第20話 ~不思議な人~
三度目の、光景。
一度目は就寝時、なら二度目は……?
そんなこと、いまはどうでもいい。
そうだ、彼もいってたっけ……。
魔法師の夢には力があるって。
だから、こんな夢を私は……。
「お姉ちゃん、早く逃げて!」
これは彼達が町を出て行った直後の話。
町は一度荒野となりかけた事があった。
って、周りの人はいっていたけれど、そんなことがあったことすら覚えていない。
そもそも、それ以前の記憶は……。
「でも、エリス!」
「私は大丈夫だから、アインと合流して? まだ間に合うから!」
「エリス……」
「お姉ちゃ……きゃあああ!」
得体の知れない何か、にエリスは私の後ろに吹き飛ばされる。
そこには血まみれで狂った瞳をした女性が居た。
……お母さん? 私は直感的にそう思った。
でも、エリスの産まれた時にお母さんは。
あら? 本当にそうなの?
「おか……さ……」
私がいつの間にか持っていた剣は、お母さんと思われる女性を……。
「ミリファ、エリス!」
だ……れ……。
「……う……」
ミリファはちょっとしたうめき声をあげた。
そして酷い倦怠感を感じながら身を起こして目を開くと、目の前にはユティリアとルティリアがいた。
「大丈夫ですの!? ミリファおねえさま!」
「……一応、心配はして差し上げましてよ。
べ、別にミリファお姉様が心配だった訳では無いのですわ!」
……ユティリアは本当に冷静? ツンデレ、じゃなくて?
ちょっとだけユティリアの性格が掴めなかったミリファ。
しかし、分かるのは二人ともとても心配していたという事。
「だ、大丈夫だよ、二人とも」
「そうですの……よかったですの!」
「……あら、羽? 橙色……、使い魔として良く知られるカルーの羽ですわね」
ひょい、とユティリアはその羽を拾い上げた。
「まぁいいですわ。
……アレッサ先輩、でしたかしら」
ユティリアはその羽を影にしまって後ろを振り向いた。
無論、そこにはだれもいない。
コソッと何かの影がうごいた。
「誰!?」
「……先輩、潔くなさってくださいですの」
少し呆れた様にユティリアと同じくルティリアも後ろを向いた。
「……気付いたの?」
「ええ、相変わらず先輩は気配を隠されるのが下手なようですわ」
「……そう」
声だけの人は観念したかの様にミリファの目の前へと出てくる。
「え、えーと?」
「2−Fー2、リゥティ=アレッサ。
属性は火の6、土の5、風の4」
「あら、これはこれはご丁寧に。
私は2−Wー3ミリファ=フェルマリーザと申します。
属性は水の6です」
「……何も聞かないの?」
「わわっ、そうでした!
どうして見ていたのですか?」
「敬語いらない。
私、見える」
「な、何を……?」
「貴女、後ろに『妖精の書』……ある」
「え?」
「違う、居る……?」
「何を言って……」
「随分と怒ってる。
貴女に対しても、自分に対しても」
「……先輩、そのぐらいにされた方がよろしくてよ?」
リゥティの後ろにはナイフを構えたユティリアがいた。
しかし、そこはミリファから死角の為に、ミリファには何も見えていない。
「ユティリア、……知ってるの?」
リゥティは疑うような視線をユティリアに向ける。
「はい、嫌という位には。
わたくしがあまり干渉していい問題ではありませんが、わたくしとしてもここで気付かれるのはあまり都合がよろしくないですわ」
「……仕方、ない」
渋々とした表情でリゥティは横を向く。
「ありがとうございますわ、リゥティ先輩」
チラリとユティリアに視線を投げると、フイッと前を向き、リゥティは去っていった。
「ど、どうしたの……?」
「いえ、何も」
「そうですの!
先輩も起きた事ですし、帰りましょう?」
ルティリアのその笑顔を見た瞬間、ミリファは決意した。
「ええ、そうですわね……」
「今度は、」
決意した事を忘れないうちに、ミリファは告げる。
「どうかなされましたですの?」
不思議そうにルティリアはミリファを見上げた。
その瞳はルティリアがとても無垢な子に見えるような目だった。
「今度は騙されないわよ、二人とも」
「あら、なんのことですわ?」
「昼休みの事、そして……その前からの不振な事。
どうも腑に落ちないの。それに、さっきの事だって……」
ミリファの言葉は途中だったが、ルティリアとユティリアは同時にため息を吐いて、ミリファをもう一度、こんどはミリファと同じく決意の表情で見上げた。
「やっぱり、気付かれてしまったですの」
「貴女がボロをしてしまうからですわ、ルティリア。
……まあ、わたくしにも非はありましたけれど」
「二人ともっ!」
おいてけぼり感のあったミリファは声を荒げる。
「ああ。ごめんなさい、お姉様。
わたくし達も制約が……あっ!」
「……ですわ」
ボソリとユティリアは呟いたが、その瞬間、すごい風が吹きぬけた。
「え?
今、何て……」
「来ます、注意してくださいですの」
その言葉を言い放ち、ルティリアはミリファを守れる位置に立つ。
「ぇ?」
ブワリと風がミリファの前を通り過ぎた。
ミリファが慌てて二人を見れば、自分達が描いたであろう、さすがのミリファでも複雑だと思える魔方陣の中心に立っている。
「『そして導け、夢の憂い姫達。
集うは雪姫、奏でるは風姫、天を見よ。
二対の刃よ、我らを守らん。
血と名に賭けて!』」
「『奏でる夢のハーモニー。
古き雪は導く。
二対の剣(つるぎ)よ、害なす者を消さん。
血と名に賭けて!』」
2人の詠唱はとても似ているようで違う。
ミリファでさえ、その詠唱を聞いた事は無かった。
しかし、最初の2行だけ感じが違う事だけは分かる。
キンッという壁と刃物のぶつかる音と、ブンッという風を切る音が聞こえ、ミリファは慌ててベットから這い出る。
「お姉様!!」
ユティリアが叫んだと同時に、ミリファはほ無意識下で防障壁を展開した。
どうやら爆発系の魔法、又は魔術だったようである。
爆発の煙がミリファを襲い、襲撃者のシルエットだけが現れた。
「……あ〜あ、防がれちゃった」
「嗚呼、とうとうか……」
煙が晴れると、そこには謁見の間で見た淡いレモン色の髪の少女と、群青色の髪をした着物の男性が居た。
男性の方はため息を吐いて登場し、少女の方は無邪気な笑みで登場した。
「貴女、運命の姫と呼ばれてた人……。
名前は……」
「マリエラだよぉ、お姉さん♪」
少女は笑ってミリファを見る。
一見小悪魔に見える笑みだったが、その瞳の奥はゾッとする程に冷たかった……。