表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/32

第28話 〜似た少女〜

「うー、暇暇暇ーー!!」

 無色の空間で、女性は叫ぶ。

 その女性は、赤を思わせる存在だった。

 髪が赤い訳ではない。目が赤い訳ではない。服が赤い訳ではない。

 では、何が赤いか? ー—唯、赤い色の液体を、血を思わせる雰囲気が合った。

「あ、そうだぁ!」

 女性は何を思ったのか、自分の手を刺す。

 大量の血が宙に舞い、弾ける。

「あははっ。

私様の血を持って命じちゃうよぉ!!

『詠い手』と名乗ってる人を探してぇ。

それとぉ、私様の半身もねぇ。

見つけ次第、殺してくれちゃって構わないからぁ!

あははははははっっ、どんな悲劇が、物語が、待ち受けてるかなぁ?

楽しみだなぁ……」

 女性は言うだけ言うと、発狂したように笑い続けた。

 ずっとずっと、無の空間で……。





「結局は、何だって言うの……?」

 2人が去った後、ミリファは呆然と呟いた。

「あの双子は、泡沫うたかたの夢にしか存在しない。

そう、運命付けられた人」

「アレッサさん? いつのまに」

 後ろから、リゥティの声が静かな医務室に響いている。

 医務室では、先ほどまで争いがあった筈だが、その痕跡はどこにも見当たらない。

「……『予知』、でてた」

 すこし足りない言葉ながらも、その意味はわかる。

 ミリファは『予知』に対して、驚愕きょうがくした表情を見せた。

「『予知』って……」

「私、水Sウォーターソーサラー寮長……分家」

 ルーシェの家、イストラールの分家らしい。

 だが、分家というものは、貴族に多く、血筋を重視しない平民達には、滅多に分家など無い。

 未だに分家があるのは、血筋を重視されていた昔か、没落貴族だけだ。

 もちろん、ミリファもその事を知っていたのか、敢えて触れず、驚いただけだった。

「え、そうだったの!?」

「おーっい! リゥティちゃん〜?

あれぇ、知らない人ぉ。

誰々ぇ?」

 リゥティに続いて、ミリファより頭一つ分程身長が小さい少女が慌てて入ってくる。

「転入生」

 淡々と、簡潔に、リゥティは紹介を済ませた。

 自分で聞いた事なのに、興味のなさそうにミリファを見、少女はすぐにリゥティへ視線を戻す。

「ふーん。

ま、どうでもいいやぁ。

あのねあのねっ、ここの空間って、何か変なのぉ。

切り取って、も一度繋げたみたいなぁ……」

 少女は、甘ったるく、それでいてどこか聞いたことのある口調だった。

「……あ、最初のマリエラみたいな口調」

 ぽつりと言った筈なのに、少女には聞こえていたらしい。

 マリエラ、と聞いた瞬間、少女はきょとんとした顔を見せた。

「マリエラ? ああ、マリィかぁ!

……ふふふっ、あはははははは!! あの子を知ってるんだぁ。

リゥティちゃんも分からなかったあの子のことぉ。

ってことはぁ〜、あなたは『詠い手』なのぉ?」

 狂った様にわらった少女は、探るような視線をミリファへ送る。

 しかし、ミリファも負けじと視線を送り返す。

「『詠い手』……。うん、私が『詠い手』」

 ミリファがそう答えた瞬間、少女の視線は更に強くなった。

「そっかぁ。でもでもっ! 私様は知ってるんだぁ。

『詠い手』はケルフェリズにいるって。

……どうして『詠い手』がセンブルクにいるのぉ?」

 あはっ、と少女は無邪気な、しかしながら怒った表情をみせる。

「私はずっとここに居たよ?

……あれ、誰に聞いたの? 

A級機密事項扱いの筈なんだけど……」

 その通り。ミリファの固有技能アビリティは国内でも片手で数えられる程の人数しかおらず、A級機密事項扱いとなっていた。

 S、A、B、C、D、Eと、左から順に機密の位が高く、ミリファもかなり高い機密事項の一つだった。

 素直に答えたのは、少女の視線に気圧されてしまったからだ。

「あはははっ、企業秘密なのぉ。

あっ、そうだぁ!!

いちおー確認しとくけどねっ、名前はなにぃ?」

 からかうように少女はミリファへ尋ねる。

「ミリファ=フェルマリーザだよ」

 ミリファは何故か微笑んで答えた。

 反対に、少女の顔がほんの少し、普通に見ていればわからない程度にこわばる。

「あれあれあれぇ?

じゃあじゃあ、エリス=フェルマリーザじゃないんだぁ。

なんだぁ、残念。

こっちはハズレの方かぁ……」

 残念そうにミリファを見上げ、リゥティを見た。

「エリス!?

あなた、エリスを知ってるの?!」

 ミリファは少女の肩を持ち、今にもブンブンと振り回すような勢いで、焦って尋ねた。

「うみゅ、知ってるよぉ。

あなたの妹で、禁忌の姫君、でしょぉ?」

 少女はそんな状況にも動じず、普通に答えた。

 しかし、その答えはミリファも全く予想していない単語で返ってくる。

「禁、忌……?」

 困惑した表情を見せたミリファ。いままで黙っていたリゥティもさすがに見かねたのか、口を出してきた。

「……フリエル、やめる。

彼女……まだ、知らない」

 やはりたらない言葉ながらも、その意味はわかる。

 少女、否フリエルは虚をつかれた表情を見せ、盛大に嘲笑う。

「え?

……うふふふふふっあははははっ、傑作、これは傑作だねっ!!

はははっはっ、ふっ、……はぁ、久々によくわらったぁ。

わらわせて貰った御礼に、ちょっとだけ教えてあげるぅ、感謝してねぇ!

『遠き地で一人。一人が為に深き眠りについた道具は再び目を覚ます。

時は遅くあれど早くはならない。

運命と一人出会う時。

彼女は彼の地にて再び出会い、歓喜の声をあげるだろう。

自分に何を思うか。彼女の思いは全ては杞憂で、全ては当たり』……っと、言い過ぎたかなぁ。まあいいやぁ、今の私様は機嫌がいいからぁ!!」

 ミリファが何も言えないのをいいことに、フリエルは捲し立てて言った。

「フリエル……はぁ」

「あはははははははは!! 楽しいなぁ、楽しいなぁ!

私様、もうちょっとだけなら待ちきれそうかなぁ……。

『詠い手』によろしくって言っておいてぇ!

じゃーねー! ばーいばーい。

行くよぉ、リゥティちゃーん!

ふふふっ、あははははははははは」

「……そう。

さようなら、……フェルマリーザさん。

次、会う時。水に気をつける、いい」

 リゥティの去った後、外を見ると……。

「…………え?」

 医務室の窓の外は、ミリファが最後に見たいつもの景色ではなく、お祭りの景色だった。

 その祭りとは、建国記念の祭り。

 しかしながらそれは、マリエラ達と接触した、ミリファがちゃんと時間を意識していたときの、3日後の筈であった……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誤字脱字等ありますが、ご了承下さい。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ