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第25話 〜小さく、小さく〜

「……話を続けさせて頂きます」

「え、ええ……」

「『災いの書』の書名は……『祈祷と灰の書』。

固有技能アビリティーは使用者に加護を与え、灰の力を持ち、全てを無へと返す最強の書」

「!?

……ならば、納得がいきます。

何故、リノワール様が願っただけで眠りの魔法が増加したのか、ということが。

ですが、わたくしはそれを信じる事は出来ません」

 ラジェは警戒しているのか、一定の距離以上エリスに近づこうとしなかった。

「あら、気付いておられませんでしたか?

この空間で嘘を突く事は出来ないのです。

現に、貴男も私がセト王の息子かと聞いた時、とっさに嘘が付けなかったですよね?」

「それは……」

 ラジェは思い当たる節があるのか、言い淀んだ。

「アイリ=フェルー=フォン=ラマレル。

ラマレル子爵家は代々の魔法を持っていました。

その魔法とは、夢の中で彷徨い自分を夢へと回避させる魔法。

ああ、そうでした。リノワールの魔法は確かに50年しかもちませんでした。いえ、50年以上魔法は保たれたとされています。

50年過ぎれば眠りの魔法は解かれる筈であったのです。

……アイリは、目覚めませんでした。

この事にはセト王が大きく関係しております。

セト王はアイリの事を大変好いてくれていました。聡い子だったから、わたくしが眠った状態である事も、もう少し大きくなっていれば気付いていたでしょう。

わたくし(アイリ)は願いました。

セト王が幸せになります様に、と。

当時まだ『祈祷と灰の書』と呼ばれていたハイラルディスは薊の塔の地下に眠っていて、アイリの願いに反応してしまいました。

結果、アイリの魔力はセト王の幸せの為に消費され、とうとうアイリは死んでしまいました。

一度だけなら夢の彷徨い人で済んだものを、2度に渡る魔力の過度行使で体が持たなくなってしまったのです。

……喋りたい事は一応喋りましたが、何かご質問は?」

「……そこまでして、アイリ妃はセト王を庇ったのですか、

敵国、自分の国を滅ぼした国の王子ならば、さぞや憎むでしょうに……」

「アイリには、それが出来なかったのです。

怨むべきは帝国だと知っていたから。

だから、お婆さまを怨めなかった……あ」

「お婆さま?」

「えっ、あっ、それは……」

 全てを言い終わる前に暖かい光がエリスを包み込んだ。

——さあ、幕を閉じましょう。

  これから先は知るべきではないのですから……ー—

「『書が終焉のとき。私はもう、詠えない』」

 それが予告であった様に、黒の空間は弾け、2人は散り散りになった。


「……ここはどこ?」

 光となってその地に舞い降りたエリスの第一声だった。

 エリスが辺りを見回すと、見覚えのあるような家が軒を連ねている。

 特徴としては、青い屋根で2階建てで窓が少ない。これは、ケルフェリズでよく見られる家の大まかな形である。

 どうやら位置的には、国単位で離れていないらしい。

 だが、エリスは少々違和感を感じた。それが何かは分からないが、決定的に何かが違う。

「ハイラルディスの気配も近くに感じるから……。

ここはどこ?」

 本日2度目の質問も空しく、返事は帰って来ないかの様に思われた。

「ケルフェリズ、アザミ騎士団の騎士街だが」

 後ろから、心地のいい低音の声が、エリスの意に反して返ってくる。

 バッと後ろを振り返ると、そこにはどこかで見たような騎士服の誰かが立っていた。

「ノステル隊長!」

 ああっ、思い出した。地下牢に居た時の彼だ。

「その節はどうもご迷惑をおかけしました」

「…………。…………?」

 どうやらあちらも記憶力が乏しいようで、お互いに相手の事を忘れていたらしい。

「いえ、覚えていらっしゃらないなら結構です」

 息を切らせて先ほどの遠くに見えていた女性が走ってくる。

「もうっ、休憩時間は外に出ていい時間ではありませんとあれほど申しましたのに……」

 意外な事に、近くで見ると分かったが、彼女も騎士服を着ている。一見すると華奢で儚く見える女性の為、直違和感があった。

「すまない、シャル」

「これからは気を付けて下さいよねっ、ってあら?

どうしたんですか、この子。まさか!」

「攫ってきてはいない」

 ノステルはそういったが、シャルと呼ばれた彼女の方は聞いていないようだ。

「……大丈夫です」

「何が、」

「人の愛に文句はつけません。

同意の元でしたら、ですけど」

「ちょっと待て、お前は何かを誤解している」

「いえ、誤解などしていません。

……ねえ、君、大丈夫? 何かされたらお姉さんに言うんだよ」

「だから、俺の話を聞け!」

 エリスは暦とした16歳で、平凡な子だ。

 しかしがら、彼女——シャル——の対応は、まるで小さい子を相手にしているよう。

 ……小さい子? そういえば、ずっと感じてたこの違和感。

 建物が大きく見え、大人がいつもより大きく感じる。

 それはこの国の平均身長が高いからだと思っていたが、思い返してみれば侍女仲間と身長はさほど変わらない。

 ということは、私が……縮んだ?

「はい、わかりました。

えーっと……」

 とりあえず舌っ足らずに喋り、子供っぽさを演出してみる。

 それ以前に会話を交わしたノステルに指摘されてしまえば終わりだとは分かっていたが、彼はそんなことをしないとエリスは確信していた。

 女性はふわりと微笑み、鈴の音と同じ位に綺麗な声を出した。

「私はティーシャル=グラッセ=フォルス=ド=ラ=リッチェネイル。

なんていっても、長くて一回じゃ覚えられないよね。私の事は、シャルって呼んでくれて良いよ」

 ミドルネームにドがつくと王族、ドの次にラがつくと王族の親戚の貴族ということになる。

 にしても、エリスの知っているとある人物に、シャルは似ていた。

「シャル……おねえ、ちゃん」

 何だろう、何故かしっくり来ない。やっぱり姉はミリファお姉ちゃんに限る、と不躾ながら思っていた。

 幼なじみだった彼女も兄は彼の方が良いというのと同じ様に。

「はい、良く出来ました!

君の名前は?」

「……レーネ、……レーネ=グランヴァーツ、です」

 瞬間的に出た名前がそれだった。

 その名前が瞬発的に出てきたのは、彼女の事をかんがえていただからだろうか?

 言いよどんではいけないと思い、咄嗟に浮かんだ名前で挑んだのが仇となってしまった。

「レーネちゃんね。よろしく!」

「ぁ、はい……よろしく、です」

 しまった、これで内気っ娘キャラに固定してしまった。

 そう内心で思っていても、時は戻らない。

 あ、そういえばこの名を持つ彼女も内気な子だったな、と思い出しながら。

 そして、エリスの思った通りにティーシャルは勘違いしてしまった。

「怖がらなくても大丈夫よ、ね?

ノステル隊長!!」

「俺は何もしていない」

「嘘です! この子の態度からして、隊長が何かしたとしか考えられません!!」

「だから、俺は何もしていないと……」

「そ、そうです。

……私、ここがどこか分からなくて、ちょっと、……混乱してただけ、です……」

 エリスは自棄になり、こうなったらそのキャラを突き通してやろうと思っていた。

 このタイプのキャラならば、多少言葉に詰まっても怪しまれない。

 デメリットとして、行動を制限されてしまうが。

 タイプから考えて、内気な子は読書が好きだとか今は同じ名前の彼女は言っていたのを、エリスは思い出した。

「え、そうだったの? ……あなたのお家はどこ?」

「わ、わたしのお家は、ありません。お姉ちゃんは(攫われて)居なくなっちゃって、……お母さんは殺されて、それで、それで…………」

 嘘と真実が混ぜられた嘘程分かりにくい嘘は無い。嘘が多少混じっていても、深読みした真実で覆い隠せば大抵の人には気付かれないから。

「もういいの、ごめんなさい。酷な事を聞いてしまったわね」

 情に深い人間なのだろうか、エリスが思っていた騙されやすかった。

 今時こんな人柄のいい人は数少ない。

 ポツリ、とエリスの頭の上に水滴が落ちてきた。

 空を見上げると、段々雲行きが怪しくなってきていた。

「あめ……」

「あら、本当ね。

とりあえず、貴方の身柄は騎士団が保証してあげるからいきましょ?」

「おい……」

「隊長? い・い・で・す・よ・ね?」

「……」

「さ。あんな人放っていきましょー」

「え、でも……」

「隊長の無言は肯定だから大丈夫よ」

「傘、持っていない。……後で、すぐ追いつく」

「そう?」

「お、おねえちゃん、早くいきませんか……?」

「ん? あ、分かったわ」

 あ、とエリスは小さく声を上げ、立ち止まった。

 くるっ、とノステルの方を振り向き、言った。

 罪に捕われる難儀な一族、と思いながら。

「……雨は全てを洗い流してくれます。

罪も、憎しみも、悲しみも。

今はそれに浸るといいでしょう。

いずれは必ず終焉を迎えられるでしょうから……」

「何者だ……?」

「私も、自分が何者だと問いたいです」

 淡々と言い放った言葉の声音は、エリス自身、びっくりする位冷たかった。

「レーネちゃんー?」

「は、はぃ、すこし、まって……ください……」

 エリスは自分で行こうと言った手前、待たせるのは悪いので、先を急いだ。

「……罪も、憎しみも、悲しみも。

全てが消える事はない。

あれは全て、俺の責任だ。

故に俺は、終焉を迎えられずに居るのだから……」

 ノステルはきつい視線を空へと向ける。

 雨が落ちたのか、彼の頬には涙のようなしずくが伝っていた。


 4つの運命が、誰かの手からこぼれ落ちる音がした……。

 

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