第18話 〜アセイン〜
あれは、夢の続き。
——どうして、力を求めるの?——
そう、最後に私は彼に質問した覚えがある。
『……きっと、ミリファには分からないですから。
敢えて言うならば、そうですね……惨劇が起こらない様にする為に。
彼女達に会う為に、です』
彼女達って、と私が聞くと、彼は笑って答えて。
『さあ、誰でしょうか?
僕にも分からないのです。けれど、いずれ必ず会う彼女達の為に』
誰かも分からない人のために力を求めるの、と私は聞いたけれど、今度は苦笑いしながら彼は答えようとして。
『それは……。
あ、もう時間ですね。では、さようなら。
縁があればまた、会いましょう。
今度会った時は……』
彼には最後の質問ははぐらかされて、最後の言葉も聞けなかったけれど、もう一度聞くこともできなかった。
結局、最後の質問が私と彼にとって最初で最後の、喧嘩が無い会話だった気がする。
もう一度彼と会うならば、その時は聞こうと思う。
あの時、何を言おうとしたの……? と。
「ミ……ァ、ね……ま。ミリ……ね…さま」
私を呼ぶ声が聞こえる。
あれ、私いつ寝たんだろう?
寝る前の記憶がとても曖昧。
「ミリファおねえさま!」
「わわっ!」
耳元で叫ばれ、私はびっくりして起きてしまった。
目を開ければそこにはルティリアの顔がアップで見えた。
「こんにちわですの、ミリファおねえさま!」
「……こんにちわですわ、ミリファお姉様」
あ、遠くでユティリアが面倒くさそうにしているのも見えた。
「アイン……」
それはポツリと呟いたつもりだったけれど、ルティリアにも聞こえていたみたいで。
「アイン? アインって誰ですの、おねえさま」
やっぱり、突っ込まれてしまった。
でも、どうして人が前提な言葉で言ってるのかしら……。
私、何の事かも言ってないのに。
前にアインの事を話したかな?
「あら、アイン=ラド=ラ=カドセニースの事でして?
その方の事ならば知っているのですわ」
あれれ? アインもアセインも居るってこと?
私はそちらに気を取られ、さっきの疑問を頭の隅に追いやった。
「……ちなみにその人はどんな人なの?」
「嫌味で一々鼻にかけるような言い方をする方ですわ。
けれどなまじ成績の言い分、誰も何も言えないのです。
容姿端麗、成績優秀の完璧を表したような学園きっての天才少年と言われた程の実力者。
更には『魔王』と呼ばれたカドセニース法爵の息子。
特に剣が秀でていて、騎士の道に進んだ方といわれています。
今の歳は確か……そう、18歳ですわ。
髪の色は黒。瞳の色は灰色だそうですわ」
それをいい終えると、ユティリアはいつの間にか持っていた手帳を影にしまう。
「え、影?」
「ああ、この現象です?
わたくしの固有技能《無限倉庫》ですわ。
ちなみに、この手帳は影から出したのですわ」
「そうですの〜! わたくしもその固有技能を持っているんですの!!」
ほら、と言ってルティリアは自分の影から何かの欠片をだした。
「すごいわね、双子でそろって同じ固有技能を持っているなんて」
固有技能は遺伝としてもっている事稀にあるが、本当に稀である。
けど、私もその稀の中に入る固有技能を持っている。
「……そういえば、それは何の欠片なの?」
「『雪の結晶』の欠片ですの!」
「あ、ルティリア!」
普段冷静なユティリアは酷く焦った表情をしている。
『雪の結晶』……? ありとあらゆる雪の魔法を封じ込めた魔石、だったかしら?
焦ったユティリア。何か、デジャヴ……?
「それはそうと、カドセニースの法爵ご子息がどうかされたのですわ?」
「知り合いと名前が同じで……」
「……。それは、紳士に見えて毒舌腹黒な方の事ですの?」
ルティリアが一瞬言うのを戸惑った気がした。
「ええ、そうよ。……でも、どうしてそれを?」
「ならば、この国にいらっしゃいますですわ」
私はルティリアに聞いたにも関わらず、ユティリアが返事を返してきた。
「この国に!? ってことは……、アイツがあの子を攫ったのではなかったのね」
一番やりそうだから。……って、その前に戻ってきてないか。
「あの子? ……まあいいですわ。
わたくし達はその件に関して関与は一切致しません。
その代わりに……お姉様が言うあの子が彼女であるならば、絶対に会えるのですわ」
「え、どういう意味?」
「ですから、わたくし達はおねえさまの探し人についてこれ以上一切言えない代わりに、お姉様の言うあの子が彼女であるならば、絶対に会えるんですの。
あの子の現在ならわたくし、知っているんですの!
『……遠き地で一人。一人が為に深き眠りについた道具は再び目を覚ます』だそうですの」
「遠き地?」
遠き地、つまりこの国にはいない。元々希薄だった可能性がなくなった。
深き眠りについた道具? あ、そういえばケルフェリズには眠りについた書があるときいたけれど……、あれ、誰に聞いたのかしら?
「ええとですの……、近隣の国とこの国にはいないということですの」
「そうですわ。ですが、これ以上は秘約違反となりますので申し上げられないのですわ」
魔術師にとって秘約は命を掛けるも同然の契約のことであり、よほどの事が無い限り使われる事が無い契約の事である。
つまり、秘約違反をすれば命はない。
「……わかった」
私は先ほどの疑問を忘れ、どんな秘約をしたのか気になっている。
しかし、秘約の内容は安易に言って良いものでないと知っていたので、聞けないと分かっていた。
「あ、もうすぐ昼休みがおわります。
では、これで失礼しますですわ。
……いきましょうですわ、ルティリア」
パンパン、とほこりを払う様にユティリアがスカートを叩いて立ち上がると、ルティリアも慌てて立ち上がった。
「は、はいですの〜。では、失礼しますですの、おねえさま〜」
ルティリアはフワリと優雅にお辞儀をすると、スカートを翻して遥か先に行ってしまったユティリアを追いかける様にその場を後にする。
「ユティリア今さっきまでここに居たよね……?」
彼女達は私にちょっとした疑問を残して。
その後、やっぱり退屈な授業を受けていたけれど、表面上は聞いているフリをしておいた。
彼が言っていたよりもつまらないところ。
そうだ、彼がいるかな。
私は目を瞑って近くに居る動物と視覚共有した。
どうやら鳥みたい。だって、ふよふよ浮いている感覚が……。
あれはアセインさんかな。もう一人銀髪の目立った人が居るけど。
「……の、…………に、……」
何を話してるんだろう? ……もう少し近づいてみよう。
「つくづく用意周到だな、お前」
しっかりと銀髪の人の声が聞こえた。
「いやだなぁ、抜かりが無いといってくれませんか?」
彼は、あの頃の彼よりももっと輪をかけたように嫌みな言い方だわ。
アセインさんと会った時はそんなことなかったのだけど……。
大方猫でも被っていたのでしょうね、彼が彼であるのならば。
「……はぁ。ま、そんなことはどうでもいいが。
そうだ、ケルフェリズの第二王子とこの国の隠されているらしい第一皇女がお見合いするらしいぞ」
!? そんな話、一度も聞かされていない。
隠していた? ……だから王は信用ならないのよ。
「は? ……そんな報告受けていません」
「大方遠慮したんだろうな。本物と違ってあいつは思慮深いから」
本物? アセインさんは何の本物かしら?
「そこは美点でもありますが、彼の欠点でもありますね」
「おいおい、欠点でもないだろう」
銀髪の方はちょっと焦った様に言った。
「美点とも言い難いですよ、あの場所では」
「どこぞの放浪野郎に利用されたあいつは可哀想だな」
銀髪の方は皮肉を含んだ口調でいう。
「ええ、全く」
きっと利用したのはアセインさんだろうに、知らぬ存ぜぬという顔をしているけれど。
全く、いい性格をしている。
「……お前、いい性格してるよな」
「褒め言葉として受け取らせて頂きます」
「お前と話してると疲れるぜ」
「日頃の行いが悪いから日頃いい行いをしている僕と話してると疲れるんですよ」
「……はぁ」
これまでの会話を聞いただけでも、あの人が可哀想に見えてくる。
今までの会話を聞いていると、アセイン=(イコール)アインという方程式が成り立つ気がする。
やっぱり、アインという別人物、つまりアイン≠(ノットイコール)アインかな?
分かる人にはわかる方程式だ。
「こんなんじゃお前が王子様だと聞いても、しっくりとはこないな」
王子様、ということは、先ほどの「本物」という発言は、まさか?
「ああ、自分でも何故王子なのか時々疑問に思うよ、フィンターレ奏爵」
フィンターレ奏爵、か。奏爵と言えば国家共通地位なのだからケルフェリズ王国のフィンターレ奏爵で間違いないだろうけど、こんなに若い筈がない……と思う。
何しろ、フィンターレ奏爵といえば『謳い手』として有名にも関わらず素性はあまり知られていないから。
その為、『変人』とか『奇人』や『引き蘢り』など不名誉な2つ名もあるとか。
「こんな世の中を恨む事だな、アーセルイン第2王子」
アーセルイン……あ。まさか、二つ隣のケルフェリズの第2王子の本物、とか……?
これはやばいことを知ってしまったかも。
パサリと鳥の羽が落ちた。その色は虹色、って気付かれた!
「この虹色……誰だ!」
「火よ、紅を纏いて敵を滅却せよ」
アセインさんがこちらへ魔法を放つ。
魔法と魔術の違いは詠唱と効果。
魔術は簡単な言い回しに対し、魔法は古来からの詠唱。
大きく違いができ、魔法の方が威力が強い。
これ以上視ているのはこちらの方もやばいと思い、つながりを切ろうとしたが、もう遅かった。
あ、れ? 今日、一度こんなことが……。
刹那、意識も視界も暗転した。
文化祭疲れます……。_。
色々と。