さらくんはおなかがへっているようです
何事もなかった顔をしたサラと、明らかに赤面しているニックがリビングに戻ってくると、いるはずのキセトはおらず、いないはずのリクス(♀)がいた。
「おかえりなさい」
「おまえ、なにそれ。なんでそんなことなってんの!?」
キセトもいたのだからクッキーが危険であることぐらいわかるだろうに。そもそもこの家にキセトがいるときはいいときではないといい加減警戒して欲しいところだ。
というが、自分の家で警戒しろと言われる身にもなると理不尽であるが。
「俺が聞きたい...」
リクスの声はこれ以上なく沈んでいる。目の前にはかじられたクッキーがそのまま置かれていた。
「お二人とも、リクスさん帰ってますよ。見ての通りクッキー食べてしまわれましたけど」
キセトは少しリビングを離れていたことを説明し、戻ってくるとすでにリクス(♀)がいたという。自分の体を抱きしめてこの世の終わりのような顔をしていたそうだ。
「かわいいわ」
「サラは黙っておいてくれ」
「じ、時間が経てば治りますから。ねっ? それより夕飯にしましょう。お邪魔してる身でなんですが、作らせて貰いましたから。……お二人を呼びに言ったんですけど、お邪魔みたいでしたし、ね?」
キセトがリビングを離れていたというのも、サラとニックを呼びに言っていたのだが、ニックがサラを呼びにいってから起こったことなど数少ない。
「お邪魔!? このアホスカーフとサラにお邪魔なんてない!!」
リクスの声に怒気が篭っている。せっかくリクスの醜態を見て戻っていたニックの顔色も再びほんのり赤くなった。
「怒らないで下さいっ。だだだだだってですねっ! 二人でキキキキ――
「あー!! それはいいから!」
キセトの顔も真っ赤になっていてただごとではないとすぐにわかる状態だ。珍しくニックの顔も真っ赤である。
「き? きってなんだ! おいこらアホスカーフ! サラに何したんだ!?」
「女の姿で絡んでくるなよ! 相手しにくいだろーが!」
「サラは俺のだぞ!」
「はぁ!? 女の姿でなに言ってるんだよ! サラにお似合いなのは現状俺だろ!」
リクスがサラの腕に抱きつき、ニックはサラの両肩をしっかり掴む。当人のサラはご飯美味しそうだな、ぐらいしか考えていないのだが。
「サラ!? 俺かこのアホスカーフ、どっちだ!?」
「サラ、正直に言えばいいんだぜ! こんな女になっちまうようなやつなんかに気遣わなくてもいいんだぜ!」
「……キセトさん(の料理美味しそう)」
「………」
「………」
場が固まり、話を全く聞いていないキセトとリクス・ニックの視線が合う。キセトは食事が始まるのかな、ととりあえず微笑んだのだが、それが命取りだった。