にこらすさんはきせこちゃんのむねをさわろうとした!
ここで美女について語ったことを修正すべきだろう。
美女は美男子に姿を変えていたし、変わらないようで大きく変わっている。女性としても大きく胸元の開いた服は、なくなった空間を示して真っ直ぐ地面に向かっている。その奥に何か見えそうだと錯覚するほど透明感のあった肌は、健康を思わせる力強さのような美しさに変わってた。
なにより、彼女は、いや彼の発した声がその変化が錯覚ではないことを聴覚からも保障してくれたのだ。
「どういうことかしら」
揺れることの無い、奥深くにある強い芯を感じることに変わりは無い。が、低かった。思っていた声より低く、ニックは瞬きするしかない。
「すいません……。連夜に贈られてきたお菓子なんですが、その……。性別を逆にする魔法が掛かっているようなんです。それで、その、俺も……」
女性になっているからか罪悪感からか、いつもよりキセトの声にも感情が篭っている。なによりサラから逸らされた彼女――キセト――の瞳には諦めと涙が伴っていた。
「本物の女なのかよ……。で、サラは男?」
「俺は、女性になっても女性的特徴のない体格のようですのでいつものスーツを着ていればわからない程度なんですけれど……。少し縮んだことと声が高くなったことぐらいでしょうか」
「そうだな、胸もぺったんこだっうぅっ
キセトの足元から黒い影のようなものが伸びてニックの体が吹っ飛んだ。サラから見ているとキセトがニックを蹴ったようだが、速すぎて確信が持てなかった。
キセトはすいませんといつも通りの無感情を思わせる声で謝罪したのち、次は彼女らしくない感情の篭った声で「そういうの、やめてください」と本物の女であるかのように呟いた。
「時間が経てば治ると分かっていますから安心してください。サラさんも一つ食べただけでしょう? すぐに戻りますから」
「………」
「さ、サラ?」
「着替え……。リクスの服を着てもいいのかしら?」
彼もまた、普段の彼らしくなく少し照れてそう言った。