第22話 〜言葉の意味〜
第5話修正したので一回見直された方が分かりやすいかもしれません
「マリエラ、自分のマスターの所へ戻ってはいかがですの?」
ずい、と前に大きく踏み出してルティリアは言った。
「そういうルティーとユティーこそぉー、戻ったらどうかなぁ?」
謁見の間に最初時の様に甘ったるい声でマリエラは話を続けた。
マリエラはルティリア達を見下す視線で見ていた。
だが、ルティリア達を愛称で呼ぶのは皮肉であろうか。
「そうしたいのは山々ですけれど、わたくし達も制約がありますですわ」
本当に悔しそうにユティリアはマリエラをにらむ。
隙あらば殺すという意思表示であった。
「制約ぅ?」
しかしながら、マリエラはそれに屈する様子は無かった。
「とりあえず、あなた方には強制退場を申し出ますですの」
「わたくし達も制約下では十分に力を発揮できないですわ」
双子は威風堂々という感じにマリエラに立ちふさがる。
「ならぁ、私にも勝機はあるねぇ♪」
双子に威嚇されたマリエラはそれに臆する事も無く告げる。
その時、無邪気な笑顔を浮かべたマリエラだったが、その笑顔は男性に打ち砕かれた。
「……どうだろうな。
相手は雪の幼子故、いかなる力を持っていても不思議ではあるまい」
「もぉ、どうしてそんな否定的な考えばっっかり持ってるのかなぁ。
ちょっとぐらいポジティブにいこうよぉ! ポジティブにぃ!!」
「……えーっと……」
「お姉様、もう少しお待ち下さいですわ」
「お姉様ぁ? 貴方達ぃ、そんなガラじゃないよねぇ」
あはははっ、とマリエラは小馬鹿にした様に笑う。
「うるさいですの。
わたくし達はあの方に忠実かつ、従順ですの。
その根本は貴方達と変わりないですの」
そういったルティリアの瞳は冷めきっていたが、ミリファとユティリア以外に気付いた者は居なかった。
例外として、男性は気配を察したようだが。
「貴方達と一緒にしないでくれるぅ?
私は誉れ高き物なんだからぁ!」
「……主の居ない状況下では雪の幼子達の方が勝ると思うが」
「うるさいぃっ! 私はこんな子達に負けないのぉ!」
ヒステリック気味なセリフを吐いているマリエラの表情はセリフに伴わず、無表情だった。
「……雪の幼子ですの?」
そうルティリアが質問した途端ユティリアの雰囲気も、ルティリアの雰囲気も変わった。
少しだけ残っていた双子の平和な雰囲気が、一瞬にしてきえてしまった為だ。
「そなたらの呼称だが?」
「貴方、わたくし達を誰だと思っているのですわ?」
「察するに、雪の900〜1000番内の者だと」
ところどころ言葉が抜けていて男性が何を言いたいのか全然分からない。
「……ルティリア」
「行きましょうですの、ユティリア」
刹那。空気が、先ほどよりも殺伐とした雰囲気へと変わる。
「……ふむ、地雷を踏んだか」
地雷を踏んだのは自分なのに、男性はやけに冷静だ。
「あんたなに呑気な事言ってんのぉ。
さっさと応戦しなさいよ!」
「わかっている、……すまないな。
『大地よ、我が力の下に命ぞう。
我に戦いの力を』」
双子に謝っている男性は、それでも渋々といった雰囲気で2人を攻めた。
大地、土属性の本領は守りである為、攻撃の力は殆どない。
それでも元の力が高い為か、攻撃力はある。
しかし、双子はそれをもろともしずに、自分たちにあたる前に消えた。
おそらく、何かしたのだろうと思われる。
「いくですわ!」
「いきますですの〜」
気の抜けそうな掛け声があったが、それでも何かがまた、変わった。
「……不味いなぁ。
『気高きマリエラの華よ。
汝等の主を守れ。
ここに盾なさん!』」
「……加勢するべきか。
『大地の皆に命ず。
今ここに月の三角の加護を以て、その力をで同胞を包め』」
二人は独自の防御壁を張り、衝撃に備えた。
ミリファなどとっくに蚊帳の外で、防御壁の外から見つめている事しかできない。
「『叶えたい夢、静かなる願い』」
「『ああ、それすらも……叶える事ができなかった』」
静かなる、詠唱ともとれる言葉の羅列。
「なぁにぃ、これぇ……?
懺悔ぇ? 後悔ぃ?」
マリエラに応える事無く、言の葉は静かに続けて紡がれる。
「『彼女の傍にいたい』」
「『平穏な時を得たい』」
「「『それだけだったのに』」」
「!! それ、……」
驚愕の声を上げたマリエラの顔はなおも無表情であった。
「『あの時既にわたしの同胞も残り僅かだった』」
「『今では、わたし以外の者達は一桁に近い二桁になってしまっている』」
「『ああ、わたしはどうすれば彼女を守れたのだろう?』」
「『ああ、どうすれば彼女を殺さずに済んだのだろう?』」
「『これほど自分を憎んだ事は無い』」
「『誰か、わたしを止めて……』」
「『誰か、わたしを眠らせて……』」
幾重にも響き、エコーが掛かった様に響く歌うような口調。
やはりまだ。マリエラは耳を必死に押さえている。
その様子からして、なにか関係のある言葉の羅列のようだ。
「これが、マリエラの真実ですわ。
先代の『詠い手』が残した予言。そして償い。
……ですわね?」
ユティリアは確信口調でマリエラへ問いかけた。
答えはイエス。それしか残されていない。
だが、マリエラは呆然としていて、問いを聞いているかすら分からないほどであった。
「自分が暴走した故に彼女を殺した貴方に負けるつもりはないですの」
ミリファにはそれがなにか聞き覚えのある一つの物語のように思えた。
それもそのはず、
なぜなら……
「あ……ああ」
ミリファは頭を押さえだし、うずくまった。
なにかを押さえつけようとする様にミリファは抗っている。
「だ……め……」
「お姉様も、思い出されてしまったのですわね」
「ですの〜あらら〜。
まあいいですの。
いつか思い出さなければならない事ですの」
「……何の話だ」
「あ、まだいましたのね。
わたくし達が雪の900番台であることすらあり得ないですわ」
「そうですの。
貴方は……火の、焰。それも二位ですのね」
「何故それを!」
「まだわからないですの?
5大属性50番内を知れるのは各属性3位以上の者ですの。
とりあえず、3位以上という事を理解して頂ければ結構ですの!」
「……ええ、そうですわ。
わたくし達の認識はその程度で良いですわ」
「そうそう、わたくし達も本来の目的を果たさなくてはなりませんですの」
「……本当の目的、とは?」
「『詠い手』からの伝言。
よくお聞きなさいですわ」
「ですの!」
「スゥ……。
『もういい』」
「『貴方の解放を私は願う』」
「『捕われるな、』」
「『飲まれれるな』」
「『さすれば時は進む』」
「『もう、時を刻んでも良い』」
「『早く、私を、』」
「「『忘れて?』」」
すがるような声を出している二人だが、 その表情は無。
「うっ、うっ……。
マスターが、マスターが。
わたしは夢の第6位、『負と詠いの書 マリエラ』」
その言葉にその前のマリエラの甘ったるい猫なで声の口調は無く、ただ無機質な口調。
それはミリファが謁見の間で聞いたものであった。
「そして、マスター殺しの罪深き書。
マスターミエラを狂わせたのは、」
それ以上を聞いていたくなくても、ミリファは耳を塞ぐ事ができなかった。
閉まっていたパンドラの箱を、もう開けなくてはならなかったから。
どうしてその物語を知っている?
答えは簡単。
そう、なぜなら……
「他ならぬわたしだったのだから」
マリエラのあの声がミリファの中でフラッシュバックした。
『早く思い出しなさい。
手遅れになる前に』
「マリエラ。やっとわかったよ、その意味……」
——お母さん(ミエラ)を殺したのは私だったから。