れんやがもってきたおみやげはくちにしちゃだめ☆
「あれ? あいつは?」
断りもなく家に入ってくる男は、人形のような美女を見つけて笑いかけた。
ただの男なら言葉を失うほどの美貌だが、流石にこの男は慣れた。少なからず、最初から言葉に詰まることがない程度は慣れたのだろう。未だに眩暈のような、視界がチカチカする感覚は初めて出会ったときから続いている。
その美しい女性は「あいつ」が誰かをじっくり考えた後、冷たくはないが落ち着いた声で「出かけているわ」と短く返してくれた。
「じゃ、二人きりじゃん!」
「そうね。彼らがいなければ」
「彼ら?」
美しい女性、サラ・ルターが窓を指差した。男――ニコラス・スサード――が入ってきた庭側に設けられている窓の向こうに見えた顔は――
「げっ」
見覚えはあるがここにはいて欲しくないものばかりだった。
「よっ」
その男は無断で部屋に入り、片手を挙げてサラとニックに挨拶をする。銀髪の男を見てサラは無表情で、ニックは生ものの臭いを無理矢理嗅がされたかのような表情で挨拶に応えた。
「なんでこんなとこにいるんだよ、お前が」
「いやー、ちょっとばかし問題が起こってなー。とりあえず、お土産!」
連夜がサラとニックにそれぞれ小さい箱を手渡した。中身は同じもののようでクッキーが数枚ずつ入っている。
「あれ? むっつりは?」
「出かけているわ」
ニックに言った同じ言葉をサラが繰り返した。連夜はじゃ、ついで、ともう一つ小さい箱をニックに手渡す。
「なんだよ、これ」
「食えばわかる。あと、ちょっとコイツ預かって」
一番最後にハートでも着きそうな台詞で紹介されたのは、今更紹介されるまでも無い黒尽くめの男だった。いつも無表情なのだが、今はうつむいているせいでさらに表情がわかりにくい。
「キセトさん?」
「ちょーと問題があってな。今の状態のコイツをこっちの世界にいさせたらトラウマものになるだろうからってことで。じゃ、頼んだ!」
「おいっ!?」
「サイナラー」
古い別れの言葉を残して、連夜は即行帰ってしまう。残された黒尽くめの男は、いつもよりは高めの声ですいません、と謝ってくれたが、サラもニックも何に巻き込まれたのかいまいち理解できていない。
「あ、あの。時間が経てば治りますから、治れば自分で帰りますので。気になさらないで下さい」
「気にするなって言われてもだな。何が問題なんだよ」
「それは……――って、サラさん、それ食べないでくだ……さいって遅かったですね」
「美味しいわ」
「そうじゃなくて、えっと、とりあえず上着を羽織っておいてください」
「?」
「え、えぇ……」
キセトがニックにサラから離れるように指示し、二人で壁側による。
そこでニックは気づいたのだが、キセトの高さが足りない気がする。男の身長など気にしていないが、いくらなんでも低過ぎないだろうか。ニックの肩ほどだ。そこまで低くないはずだろう。
しかもニックを壁のほうへ押す手も、いつもの骨ばった印象の手というより、どこか丸みを帯びている。細いことに変わりはないがなぜかそう感じた。
ニックがそんなことに疑問を思っている間に、サラの体から煙が発生しだした。流石にニックがサラに近寄ろうとしたが、キセトにとめられ、えっ。
「おまえ、え、なんで、胸――
「コレはどういうことなのかしら?」
キセトに抱きつかれて、言葉通り全身で止められたニックはキセトの体を指差して。
煙が収まって異変が起きていないか確認したサラは、自分の体を抱きしめて。
とりあえず言葉を失っておいた。