第8話 〜メイド(侍女)と変調と〜
気付けばこんなに日付がたっていました・・。
誠に申し訳有りません!!
エリスは朝、目が覚めた。
その時間帯は予定よりも少し早めであった。
「・・・・う、早ぃぃ・・・・。
仕方ないかな、起きちゃったし。
ハイラ〜、早く起きよーよー。」
結局あの後ハイラルディスは深夜に帰ってきた。
エリスはその時寝ていたが、自分の絶対領域(結界)に入ってきたときに感覚でハイラルディスだと分かった。
エリスはハイラルディスを揺らすが、いっこうに起きる気配がない。
「う〜ん、まあいいや。
朝食食べよ。」
エリスはそう言いながら起きたが、何かに足をすくわれ、転けてしまった。
「あう!
・・・、ほんとに寝てるの?」
寝ている筈のハイラルディスが手でエリスの足を引っ張っていた。
エリスはハイラルディスが本当に寝ているのか疑ったが、取りあえず手をどけようとした。
しかし、手は全くは外れない。
「ちょっとー、もー、どーして寝ている筈なのに外れないのー!!」
エリスはハイラルディスに聞こえていない筈なのに無駄だと分かっていてさけんだ。
次の瞬間、急にハイラルディスの手が緩まった。
「へ?・・・きゃあ!!」
ハイラルディスの手が緩まった所為で、エリスはバランスを崩して転けてしまった。
「いたたた・・・。
今日はついてないのかな。」
エリスが一人呟くと、後方から声がした。
「そんな事無いと思いますよ。」
「え?誰・・・・。」
エリスが後ろを向くと、いたのは起きたハイラルディスだった。
しかし、様子が変である。
いつものハイラルディスは活発な印象だが、今のハイラルディスはなんだか色気が有るような気がしてならなかった。
そして、後ろを向いたエリスは、見なければよかった・・・、と少し後悔したが、時既に遅し。
「おはようございます、『所有者』エリス様。
そして、お久しぶりです、とも言うべきでしょうか?」
ハイラルディスでは考えられないような笑顔でハイラルディス(敵)は聞いた。
「・・・久しぶり、そして・・・・さよならね!!
ハイラを介して来ないでよ、『リタ・・・」
「ちょっと待ってください!!」
エリスが魔法を使おうと精霊を収束させたとき、ハイラルディス(敵)は焦っていった。
「・・・何よ?」
エリスは口を尖らせていった。
「スネないでください、マスターエリス様。
・・・お分かりでしょうが、あの人達が来られますよ、・・遠くない未来に。」
ハイラルディス(敵)は真摯に告げた。
「・・・分かって、る。
その為に今は動かないの!!」
エリスはハイラルディス(敵)に半ば怒鳴るようにいった。
「そうですか・・・。
これで俺の用件は終わります。
・・お気をつけて、マスターエリス様。」
ハイラルディス(敵)は憂いを秘めた表情をし、ハイラルディスは再び眠りについた。
「・・・・。」
エリスは暫く考える素振りを見せた。
しかし、少し後には笑顔だった。
「さ!着替えて朝食ね〜♪」
エリスは、手早くその場で(ハイラルディスが居るが)着替えを済ませ、ルンルンとした足取りで、部屋を去った。
ちなみに服は、侍女の服である。
「うわぁ・・。
いつ見てもすごい食堂・・・・。」
その食堂は、とにかく広かった。
しかし、食堂は二つに分かれており、使用人と兵士のところが赤い線で引かれていた。
エリスがなぜ使用人と兵士が分かったかというと、大きく看板に書いてあったのだ。
「えっと・・・私はこちらね・・。」
そしてエリスは颯爽とその場を去った。
「ノエル・・・?」
エリスは雪を見ていた。
ここは雪の降る寒い大陸である。
先ほど、食事を摂りにいった時。
注文の受付係の人には「新人さん?」と聞かれたが、ここはそう言うのが多いのか、誰も気に留めていなかった。
エリスが黙々と食事を摂っていると、何故か雪が見たくなってしまった。
ここ、ケルフェリズ王国の雪はとても神秘的で綺麗な雪である。
気候や土地柄など、いろいろな説が有るが、未だ分かってはいない。
雪を見ていると、エリスに頭痛が走った。
———選ばなければならない。
『貴女』はどうするの?———
「・・・え?」
エリスは少し抜けたような声で自分に問うた。
「今の、誰の声・・・?」
静かなエリスの声だけが、空を吹き抜けた。
「やっぱり、あれは・・・。」
そして、後ろではエリスを見ている誰か、が居た・・・。
時は経ち、指定の時刻である。
「もうこんな時間ー!
早く行かないと!!」
エリスは焦っていた。
魅入られる様に雪を見ていたため、予定外の時間が長かった為である。
「・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・。」
エリスがとまった。
エリスは木造の扉の前にたっていた。
その扉を、エリスはコンコン、とノックした。
「はい、誰ですか?
もう朝礼の時間でございますよ?」
扉の向こうからの返事は厳しい声だった。
そんな声に少し懐かしいことを思い出しながらエリスは返事した。
「・・・今日から侍女になります、フィオルセッテ=グランジェルノです。
遅れて申し訳有りませんでした。」
「・・・入りなさい、話はそれからです。」
「はい・・・。」
エリスは渋々部屋の中に入った・・・。
「遅いです!
・・今回は初日なので許しますが、それ以降は気をつける様に。」
「はい・・。」
艶のあるアルビノの色の髪を持っているメイド長と思われる女性はエリスへ怒声をならした。
エリスはシュン、となりながらも返事した。
「貴女の担当は・・・アーセルイン様ですか・・・・・。」
メイド長と思われる女性は紙を持ちながらため息をついた。
「あ、あの・・・どうかされましたか・・・?」
「いえ。
・・あの方は自己犠牲身が強い方なので気をつけて下さい。
もし、あなたが人質に捕られれば、迷わず自分の身を差し出してしまうかもしれませんから。」
メイド長と思われる女性は真摯な瞳で告げた。
「はい、そんなこと・・・いえ、なんでも。」
エリスはさも分かっている、という表情を一瞬したが、それもすぐに消え、言葉を濁した。
そんなエリスを気にする事無くメイド長と思われる女性は言った。
「さて、わたくしの自己紹介がまだでしたね。
わたくしは、メイド長代理筆頭、リン=アクドゥールと申します。
・・・言っておきますが、どこかの英雄さんと同じ名前ですが別人物ですのでお間違え無く!」
メイド長・・もといリンは『別人物』というところを強調した。
「え、あ、・・。
メイド長代理筆頭、って・・・メイド長筆頭の方、は・・・どこへ?
というかメイド長筆頭って・・・。」
エリスはしどろもどろにリンへ聞いた。
しどろもどろになっていたのは、リンに気圧されてしまっていたからだ。
「ああ、知らないのですね。
仕方ないので、説明して差し上げましょう。
・・あれは、3年前の事でした。」
それを語りだすリンの瞳は、どこか遠くを見つめていた・・・。
・・・簡潔にまとめると、こうらしい。
・3年前まで複数のメイド長はいなかったらしい。
・3年前のある日、前のメイド長である人が、一人では見きりきれないと言い、その人が急遽、グループごとのメイド長制度を取り入れたらしい。
・ちなみに前メイド長はその後、行方をくらましたそうだ。
「そう、ですか・・・。」
エリスの声は暗かった。
どこか、思い当たる節が有る為だ。
「さあ、無駄話はこれぐらいで、作業に移ってください。」
そう言いつつ、エリスへリンから紙が渡された。
どうやら今日やる事みたいだ。
その紙を貰った後、エリスはすぐさま部屋を後にした。
「・・えっと、本の片付けと書類の整理、それから・・・。」
エリスが想像する以上にやる事は多かった。
「ま、何とかなるかな〜。」
・・・お気楽なエリスであった。
___遠い、ユメを見ました・・・。___
そこには幼い私と誰か、見覚えのある女性が居ました。
「・・そこに行っては駄目でしょう?
早く戻らないと怒るわよ〜。」
そう言いつつも女性は怒りそうな表情をしていませんでした。
「やぁー!
私、雪を見てから行くんだもん!!」
どうやら幼い私は駄々をこねて女性をこまらせていました。
駄々をこねる幼い私に、女性はあきらめたように言いました。
「仕方ないわね・・・。
この雪を見て帰りましょう。」
「!!うん!」
幼い私は雪を見ました。
とても、綺麗で神秘的な雪でした。
まるで・・・、かのケルフェリズ王国のような・・・。
「っつぅ・・・。」
ミリファは頭を押さえながら頭を起こした。
ミリファはボーっとした頭で周りを見渡した。
そこはミリファの部屋のままだった。
「私、何が・・・。」
[分かっている、彼女が違う事ぐらいは。
努々(ゆめゆめ)忘れる事はなかれ。
全ては主の恩為に・・・。]
誰かの、声が聞こえた。
怒りを抑えているような、声。
[私は、主を違えない。
彼女は__。
ただそれだけ。]
幼い少女の様な高いソプラノ声が聞こえた。
ミリファは、その声を聞いた事が有るような気がした。
[__とは・・・。
間違ってはいないが、それは失礼すぎるぞ。]
また、声が聞こえる。
[真実よ。
目を背ける事は許されない。
彼女の選んだ道。
彼女がこの国を選んだ時点で決定されていた道筋。]
[・・彼女も、この国を選ばなければ、せめて、あの国を選んでいてくれれば、主が苦労する事も、彼女がこの国に関わる事も少なかったろうに。]
[・・・もういい。
私は戻る。]
[そうだな、その方が汝にはよろしかろう。]
[・・・。]
ミリファの耳にはそれ以降、何も聞こえなかった。
「・・・ミリファ様?」
まだ聞き慣れない、カナリアの声が扉越しに聞こえた。
「カナリア?」
・・・そういえば。と、ミリファは聞きたかった事を思い出した。
「私はどうなったのかしら?」
質問としてはおかしいかもしれないが、カナリアには伝わるだろう、という確信を持っていた。
それが何故なのかは分からないが。
「・・・どうやら、ミリファ様を妬んだ何者かが、ミリファ様の麻痺毒を少量混入したそうです。
どうやって紅茶の中麻痺毒を入れたのかは、依然分かりませんが、犯人は逮捕され、明日にでも公開死刑だそうです。」
カナリアの落ち着いた甘いアルト声の中に、物騒な言葉が出てきた。
「麻痺毒を!?
私にそんな事しても意味なんか・・。」
実際、麻痺毒の少量混入で死ぬような人間はほとんどと言って良い程居ない。
「あるんです。
王はミリファ様の母君、ミエラ様をとても愛しておりました。
故に王がミリファ様を・・・もしかすれば、の話ですが、ミリファ様を第一皇位継承者に選ばれるかもしれないのです。
即効性の毒でなかったのは、不確定要素があったのでしょう。
ですから、公の場ではなく、麻痺させてから別の場所での殺害を謀ったのでしょう。
そうでなければ、ほかに理由など・・。」
カナリアの説明を聞くと、ミリファは息をのんだ。
「そんな、・・・。
犯人の方だって、麻痺毒の少量混入で公開死刑なんて・・・。」
普通でならば、被害者を死に至らしめる物でなければ死刑はあり得ない。
それがこの国、センブルク帝国である。
「・・・見せしめ、なのです。
表向きには貴族への麻痺毒少量混入で公開死刑とされていますが、これは一部の者に、『ミリファ様を少しでも害しようとすれば死刑』ということを暗に言っております。」
カナリアの扉越しの声のトーンが少しだけ落ちた。
それは些細な変化であったため、ミリファは気付かなかった。
「そんなことの為に・・・。」
「そんなこと、では無いのです。
これはとても意味有る事なのですよ、ミリファ様。
ミリファ様も、ご自分がどんな立場に有るのかを自覚なさってください。」
カナリアは厳しい声で告げた。
そんなカナリアに、ミリファは逆らえなくて。
「はい・・・。」
と、返事するほか無かった。
「・・・あのっ、カナリアさ・・、カナリア。
私も、そこへ同席してもいい・・・?」
カナリアが息をのむのがドア越しに聞こえたが、ミリファはさして気にしなかった。
少し経った後、カナリアはようやく答えを出した。
「・・・取り計らってみます。」
それはカナリアにとっても苦肉の策であったと思われる。
「ありがとう、カナリア!」
ミリファの声は明らかに弾んでいた。
「・・・では、わたくしは申請に行ってきますので、この方とお話しなさっていてください。」
え?、とミリファが聞き返す間もなく扉は開かれた。
開かれた扉のところに居たのは、青いドレスを着た、綺麗な令嬢だった。
「(初めまして?ですか?)」
ミリファの頭の中に声が聞こえた。
「頭の中に声が・・。」
「(ごめんなさい、驚かせてしまいました。
わたくし、生まれつき声が出せないのです。
そのかわり、心話ができるのですよ。)」
綺麗な令嬢は微笑みを浮かべた。
「心話を、ですか・・?」
心話は、高位な魔術である。
「(けれど、わたくしの魔力レベルは光の3なのです。
光の神様がわたくしに下さった物なのかもしれませんね。)」
魔力レベルは魔力の量と強さに関係する。
例として、光の3であると、10の魔力が有るとすれば3を光属性に変換できる。
残りの七は何にも使えなかったり、人によっては混合属性や属性に変換できる。
それは個人により、様々である。
力の強さとしては、少し弱い。
最高で10だが、中々いない。
殆どは産まれた時の強さで決まるが、遅く力が発祥するタイプや練度によっても上がる。
しかし、光属性は滅多に無い属性の為、大抵の者には効く。
魔属や闇属性に強い。
神属や眷属には弱いという紙一重な特徴を持っている。
「そうなんですか?
私は雪の6と水の2なんです・・・。」
雪と水は眷属ではあるが、何故か違う属性なのである。
「(中々の腕前なのですね。
・・そういえば、名前を申し上げておりませんでした。
失礼致しました。
わたくしは、ゼイテランズ神爵の娘、エーリラ=メンダル=ラ=ゼイテランズと申しますわ。
今更ながら、お初お目にかかります。)」
ミリファは「え?」という驚きを隠せなかった。
「ゼイテランズ神爵様のご令嬢ですか!?」
ミリファはゼイテランズ神爵と第5魔術師団の団長として会った事があった。
「・・そういえば、あのときに見たような・・・?」
ミリファは首を傾げた。
「(覚えていてくださったのですね。
良く聞いてください、ミリファ様。)」
そしてエーリラは複雑そうな顔をしながらいった。
「(・・・・ここはもう、安全ではないのです。
やはり、箱庭は長くは持たない・・、いえ、何でもありません。
ミリファ様の正体を知るものの中に間者がいるかもしれないのです。
王立魔法学園へと避難なさって下さい。
手続きはこちらで行いますので・・・。)」
「カナリアはその事・・。」
「(知りません。
カナリアどころか、わたくしの家族以外は誰も知り得ない事です。
これはわたくし達の独断で行います。)」
「どうし、て・・・?
そんな・・・危険を、冒し・・・て、私の、為に・・・。」
ミリファは混乱して、上手く声が出せなかった。
「(あの人の、願いだったんです。)」
エーリラはうつむいてぽつり、ぽつり、と話し始めた。
「(・・・あの人は、占い師でした。
あの人と会ってから、わたくしの世界は広がりました。
わたくしは、お父様が大嫌いでした。
わたくしの邪魔ばかりするのです。
けれど、それはお父様の不器用な心配の仕方だったのです。
あの人のおかげで、わたくしはお父様の優しさに気付きました。)」
「・・・その人の名前は・・?」
「(その方の名前は__)」
タイミング良く、カナリアの声が聞こえた。
「ミリファ様ー、許可はもぎ取って・・、貰ってきましたよ!」
突然響いたカナリアの声に、エーリラは焦りだした。
「(早くお決めなさってください!!)」
「・・・ミリファ様ー?」
カナリアは返事の無いミリファへ不振そうな声を出す。
「(早く!!)」
「どうかなされましたか、ミリファ様?」
二つの声がミリファを催促する。
そのとき、妹の声が頭をよぎった。
それは数年前の・・、ミリファが仕事を始めるといった時・・。
————お姉ちゃんは、後悔しないでね・・?
それはいつになく真剣で、ミリファは覚えていた。
「私は・・・、
_____王立魔法学園へ行きます。_____」
運命は、時の歯車の中で廻っていた・・・。
「廻る、歯車・・・」
だれかはいった。
「綺麗な姉と、」
「平凡な振りをする妹。」
ふたりはいった。
「どちらが過酷な運命を背負うか・・・。」
かなしいしまいのものがたり。
「語り手は姉。」
「読み手は妹。」
「「違える事はなし。」」
そう、だれかはいった・・・・。
意味不明ですね。
そのうち紐解きして行く予定ですのでよろしくおねがいします!!