第九幕「心」
燈緤惺「あなたは・・・」
燈緤惺は突然現れた男性に言葉を返した。
?「それより、早く傘に入って、風邪引いちゃうよ。」
彼は、私に手をさしのべてくれた。
それはとても優しかった・・・。
燈緤惺はその彼の手を握ると、立ち上がった。
何故だかわからないけれど、彼の雨で濡れた冷たい手を
私はものすごく暖かく感じた・・・・・。
少し歩いて、大木の木陰へと入った。
?「いきなり、ごめんね。まだ名前を言ってなかったね。」
彼は優しい顔で、私に話しかけた。
はやぶさ せん
?「僕は、 隼 千」
彼は身も知らずの私に名前を名乗ってくれた。
私も名乗るべきかと考えようとする・・・
けれど、こちらの方も彼がどんな人か知らない。
すると、彼はこう言った。
千「何もいわなくていいよ。勝手に僕が名乗ったんだから」
彼は、私の気持ちを察してくれたのだろう。
千「君があそこに倒れてたから、びっくりしたよ・・。でも、きっと
何かあったんだね。」
彼はほんとに優しかった。
私は自分の身に起こったことを、全て話した。
妖怪のことも、全て・・・・・・
千「妖怪か・・・・ほんとに悪い奴ばかり、、、、、
だけどね、君が思ってる妖怪より、いい妖怪はたくさんいるんだよ。
翠君って言う子だって、君を守るために妖怪としての姿を見せたんじゃないかな?」
燈緤惺(分かってる・・・・・・分かってるけれど、
どうしても翠様の妖怪の姿を思い出してしまう。)
燈緤惺はうつむいてまた、今の現実を感じる・・・
千「少しずつでも、彼の心を受け止めることは大切だよ。」
燈緤惺「あなたは・・・何故、私にこんな優しくしてくれるのですか・・・?」
千「僕もね・・・妖怪だから・・・」
彼は、何を言っているのだろう・・・。
燈緤惺「妖怪・・・・」
燈緤惺はすぐさま彼から離れた。
千「僕は、妖怪だから、不気味だ。とか、気持ち悪がられて
自分のことが大嫌いだったんだ。いくら人に優しくしても、逃げられて
怖がられて、本当に妖怪として生まれた自分が嫌だった・・・・。
人を恨もうとしても、恨むことが出来なかった・・・・・。」
燈緤惺「・・えっ・・・・・」
彼の目はとても真剣だった。
千「僕は昔小さいときに、人に助けられたんだ。
妖怪として誰からも見捨てられて、途方にくれていて、
食べる気力さえなくなっていた。
そこに、ある一人の人が、僕に手をさしのべてくれた。妖怪である僕に・・・
その人は、僕がお腹一杯になるまで、食べ物を食べさしてくれた。
本当に嬉しかった・・・。妖怪の自分に優しくしてくれたあの人を、僕は大好きだった・・。
でも、その人はいつの間にか、消えてしまった。
人とは儚くて、すぐに居なくなってしまうけれど、僕はそんな人たちが大好きなんだ。
だから、人を傷つけることはしない・・・・。」
燈緤惺「ごめんなさい・・・・。ごめんなさい・・・・。」
燈緤惺はうつむいて涙を流した。
自分がここに来て、翠を傷つけて、この人までも傷つけるかと思うと
悲しくて・・・苦しくて・・・
千「君が謝ることはないよ。」
彼は優しい顔で私をまた慰めた。
燈緤惺「私・・・晴明様を傷つけた妖怪が許せなかった・・・・・
でも逆に私はたくさんの人を傷つけてた・・・・・・。
ほんとにごめんなさい・・・。」
時間は流れていくけれど、心や気持ちは変わることはない・・・
信じていれば、気持ちを受け取ることができる・・・
何度すれ違いがあっても、心はつながりあっている・・・。
翌朝・・・・・
翠(あいつ・・・・どこに・・・
やっぱり、妖怪なんて不気味なだけだよな・・・)
ピンポーン
翠(こんな朝早く、誰だ?)
朝ご飯の支度から、玄関へと向かった。
「はい・・」
ガチャ。
ドアをあけるとそこには燈緤惺と・・・もう一人いた。
翠「お前・・・どこ行ってたんだ・・・。俺は妖怪だぞ・・・家を出てもいいんだぞ・・」
燈緤惺「ごめんなさい・・・。」
燈緤惺は翠に頭を下げた・・・。
翠「えっ・・・・」
燈緤惺「私、のことを・・守ってくれてありがとうございます。
妖怪でも、人間じゃなくても・・あなたは、翠様は・・
私に手をさしのべてくれた・・。嬉しかった・・・。
だから・・・ここにいても・・・いいですか?」
翠「・・・ぁぁ・・・」
翠は驚いた後、小さく呟いた。
燈緤惺「ありがとうございます。」
燈緤惺は満面の笑みを浮かべた。
千「じゃあ僕はここで・・」
千は燈緤惺に優しい笑みを送り、その場を去ろうとした。
翠「お前・・・・・妖怪か・・・・」
千を少し睨みつけたが、その後照れた顔をして、
「飯多く、作ってるから、上がれよ。」
千「えっ・・・・僕なんかがいいんですか・・」
翠「こいつのこと、送ってくれたお礼・・・・」
そうして、家の中に入り、いつもの居間で豪勢な翠の料理を食べた。
燈緤惺「千君ってどこに住んでるの。」
燈緤惺はご飯を頬張りながら、千に聞く・・・。
翠「・・・」
翠は少し「千君」と言う言葉に反応した。
千「木の上かな・・・」
燈緤惺「木の上・・・?」
少し周りが驚いた。いくら妖怪とはいえ・・・・・
翠「ここに住むか・・・・」
翠が無表情のまま、さりげなく提案する。
燈緤惺「翠様も言っているし、いいんじゃないかな。」
千「ありがとうございます。」
千はとても嬉しそうな顔をしていた。
燈緤惺は思い出した。
燈緤惺(いつか・・・晴明様が言っていた・・)
(晴明「燈緤惺・・・・・心というものは、
すぐに変わるかもしれないけれど、誰かが信じていれば
必ず本物の真実にたどり着く。
燈緤惺・・・お前はそんな優しい心を持って、
大切な人を守るんだ・・。」)
燈緤惺(晴明様・・・・・)