじゃ物足りなかったのかよ」


 「だってニックは抵抗しなかったじゃない。真剣に戦ってみたいのよ」


 「腕相撲程度ならお相手しますが……、模擬戦闘となると、俺はこの世界の『決闘』する資格がありませんからね。本物の命一つで俺と模擬と言えど戦闘するのは薦めません」


 「お前ってそこまで強かったっけ。なんかショーも見たこと無い武器とか持ってたし、お前らの世界ってかなり違うのか?」


 「違いますね。俺がいう魔法は万能に近いです。他にもALSなどという決闘のしきたりもありません。そうですね、武器を放したほうが即負けということにしましょう。模擬戦闘ですからその程度でいいでしょう」


 「ALSなしで戦うのか!? 危険だ!」


 「自分の力を試してみたいのよ、リクス」


 「自分の力じゃないだろ。異世界の魔法で手に入れた本来ないはずの力じゃねーか!」


 「今は私の力よ。どんな可能性があったのかぐらい知りたいの」


 「外に出ましょう。手加減しませんよ」


 キセトがサラの手を取って外へ案内していく。リクスとニックはその後に続くしかなかった。キセトがなにをたくらんでいるのか検討もつかない。このままサラが男であることを望むことだけは避けたい。


 「合図をお願いします」


 サラがいつもの剣を、キセトはふざけたことに木の枝を構える。サラの表情に怒りが混じった。キセトは大真面目に木の枝をさらに向けている。


 「えっと、それでいいのか?」


 「構いませんよ」


 「ふざけないで。真面目にして頂戴」


 「大真面目です」


 「……では。『いざ戦いをはじめん!』」


 サラが前に跳んだ。キセトはサラの脚力に物を言わせた跳躍を見て、眺めて、失望したようにため息をつく。


 「本当に浮ついただけだったようですね」


 キセトはその場から動かないように見えたというのに。サラの剣を避けた。風に揺られる葉のように当然のように。サラの剣は速いというのになんとでもないというように。

 次の行動も早かった。木の枝で的確にサラの隙を突く。当然サラとてその枝を避ける、はずだった。のに、少しかすった。


 「…?」


 サラは下がろうとした。理解できないものと対峙するのは危険である。

 が、キセトのほうが速かった。その場でのステップと素早い体勢の変換。二撃目が来る。サラはとっさに逃避行動から撃退体勢に変えキセトの二撃目に備えようとした。


 「遅いです」


 キセトから発せられる音情報。遅いわけが無い。サラは心の中で反論する。キセトが構える木の枝はまだサラを攻撃できない位置だ。

 そこまで考えてサラは間違いに気づいた。木の枝だけが彼の武器ではない。今日、サラは見たではないか。女になっていたはずのキセトの蹴りであのニックが吹っ飛ばされていたではないか。

 キセトの蹴りがサラの武器を吹き飛ばした。乾いた音が鳴って剣が地面に転がる。


 「はい、終了です。男のサラさんは女性の時の強みがそろって消えているので強い敵ではありませんでした」


 「消えている……」


 直接蹴られたわけでもないのに手が痛む。剣は折れていないが、剣を握っていた手がしびれる威力の蹴りをキセトは放てるのだ。今はサラもキセトも男の体で、圧倒的にサラのほうが体格が勝っているはずなのに。


 「女性のサラさんと戦ったことがあるわけではないので確証はありませんが、筋肉の分パワーは上がってもスピードが落ちたみたいですね。筋肉というのは重りのようなものですから仕方が無いですけど。その僅かなスピードの落ちがサラさん本人の違和感として戦闘の邪魔をしたと思います。サラさんの従来の戦闘スタイルに合っていないはずですから」


 「スタイルは……これから変えられるわ」


 強くなって、私は目的を果さなければならない。目的を果すために少しでも強くならなくてはならない。


 「変えてまで力を手に入れたいんですか?」


 「そうよ。私は成し遂げなければならないことが――


 「あるものを捨ててまで力を手に入れて、したいことがあるんですか?」


 「………」


 あるもの。キセトがいった、女のサラにあるもの。

 それって、――何。


 「本来あったスピードや戦闘スタイルや、みなさんの思いを捨ててまで力を手に入れたいんですね?」


 「違うわ。そうじゃないの」


 サラが取り戻したいのは過去で、過去のために今を捨てて力を手に入れる? それだけは違うのではないだろうか。模擬戦闘一つで心配してくれているリクスやニックを見て、それを捨てていいものとはサラには言えない。


 「ほら、サラさんはサラさんのままが素敵ですよ。あなたはあなたのまま目的を果してください。俺もそのままのあなたと友人でありたい」


 サラの体から煙がのぼる。体が縮む感触。着ていた服が大きくなるような錯覚。鎧のように全身にあった筋肉が失われる感触。

 そのかわり、何か温かいものが心に戻ってくる感触もたしかにした。


 「相変わらず綺麗ですね、サラさん。自慢の友人です」


 そういってサラの黒尽くめの友人はサラに握手を求めてきた。左手だった。

 サラは自分の体に対してかなり大きいリクスの服にもたつきながら左手を差し出してキセトの手を取った。握り返してきてくれた手は確かに男の手で、サラが持っていない強さを持っている手だけれど。

 もう不思議とサラはその強さを欲しいとは思わなかったのだ。自分の手が誇り高いもののように思えた。


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