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短編集

灰かぶりの逃亡

作者:

荘厳な佇まいのお城。王城御用だしの商人だったお父様が仕事かなにかでお城に上がるときに一緒に連れられて城を訪れた少女はそこで生涯に渡り忘れることの出来ない出会いをすることになりました。


「…………おれのつまになってください!!」


小さいながらも美しい顔をした王子様は少女に膝をついて求婚をしました。

子供の戯言というにはあまりのもその様子は真剣そのもので彼の本気が痛いほどに伝わってきます。

キラキラと輝く宝石のように美しい青い瞳は真っ直ぐに受け止めた少女の顔は何故だか青ざめていました。


「…………」


あぐあぐと開閉を繰り返す少女に王子様はそっと手を伸ばし触れます。びくんっ!と大げさなほど少女の肩が震えるのも構わず王子様はぎゅうと少女に抱きつきます。


「すきですあいしてますおれとけっこんしてください!!」


大声で愛を叫びながら王子は少女の足に頬擦りを開始します。ねちこく執拗に上下左右する王子様の頭を見ながら少女の顔から完全に血の気が引いてしまいました。


へんたいだ。へんたいがいる。あしふぇちだ。


少女は確信しました。

この国は足フェチの残念な男を将来の国主にしなければならない残酷な運命にあるのだと。

少女がこの国の将来を嘆いている間にも王子様は一人で暴走中です。


「はぁはぁ………なんてりそうどおりのあしなんだろう………やせすぎず重量感ある肉付き、だからといって筋肉質ではなくほどよく引き締まっていてだけど肌はきめこまやかで………」


なぜか趣味語りのところだけは舌足らずが直り大人顔負けの饒舌さです。末恐ろしいお子様ですね。


思う存分少女の足に頬ずりをした王子様が顔をあげます。その頬は赤く上気し、若干息が荒いです。綺麗な顔なのにその荒い息で彼が天性的に与えられていた全てのよきところが目茶苦茶にされているようでした。その息の理由を全く考えたくない少女はそこから全力で目を逸らしました。


「おれの、おれのものだ………ぜったいにだれにもわたたさない」


婚約?いや、結婚までにもっていけるか?監禁?いい。誰にも見せないでおれだけ見て………などと言い出した王子様に少女はもう、泣くのを通り過ぎて即身仏になって無我の局地に行きそうでした。


なんてことでしょうか。この王子様変態性だけではなく若干病み属性も持ち合わせているようです。

それにしても足を撫で回しながら病んだ発言を繰り返すのはやめて欲しいです。


王子の手がお尻を撫でた瞬間、少女に限界が来ました。


「い、やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!」


庶民育ちの少女が日々の家事手伝いで鍛えた足で見事な蹴りを繰り出ししがみ付く王子さまを蹴り飛ばします。

王子様も執念で物凄い力でしがみ付いて絶えていましたが続けて三発も蹴られるとさすがに耐え切れなかったらしく「ぐはぁ!」と呻きながら遠くに飛ばされました。

その隙に少女は全力で変態から逃げ出します。


蹴り飛ばされた王子様背後で「いい………かも」とか開かんでいい扉を開きかけていたとか、恍惚の表情を浮かべていたとか「やっぱりいい、足」とか子供とは思えんため息をついていたとかは知らない方が少女はきっと幸せだったのでしょう。


そして、時間は流れ、王子様と少女は年頃にまで成長しました。


あの幼い一回だけの出会い以来、少女と王子様は会っていません。少女は名前を教えていませんでしたし、少女のお父さんがその後、亡くなり少女はお父さんの再婚相手である義母と義姉二人と一緒に今まで住んでいた住まいを引越し、一庶民としてひっそりと街で暮らしていたからです。


少女にとって悪夢と化したあの出会いから王子様の目に触れないことを第一に生活してきたのにここにきて最大の危機が訪れておりました。



「……………」


「あらあら。年頃の女の子全員に舞踏会の招待状だなんて王子様は太っ腹ですわね」


招待状を見ながらのほほんとずれた感想を言ったのは義母。とても二人の娘を産み、継子を含め三人の娘の母親には見えない若々しい女性は年齢不詳のとても魅力的に見える笑みを浮かべました。


「舞踏会の規模が大きくなればそれだけ経費が増えます。不特定多数の人間を城に呼び込むことにより警備の面でも面倒は増えるでしょうし、めぐりめぐって増税などになったりしたら嫌です」


東の国で使われているそろばんといわれる計算機をはじきながら眉をしかめるのは下の姉です。


「ちょっと!何夢のないこと言ってんの!!お城で舞踏会をぶ・とう・かい!!王子様に会うチャンスよチャンス!!あたしらみたいな庶民でも王子様の目に留まればお城勤めも夢じゃないわ!!」


そこは玉の輿ではなないのか?などと突っ込む相手はこの場にいません。母の血を感じさせるずれた発言をするのは可愛いもの大好きオシャレ命の上の姉でした。


「噂によると王子様は幼い頃に逢った初恋の人を探しているらしいわねぇ」


ロマンだわねと夢見る口調の義母に心当たりのある少女の招待状を持つ手が不自然に震えました。


「あら、どうしたの?シンデレラ?」


「な、ナンデモナイヨ?」


目茶苦茶棒読み口調でした。


「そう?体調が悪いのなら早く言うのよ?舞踏会に出られなかったらざんね………」


「ごぼごぼごぼっ!!ああ~~なんだかめまいが~~~~」


速攻で仮病に走ったシンデレラ。どうやら「王子様」は特大のトラウマになっている様子です。


「ちょ、大丈夫?」


「熱はないようだけど大事を取って休んでおく?」


「あらあらあら!!どうしましょ?お医者さん?薬?こおり?」


「「「お母さんは何もしないで落ち着いて」」」


娘の声が見事に揃いました。

ちなみに義母はのほほんとした外見を裏切らないほどド天然でどじっ子でした。娘たちが過保護になるのも当たり前ですね。



心配して家に残るという義母たちをどうにか説得して、舞踏会に送り出したシンデレラは疲労困憊のままベットにダイブしました。

自分が王子様に会うのは真っ平ゴメンですがせっかくの舞踏会です。いつも働き通しの家族には楽しんできて欲しかったのです。


「はぁ~~~~どうにか切り抜けた~~~~~~~」


王子様と会わずに済んで心底ほっとしたシンデレラでしたが彼女は忘れていました。自分に不運属性というちょっと嫌な属性を背負っているということに。


「優しいお父さんを亡くし、意地悪な継母と姉二人にいじめられる可哀想な女の子………」


「は?」


突然聞こえてきた男の声にシンデレラは勢いよくベットから起き上がりました。

男の声にも驚きましたが全く事実と違う発言内容にも驚きです。

誰だ一体と辺りを見渡すシンデレラ。

すると、部屋の中にはいつの間にはとんがり帽子に黒いローブ。木で出来た杖を持ったどこからどう見てもまほうつか…………。


「不法侵入者!!」


魔法使い改め不法侵入者は…………。


「ひどくない!!僕、魔法使いだよ!!」


ごほん。失礼しました。魔法使いはシンデレラの正直すぎる言葉に胸を押さえてよろよろと崩れ落ちるがすぐに復活して杖を構えました。意外と図太い魔法使いなのかもしれません。


「さて、家族に置いていかれて舞踏会に行けなかった可哀想な君に魔法使いが綺麗なドレスと靴を与えて舞踏会に連れて行ってあげよう」


どうやらこの魔法使い、思い込みが激しいようです。迷惑ですね。


「余計な世話よ」


「まずはかぼちゃとねずみと持ってきて」


「だから余計な世話だってば」


「え?ないの?仕方がないなぁ~~サービスですぐに舞踏会にいけるようにしてあげるよ!」


「人の話を聞きなさいよ!!」


「さぁ、魔法を掛けるよ~~~。十数えたら君はお姫様だぁ~~~~~!!一、」


「っうう~~~~!!」


逃げるしかない!と扉に向かいかけたシンデレラでしたが。


「十」


「数えてない!!」


驚きです。十数えると言った意味はなんだったのでしょうか?魔法使いは一気に省略した。キラキラと輝く黄金色の光がシンデレラを包み込んでいきます。

光が消えて現れたのは真っ白なドレスのとてもとても美しい女の子でした。


魔王使いは己の仕事に満足したかのように頷いていますがその襟首をシンデレラが凄みのある目で睨みつけながら締め上げます。


「ちょ、くるし………」


「元に戻しなさい」


「え?なんで?」


「いいから戻して!!舞踏会なんて行かないから!!」


「え~~~~」


不満そうな魔法使いをこいつ庭に埋めてやろうかと凶暴かつ魅了的な考えが頭に浮かんだシンデレラでした。

その後、行く、行かないの押し問答が繰り広がれましたが最終的には異様に押しの強い魔法使いにシンデレラが押し切られてしまいました。


満足そうな魔法使いの隣で精魂尽きたシンデレラが真っ白に煤けていました。



しぶしぶ舞踏会に行くことには了承したシンデレラでしたがいくつかの注文を魔法使いにつけていました。


「まずは化粧!!こんなナチュラルメイクじゃ顔がバレルじゃない。元が分からないぐらい変装してよ!」


「うんうん。王子様の前じゃ綺麗でいたいよね。分かった!フルメイクにしてあげるね」


「あと、この靴!こんなに踵が高かったら王子と会ったときに逃げられないじゃない!!もっと低くして!」


「ダンスをしたとき王子様を踏んだら痛いもんね。分かった低い靴にしてあげるよ」


「それからメガネ。メガネ頂戴。分厚い顔が半分ぐらい隠れる奴!化粧とメガネの二段重ねで隠せば万が一にでも素顔がバレルことはないでしょう」


「ギャップ萌という奴だね!いいよ。出してあげる!」


全くかみ合ってない会話を交わしつつ準備が終了しました。


最終的にできたのは綺麗な白のドレスを身に纏った低い踵の靴を履いた分厚いメガネをかけたやぼったいのかオシャレなのか判断つきにくい女の子が一人。


「こ、これならなんとか大丈夫かな?」


「さぁ、馬車に乗って。舞踏会を楽しんできてよ!」


「はははははははっ」


魔法使いのことはもう笑って流すことにしたらしいシンデレラは何も言わずに馬車に乗り込みました。




(あの魔法使いへし折る)


物騒なことを考えつつもシンデレラの顔色は真っ青を通り越して真っ白になっていました。

舞踏会にやってきたシンデレラはこそこそと隠れるように会場に入ったのですが。


にこやかにだけど一線を引いて群がる女の子達の相手をしていた王子がシンデレラの姿を見つけるや否や他のことを一切省みずに彼女に近寄ってきたのです。

にこにこ魅力的な笑みを浮かべる王子様の視線はシンデレラの足にがっちり固定されています。ずんずんと歩み寄ってくる王子様はただただ足だけを見ています。子供の頃から性癖、変わってません。

恐ろしいです。恐ろしすぎます。

分厚いドレスを着ているというのにどうやら王子様は好みの足を鋭く感知しているらしいのです。


シンデレラは気づかない振りをしながらくるりと背中を向けて脱兎のごとく逃げ出しました。


やばいやばいやばいやばいや~~~~~~~~~ば~~~~~い~~~~~~~~~~!!


(やっぱりくるんじゃなかった。何できた。あの魔法使い絶対に折る。なにがなんでも折る。二つ折りにしてやる!!)


涙目になりつつ走りにくいドレスを持ち上げて走り出すシンデレラ。あらわになったくるぶしに王子様の目が狩人のように鋭くなります。


「君!待って!!その足をもっとよく見せて触らせてなめさ………」


「教育上よくないことを連発しないでぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~~~~!!」


間違えた。隠すべきは顔じゃなく足だった!


王子様は初恋の人の顔なんて覚えてなんていなかったのです。覚えているのは理想の足。とにかく足だったのです。


「頼む。待ってくれ!!理想の足の君!!」


王子様本当に足しか見てません。

嫌なことにブレません。


かつかつかつと全力で階段を駆け下ります。逃げないと逃げないといけない。それだけを呪文のように繰り返します。

階段の踊り場でよろけました。。王子様がそれを見て一層スピードを上げた。ぞわぞわと背筋を悪寒が走しました。

追いつかれる。

そう思った途端、身体が動いていました。防衛本能というやつです。


「ようやく見つけた!」


「喰らえ!!」


履いていた靴を脱いで思いっきり勢いをつけて王子様に向けてぶん投げます。


「ぐはぁ!」


シンデレラの投げた靴は狙ったかのようにシンデレラに手を伸ばしていた王子様の顔面にヒットしました。

王子様が背中から倒れた隙にシンデレラは逃げます。かぼちゃの馬車に乗り、全速力で家へと向かいます。


涙目で帰ってきたシンデレラ。魔法で全てを見ていた魔法使い。


「だから、いやだっていったのよ………っ」

「ごめんなさい」


魔法使いは素直に自分の非を認めました。



一方、シンデレラに逃げられてしまった王子様はというと………。


「王子、なんだかとてつもなく嬉しそうですね」

「うん。やっと初恋の人に繋がる手がかりが手に入ったからね」

王子様は手の中のガラスの靴を手にとり、とてつもなくいい笑顔で側近に命じます。


「国専属の魔法使いを呼んでくれないかい?この靴にちょっとした魔法をかけてもらいたんだ」


どうやらシンデレラの安息の日々は益々遠のくようであります。

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― 新着の感想 ―
[一言] >やせすぎず重量感ある肉付き、だからといって筋肉質ではなくほどよく引き締まっていてだけど肌はきめこまやかで・・・ 私は足フェチではありませんが・・・王子とは良い酒が飲めそうです。・・・・・・…
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