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第3話 〜二つの伝承と地下牢と〜

「……ごめんなさい、話は明日にしてもらえるかしら?

眠りたいの」

 ミリファが遠慮がちに言うと、メイドはペコリ、とお辞儀をして去った。

 それを見てからファルザと呼ばれた人物も「では、わたくしも退出させていただきます」といい、退出する。

 ファルザの足音が遠のいたのを確認すると、ミリファはため息をついた。

 眠いというのもあながち嘘ではなかったが、ミリファにはそれよりも確認したいことがあった。

 それは先ほどの伝承のことである。

 ミリファの今の家系にはとある伝承が有った。

『貴石と運命の姫、二つは一つなりけり。

運命の姫、雪の加護持ちて、姿現す。

運命の姫、現れ、消える。

悲しき連鎖、再び起こすまいと。

雪の姫、忘れる事なかれ。

契約をたがう事なかれ。

違う事なかれ。

違う事なかれ』

 ミリファの今の家系ではそう伝えられていた。

 二つの文から照らし合わせると見えてくる言葉はどちらにせよ、『契約を違う事なかれ』とある。

 そんなに運命の姫は約束を破られることが嫌いだったのか、という疑問をミリファは持つが、それに答えをくれる人物はおそらく存在しないだろう、というのがミリファの本音である。

 運命の姫のことを思うと、何故か愛しき妹の顔がミリファの頭に浮かんだ。

「大丈夫かしら、無理していないといいけれど……」

 思い立ったら即行動!!な妹を思い出し、ミリファはため息をつきつつ、祈りを捧げた……。










 姉の心配も、あながち外れてはいなかった様子である。

「〜〜もう!!ここはどこよ!!!!」

 気がつくと冷たい牢の中に居たエリスは一人叫ぶ。

 窓も無く、これでは昼か夜かは分からない。

 そんな牢の前に立つ兵は寡黙なタイプの様で、何も喋らない為、余計エリスの癪に触った。

「何か答えてよ!!」

 エリスに怒鳴られても、兵士はいっこうに返事しない。

 ……と、思った瞬間。

「ここは……ケルフェリズ王国地下牢」

 と、短く、手短に兵士は告げた。

 エリスは一瞬キョトン、としたが、次にうれしそうな顔をした。

「そっか、ケルフェリズ王国……。

ん? ケルフェリズ王国……?」

 エリスは聞き慣れない国名に少し違和感を持った。

 エリスの知識が正しければ、ケルフェリズ王国とは、自分の居たセンブルク帝国の隣の隣であった筈である。

「…………して?」

「?」

「どうしてあの忌まわしきケルフェリズ王国なのよーーーー!!」

 エリスは声の続く限り叫んだ。

 そして一瞬間が空くと、ブツブツと呪文を紡ぐかのようにしゃべりだした。

 それはまるで、壊れた人形の様に……。

「あのうざったい王子が居るところにどうして……。

というか私はセンブルク帝国に居た筈なのに。ハッ、まさかあれなの!?

あいつを撒いてきたからこうなったの!?

ということはあいつの策略?

けどあいつにお姉ちゃんを連れて行く必要性は皆無に等しいし、ほしがる理由もあるかもしれないけれどこの国は知らない筈よ。ちょっと待って、どうして私はここにいたんだっけ?

たしかあの忌まわしい書を拾って……、まさか、忌まわしいつながりでここに来たって言うの!?

あり得ないわ、だって、あの機能は封印したし。

…………ま、まさか……。

いえ、絶対そうに決まってるわ、であれば説明がつくもの。

私と書は因縁の関係にあるという訳……。

本当に……」

 最初の部分は暴走気味なエリスだったが、その後、幾分か落ち着いた表情で言った。

 ちなみに寡黙な兵士でも、若干引き気味な様子だったそうだ。

「時に、寡黙な兵士さん。

あなたの名前を聞いてもいい?」

 エリスの問いかけに対し、寡黙な兵士は何も答えない。

「私の名前はフィオルセッテ=グランジェルノと言うわ。

ちょっとに長いけれどフィオと呼んでね。

あなたの名前は?」

 エリスの言ったフィオルセッテは、自分の名前をひと文字づつずらし、そしてばれないように少々長くしたものだ。

 それならばいっそのこと全く違うものを考えればいいと思うかもしれないが、それほどエリスにとって『エリス』は大切な言葉だった。

 それでもなお、寡黙な兵士は答えない。

「いいでしょう?

ここに連れてこられた時点で私の死刑はほぼ確定なのだろうし。

私は呪術師ではないから名ではあなたを縛れないわ」

 そして、エリスの言葉に何か感じたのか、寡黙な兵士は告げた。

「……俺はノステル。

お前の監視兵だ」

「そう。 私の罪状は何?」

 エリスはびっくりした様子も無く、笑顔で聞いた。

 ノステルも、沈黙を突き通しても無駄だと悟ったのか、口を開いた。

「……王女の庭に不法侵入及び、宮廷内で認められていない者の魔術行使。

荷物に短剣があったことから、王女暗殺未遂の疑い。

その他諸々で死刑」

 ノステルはキッパリと告げた。

「完全なる濡れ衣ね。

まあ、私は良いのだけれど。

お姉ちゃんのことが気がかりだわ。

それと、あの人達がこの国を……。

心配事はつきないものだよね」

「……そうだな」

 ノステルにも思い当たる節があるのか、若干遠い目をしていた。

 ノステルはそちらに気を取られたのか、重要な部分は聞き逃していた。

 その刹那、空間全体にドンッという、爆発音が響いた。

「何事!?

……あ」

 エリスにはこの爆発音の原因が分かってしまった。

「まさかここまでするとは……。

ここに居る『所持者マスター』に食い止められると良いけど……」

 エリスはまだ見ぬ被害者へ、ごめんなさい、と謝りつつも自業自得よね、と嘲笑ってしまった。

 そして何十分間かたった頃……。

 上で何かが暴れている音が聞こえた。

「てめーらうぜーんだよ! っっと……この辺りか?」

 もう一度、今度は近い場所で爆発音が聞こえた。

「っ!? こちらにくる!!」

 ノステルはこちらへ来るかもしれない相手に剣を構える。

 そして一分後、その敵は現れた。

 その敵である男は大きく叫んだ。

「ここにいんのは分かってるぞ、マスター。

よくも置いて行きやがったな……。

それに、マスターの力ならここを壊すなんざ容易いだろうに、何を戸惑ってんだか」

「なにを言っている、ここを荒らすのは禁じられている筈だが?

外に居た警備兵はどうした」

 ノステルは冷静に、しかし少しの怒りを込めた声音で言った。

 だが、敵である男は鼻で笑った。

 ……どうもミリファを連れて行った男と被ってしまうのはエリスの気のせいだと思いたい。

「外に居た奴らだ〜?

あんな雑魚達、一瞬で蹴散らせてやったさ。

フッ、弱かっ、うぉっ!」

 男は突然振り下ろされたノステルの剣を容易く避けた。

「おいおい、危ねーじゃねーか。

大丈夫だって、あいつらには少し面倒だったが、眠ってもらっただけだ。

ん?俺がなんでそんなことをしたか、って表情カオしてんな。

……そうだな〜、敢えて言えばマスターは殺すことを嫌うからな。

その反対を利用して、殺してもよかったが、やった後マスターに嫌われるからやらねぇだけだ」

 その男は聞いてもいないのにペラペラと喋る。

 そのことにノステルは苛立ちを見せた。

「貴様、俺を甘く見てるのか?

ならば、容赦はしない!!」

 そういいつつ、ノステルは男に殺気を浴びせる。

「甘く見てなんかねえよ。

これは唯の時間稼ぎだ」

 そして、男はノステルの殺気に怯みもせず、意地悪な笑みを浮かべ、言った。

「なあ、決意は決まったか?

マスター、俺は大分待ったぜ。

それに俺はあいつみたいに気が長くねえんでな!!

…………こたえないか。

まあいい、応えなければこいつは死ぬぜ。

早く出てこいよ、マスター。

俺だってもう、————」

 最後に言った言葉は風にかき消された。

 しかし、エリスはその言葉の続きを知っている。

 それはやはり、エリスの知る人物であったために……。

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