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第4話 〜男と謁見と〜

今回は妙に長いので注意なされますよう!!

 ケルフェリズ王国の時刻は夕方。

 やはりエリスは黙ったままであった。

「……ここまで言って出てこねえとは、今回は相当なことらしいな。

マスター、警告はしたからな」

 男はそういいつつ、ノステルへ剣を振りかざした。

 その剣は炎をまとっていた。

「魔法剣!? 小癪な……。

ならば魔術剣でお相手しよう」

 ノステルはその剣に若干驚いた素振りを見せたが、それはすぐに消えた。

 魔法と魔術……起源は一緒であれど、威力が違う。

 魔術の方が魔法と同じような術でも遥かに劣るのである。

 その性能の差で、ノステルは圧倒的に劣勢である。

 剣技の方も問題があるのかもしれないが。

 それからは男が有利な剣の勝負が続く。

 エリスがどうすれば良いかを考えているうちに決着はついてしまった。

 ノステルは本気だった。

 悔やむべきは相手があの男であったことか、それとも……。

「おいおい、お前の実力はこんなもんじゃねえだろ?

いったい何をかばって……愚問だったな。

罪人をかばって何の得があるんだか」

 そういいつつも魔法剣をノステルの首に当てている。

 どうやらノステルが本気を出せなかったのはエリス達罪人をかばってのことだった。

 もっとも、エリスの牢にはエリスしかいなかったが。

「俺、は…………、お前、みた……い、に損得勘定で生きてる訳……じゃ、……無いんでな…………」

 ノステルは窮地に追いやられつつも言葉を紡いだ。

 しかし、男はその言葉の中に癪に触ることがあったのか、怒った表情で言った。

「損得勘定なんかで生きてねぇ!!

俺は、俺は……。

どうして、生きている……?」

 男は最初の言葉を吐き捨てた後、自問自答を繰り返していた。

「あのまま、封じ込められていればよかったのか?

そうだ、あのまま……殺戮と狂気の中に居ておけば、苦しまずにすんだのか?

そうすればあいつと出会うことも無かったし、……。

……あ、……あ…………。

うわぁぁぁぁぁーー!!!」

 誰に問いかけるでもなく、男は『誰か』に投げかけた言葉だった。

 ノステルの言葉がきっかけで、男は鬼のような形相をして、ノステルの首を切ろうとした、そのとき……。





_______待ちなさい、ハイラルディス!!!____





 牢屋の中のエリスは心の中でいった。

 その声は男だけに聞こえた声だった。

「……マス、ター?

あ、俺…………」

 男がいうマスターとは、エリスのことであった。

 エリスの声により、正気に戻ったようだった。

 そして、ノステルは隙ができたことに驚いたようだったが、その隙をつき、体制を逆転した。

 ノステルは冷徹な声で聞いた。

「お前のマスターとは誰だ」

 その問いに答えたのは男ではなかった。

「私よ、ノステルさん。」

 そう答えたエリスは、牢の外に居た。

 エリスの居た牢の格子は粉々に砕け散り、見るも無惨な残骸となっていた。

「お前!!」

「お前じゃないって、フィオだって言ったのに……」

 エリスは少々しょんぼりした顔をした。

「……、フィオ、お前、どうやって鉄格子を破った」

呑気なエリスにノステルは呆れた様に返す。

「う〜ん、それは〜……。

チョチョイのチョイッとやったの。

ところで、あなたはハイラルディス?」

 エリスはノステルへ適当な事をいいつつ、そこから男へと話題を変えた。

「……ああ。

久しぶりだな、マスター」

「うん、4年ぶりぐらいかな、ハイラ。

元気してた?」

 ハイラというのは彼の愛称だ。

 そして、エリスは少し意地悪そうな笑顔を見せた。

「……ああ、そのくらいだと思うぜ」

「で?

君は何しにきたのかな。

というか何で封印が破られたり暴走しちゃったりしてるのかな。

そこら辺説明してほしーなー」

 エリスは内心沸々と怒りがわいていたため、意地悪をしてしまった。

「お、おう。

まず、つい先ほど、俺の封印を解いたやつが居た。

解いたのは良いんだが、そいつには俺を使役する力はなくてな、消した(殺った)んだよ。

そしたらそのときにそいつが最後の力を振り絞って『狂化バーサク』の魔術をかけやがったんだよ。

そしたら……、まあ……。

多分、狂わないように、って本能が働いてマスターを探しにいって……」

「こうなったと。 馬鹿じゃないの。

ハイラがそいつを消そうとしたから起こったんじゃない。

全く……、あ」

 エリスの視線の先には、呆気にとられた表情のノステルと、たくさんの兵士がいた。

 それもそのはず、ハイラルディスは存分に暴れていたのだから。

 今にも飛びかかってきそうな兵士達の間から、偉そうな文官のような男が出てくる。

 ……いや、兵士が道をあけているのだから偉いのだろうが。

「そちらに攻撃の意思はまだあるのか」

「いや、「いえ、全然、全く持ってないそうです」そんな!「……ね?」……ああ」

ハイラルドが言おうとした矢先、エリスがハイラルディスの言葉を遮るように言い、「同意しろよ」と言いたげな目線をハイラルディスに送ったため、ハイラルドは渋々同意した。

「じゃ、事の発端はコイツなので……「二人を連れてゆけ」「ハッ」……」

 すべてをなすり付けようとしたエリスの目論見は破られたのであった。

 エリスは少し怒った表情を浮かべつつ、その場を後にした。







 エリスとハイラルディスは一つの部屋に居た。

 そこは殺風景な部屋だった。

 本来ならば二人は別々の部屋の筈だったが、ハイラルディスが「部屋を別々にしやがんのか?」という視線を兵士と文官に送ったため、仕方なく部屋を同じにした。

 ……仕方なく。

「まったくもう……、もう少しかわいい部屋にしてくれても良いじゃない。

ね、ハイラ」

 一応、濡れ衣とはいえ、罪人の言う事ではないと思う。……と、ハイラルディスが思っていたのは秘密だ。

「いや、俺はこれぐらいがちょうど言いぜ」

「……。

そうね、男の人に女の子の心情を理解しろという方が無理よね」

 エリスはそういいながらハイラルディスをジト目で見た。

「……何だよ、何か文句あんのか?」

 ハイラルディスは少々不服そうにいう。

「べっつに〜?

ハイラがいいならいいわよ。

……それにしても、遅いわね。

ま、いいや。

じゃ、私は眠たいから寝るね〜。

ハイラルディスも寝よー?」

 エリスは一方的に話を切り上げ、一方的に話を進めた。

 ちなみに、この部屋のベットの数は一つ。

 布団も一組ある。

 なんだこのアンバランスは、と思うかもしれないが、この部屋は本来一人部屋のため、急遽布団を運んだのであった。

 しかしながら一応客室の一つではあるのでベットはクイーンサイズである。

「え、えっと、いや、俺は布団で寝る。

じゃあなっ!

……また、明日ボソッ

 ハイラルディスはちょっと(?)乱暴な性格だが、意外と純粋という意外な一面があった。

 エリスが一緒に寝るという事に危機感を持たないのはまずいが、そう育てたのは実の姉だったりする。

 妹が妹なら、姉も姉である。




















 一方、センブルク帝国宮廷内、とある客室にて。

 時刻はセンブルク帝国では朝、ケルフェリズ王国では夜の事だった。

「ああ、やっぱり心配だわ。

大丈夫かしら……」

 ミリファは最愛の妹の身を案じていた。

 すると、コンコンと洋風のドアがノックされた。

「はーい、何ですか〜?」

「朝食をお持ち致しました、ミリファ様」

 昨日会ったメイドであろう人物は用件を告げると入ってきた。

「あら、ありがとうございます。

……そういえば、名前を聞いていなかったですよね?」

 ミリファは、昨日は混乱して敬語を使っていなかったが、今日は使っていた。

 メイドはその事に苦笑いしていった。

「そのような敬語は不要ですよ、ミリファ様。

わたくしは貴女専属のメイドでありますから。

……わたくしの名前はカナリア=ルーゼ=ラ=アークセレンツです。

一応、アークセレンツ伯爵家の長女でありますわ。

最も、ミリファ様より身分は下でありますけれど」

カナリアは遠慮がちに言った。

 アークセレンツ伯爵家は代々王家を守護してきた一族である。

 故にアークセレンツ伯爵家は文官・武官を多く輩出してきた名だたる名家である。

 身分は上から皇族>神爵しんしゃく奏爵そうしゃく術爵じゅつしゃく法爵ほうしゃく>伯爵>公爵>陽爵・陰爵>子爵>男爵である。

 奏・術・法爵は、それぞれ神術、奏術そうじゅつ、魔術、魔法に優れた者たちに与えられる、一代限りの爵位である。

 そのため、本人以外はその爵位を名乗る事ができない。

 陽爵・陰爵は、光属性と闇属性の希少な属性の秀でた者に与えられるこれまた一代限りの爵位(称号)である。

 なので上二つの家族は爵位を持っていれば爵位か、持っていなければ家名を名乗るのである。

「え?私の身分ってなんです……、私の身分って何?」

 先ほどカナリアに敬語を指摘されたため、普段通りの口調にし直すミリファであった。

 しかし、ミリファも馬鹿ではないので自分の立場ぐらいは分かっていた。

 ……信じたくはないらしいが。

「それはもちろん、センブルク帝国第三帝位継承者、ミリファ=フェルシス=ド=センブルク様です。

違う言い方で言えばセンブルク帝国第一皇女様ですわ」

 カナリアが、これ以上無いような素敵な笑顔を向けてくれたので、ミリファは何も言えなかった。

「え……。

お願いよ、嘘だと言って!!」

 ミリファは予想が的中し、顔を真っ青にしながら叫ぶ。

「いいえ、本当ですよ、ミリファ様。

さ、朝食を早くお食べな下さいませ」

「あ……。

う、うん…………」

 ミリファはとりあえず朝食を食べるための祈りを捧げた。

「始祖神リィル様。

今日も私に御加護をください」

 ミリファは目をつぶりながら朝の挨拶を始祖神リィルへと捧げる。

「よし!

頂きます!!

パクパク、モグモグ……ゴクン。

パクパク……」

 ミリファが朝食を食べていると、カナリアは黄色の手帳を取り出していった。

「ミリファ様、今日のご予定は朝から国王様への謁見です。

昼からは帝王学で、夜は顔見せのための舞踏会出席です。

あまりお時間がありませんのでお早めに朝食をお摂り下さいますよう」

「えっ!!

あう、分かりました」

 案外予定が詰まっていた事にミリファは吃驚したが、カナリアの圧力に押され、渋々言葉を返した。

「パク、もぐもぐ、ゴクリ。

御馳走様です」

 そういってミリファはスプーンを置き、朝食は終了する。

「はぅぅぅ……あんまり味が堪能できなかった」

 おいしい筈の食事は、早く食べてしまったため、あまり何も感じなかった。

「テーブルマナーはできているようですね。

誰からかお習いになったんですか?」

 ミリファはそんなところも見られていたんだ、と思いつつも答えた。

「うん、妹が覚えておいて損は無いから、って。

……あれ?そういえばどうして私の妹も連れてこなかったの?」

「それは……」

 カナリアは言いにくそうに口を閉ざした。

 しかしながらその数秒後、口を開いた。

「その事についても国王からお話があるでしょう。

……話を聞くに、妹君はマナーをご存知だったんですね」

「ええ、知り合いから習ったらしいわ。」

「そうですか。

ミリファ様、御召し替え致しましょう。

早く、迅速にお願い致します。

案外時間を喰ってしまったので……」

 カナリアは丁寧に言いつつもミリファを急かした。

「ハーイ……」

「あ、それと、上に立つ者として相応の態度と口調にしてくださいませ」

「……一応できない事は無いですけど、暫くやってないから少し変かも知れませんよ」

「かまいません。

とりあえず今日の午後にミッチリとやりますので」

 カナリアにきっぱりとした口調で言われてしまったため、後戻りはもうできないと悟ったミリファであった。

「さて、これにお召し替え致しませ」

 そういいつつカナリアが持ってきたドレスは薄緑色のドレスであった。

 ミリファの茶髪によく合うと思われる。

「もう、どうにでもして…………」

 ミリファはドレスを目の前に戦意喪失した。










「これでいいですね、目を開けてください、ミリファ様」

 そして目を開けたミリファの目の前に映った鏡をみると、そこには知らない女性……では無く、綺麗な格好をしたミリファが居た。

「嘘、これが私……?」

 ミリファは目の前の光景が信じられなかった。

「はい、そうでございますよ、ミリファ様。

あら、もうこんな時間です。

謁見の間へ行かなければいけませんね」

「はい。」

 ミリファは緊張しながらもドアノブに手をかけ、その部屋を去った。










「こちらが謁見の間ですよ」

 そう言って見えたのは大きな木造のドア。

 何か魔法陣が彫ってあるため、何かしらの効果が施されているのが分かる。

 緊張しているミリファを他所に、カナリアはコンコン、とドアをノックした。

「メイド長のカナリア=ルーゼ=ラ=アークセレンツです。

ミリファ=フェルシス=ド=センブルク様を連れて参りました」

 カナリアが少し大きめの声で言葉を発すると、自動で扉が開いた。

「どうぞ、お先にお進み下さい」

 と言い、カナリアはミリファが先に通るのを待った。

 ミリファは国王を前にした。

 けれども、礼儀であるのに膝を折ろうとはしなかった。

「ミリファ様!!国王様の前でそれは失礼に値します!!!」

とカナリアは遠くから叫んだ。

だが、ミリファは膝を折ろうとはしなかった。

「何か申したい事でもあるのか?」

「……はい。

どうして、どうして国王様はわたくし達とお母様をお捨てになったのですか?」

 それは、ミリファからしたら素朴な疑問だったのかもしれないが、とても大きな問題であった。

「それは……。

お前の母であるミエラはフェルメリーザ公爵家の娘で、我と恋仲であった。

そのときは帝位戦争中であってな、巻き込まれたミエラは消息を絶った。

死んだと思っていたが、出仕していた魔法師がフェルメリーザという姓であると聞いてな、調べてみるとフェルメリーザ公爵家に伝わるアレクサンドライトを持っておったのでな、確信したのだ。

それに、ミリファ、お主はミエラの消息を絶った頃の容姿ととても似ている」

 国王はその頃を思い出すように遠くを見た。

「そう、ですか……。

ありがとうございます、国王様」

 ミリファがその事を聞き、少し悲しそうな表情をした事には誰も気付いていなかった。

「のう、ミリファよ。

お主は我の実の娘だ。

我を父と呼んではくれないかの?」

「わたくしはお母様を捨てて、ほかの方結婚した国王様を、血が繋がっていてもお父様とは御呼び致しません。

どんな理由があろうとも。

お母様は待っていたのに…………」

 ミリファは冷静な声できっぱりと断った。

 そして、最後の方はつぶやくように言いながらミリファは膝を折った。

「……さて、本題に入るとしようかの。

まず、お主の妹の事じゃが……どうして連れてこなかったかというとな、手違いだったんじゃ。

ミエラの子はお主だけだと勘違いしての。

故におぬしだけ来てしまう事になってもうた。

今日にでも連れてくる故安心しておれ」

「そうですか、よかった…………」

 ミリファは下を向きながらも安堵の表情を見せた。

「次に、お主の宮廷内での立場はじゃな、お主が18歳になって成人式を迎えるまでの表向きな立場は王家の遠縁であるフェルメリーザ公爵家令嬢という事になっておるので注意してほしいのじゃ。

お主の本当の身分は我の近衛騎士と皇族とそこのメイド長は知っておるので大丈夫じゃ。

もちろん、お主の妹もな」

「はい。

……用件とはそれだけでございますか?」

「うむ、それだけである」

「そうですか、それでは……「王よ!!火急の用件があります!!!!」……?」

 ミリファが去ろうとしたとき、扉が乱暴に開けられた。

 そして、扉を開け、飛び込んできた黒髪の長髪である騎士は息を切らせていた。

「なんだ、騒がしい。

とりあえず申してみよ」

「それが……、ミリファ様の妹君、エリス様は我々が行ったときには既に……居なくなられておられました」

 その騎士の報告を聞き、ミリファは頭が真っ白になった。

今回は新キャラ続々と登場です。

ミリファの方で最後の方に出てきた黒髪で長髪の騎士は最初に出てきた嫌みな騎士ではないのでお間違えありませんように^^





誤字脱字、ご感想等がありましたらお言い下さい。

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誤字脱字等ありますが、ご了承下さい。
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