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番外編 〜最期の呪い〜

ある王国に、かわいい貴族の一人娘がおりました。

 王子は娘に一目惚れをしました。

 娘も王子へ一目惚れでした。

 しかし、二人はなかなか積極的になれませんでした。

 それから数週間経った頃、王子は業を煮やし、遂には決意をし、娘へ思いを伝えました。

 娘はそれを戸惑いながらも受け入れました。

 それから二人はとても仲のいい夫婦となり、国は幸せに包まれていました。

 幸せなとき程長くは続きません。

 あるとき、帝国は王国へと攻め込んできました。

 むしろ、今まで攻め込まれなかったのが不思議なくらいでした。

 王国は豊かさは有りましたが、軍事力に乏しかった為、直ぐに追い込まれました。

 そんな時、帝国は王妃を渡せと要求しました。

 王となった王子は悩みました。

 良い案が思い浮かばず思いに耽っていると、王妃となった娘の侍女から提案が有りました。

 わたくしを身代わりにして下さい、と。

 その侍女はとても王妃に似ていました。

 王は聞きます。

 本当にいいのか、と。

 侍女は言いました。

 はい、我が敬愛する王妃様の為ならば、と。

 侍女は、条件が有る、とも言いました。

 王は言います。

 この自分に出来る事なら何でもやろう、と。

 侍女は言いました。

 ならば、わたくしの魔法を使い、王妃様を眠りにつかせたいのです。

 王妃様は優しい方ですから、きっとその状況を見れば傷つかれるでしょう、と。

 侍女は大陸一の魔術師でもありました。

 王は首を縦に振り、了承の意を見せました。

 これは、二人だけが知る事でした。

 ここに、秘密の契約が成立しました。

 秘密裏に計画が進められてゆく一方で、王妃は薄々感づいていました。

 ある日、王妃は遂にその計画に気付いてしまいました。

 けれど、王妃は何も言いません。

 ただ見守るだけでした。

 その日、王は帝国へ王妃を受け渡すとの返事をしました。

 その次の次の日へ王妃の受け渡しが決まりました。

 それを聞いた王妃似の侍女は受け渡し前の日の夜、王妃の眠った頃を見計らい、魔法を掛けました。

 もしもの時の為に、出来る限りの魔力を込めて……。

 その時、王妃の口が動いていたのを侍女は知りません。

 受け渡し当日、王妃は眠っています。

 侍女は王妃となり、その場所へ現れました。

 ですが、王妃になりすました侍女は帝国の王の後宮へ入れられてしまいました。

 王妃はまだ、眠りについています。

 その数年後、王妃へなりすました侍女は暗殺されてしまいました。

 理由は彼女以外に分かりません。

 しかし、彼女は死ぬ間際、ある魔法を発動させました。

 一つ目は『加護』二つ目は『眠り』三つ目は『不老不死』四つ目は『呪い』 でした。

 一つ目と二つ目、三つ目は王妃へ。

 四つ目は殺した者へ。

 これも彼女が大陸一の魔術師であったから出来た芸当です。

 王妃へは最後に込めてあった魔力を使い、術をなしました。

 『不老不死』とさせるのは骨が折れたようですが……。

 これは一種の呪いでした。

 稀代の天才と謳われたこの時代の大陸一の魔術師である侍女だけが使えた呪いでした。

 そしてその呪いは彼女が死んでしまった今、解呪は出来ません。

 その後、国は段々と衰退し、帝国に侵略されてゆきました。

 国がどんどん侵略されてゆくと同時に城は寂れてゆきました。

 国が完全に侵略されても、王妃が眠っている『アザミの塔』だけは入り口や窓など、入れそうなところに魔力の籠った少量のアネモネの花と大量のアザミの花が咲いていて、魔力に当てられてしまう為、誰も近づけませんでした。

 それもそのはず、それは侍女が王妃付きになった頃から丹誠込めて育て、魔力を少しづつ分け与えていた花でありました。

 そんな事を知らない帝国の者達は必死にその花を枯らそうとしました。

 花は枯れません。

 暫くすると、帝国は諦めたのかその塔にはもう近づきませんでした。



 侍女の暗殺から50年経っても王妃は目覚めませんでした。

 けれど、侍女の魔力が強いと言っても、眠りはそれほど長く続きませんでした。

 外は完璧に守られていました。

 ですが、中の王妃の『眠り』は少しづつさまされてゆきます。

 侍女の暗殺から丁度50年目の日、一人の少年が現れました。

 その頃には王妃の意識は覚醒していました。

 王妃は自分の意識と魔力を使い、少年の心に呼びかけました。

 今、外はどうなっているのですか?、と。

 少年はビックリした様子で周りをきょろきょろ見渡しました。

 しかし、誰もいません。

 暫くして、少年は塔を見ました。

 少年は叫びます。

 そこにいるの!?、と。

 王妃は言います。

 ええ、そうです。

 わたくしはアイリですわ。

 あなた様は?、と。

 少年は驚きながらも答えました。

 わあっ、ここに人は居たんだね!

 僕はセトっていうんだ!!、と。

 王妃であるアイリはもう一度質問を繰り返します。

 今、外はどうなっているのですか?、と。

 それを聞かれ、セトはしどろもどろに返事をしました。

 ん、と……。

 今は…………。、と。

 アイリは答えられない事が分かったのか、質問を変えました。

 じゃあ、この王国について教えてくれますか?、と。

 アイリにきかれ、セトは首を傾げました。

 え? ここに王国なんて無いよ?、と。

 セトは悪気がなさそうでした。

 アイリはビックリしながらも、それほどショックは受けませんでした。

 あんな事になって崩れなかった方が不思議だったもの。

 アイリは心の中ではそう思っていました。

 アイリはもう一度、質問を変えました。

 では、ここはどこなのですか?、と。

 セトは何当たり前な事を?、と思いながらも答えました。

 ここはファクトーラ帝国領の『アザミの塔』。

 そして、ファクトーラ帝国がゆういつ侵略できなかった塔。

 本当はイエン王国の敷地だけど、実質はファクトーラ帝国の物かな。

 だって、イエン王国はもう、無いんだもん、と。

 アイリには電撃が駆け抜けるような衝撃が襲いました。

 アイリは知らず知らずのうちに、声のトーンを落として喋りました。

 そう、ありがとうございました、と。

 アイリの声のトーンが落ちてしまったのは、さっきの時点で王国が無い事は分かっていた筈なのに無いと言われるととてつもなくショックを受けてしまっていた自分自身が情けなかったのです。

 アイリは思い出した様に問います。

 ……ああ、近くにセントポーリアの花は無いかしら?、と。

 セトは辺りをキョロキョロと見回して、白い花を見つけました。

 セトは叫びます。

 それって、白くて小さい花のことー?

 それなら見つけたよ!!、と。

 アイリは内心微笑んで言いました。

 はい、それです。

 それを大切にしまっておくと、願いが叶うというおまじないがあるのですよ、と。

 セトはその花をじっと見つめ、小声で言いました。

 それでもなお、王妃には聞こえていました。

 …………弟ができますように、と。

 セトとアイリはそれから、いろいろな事を話しました。

 セトは外の話を。

 アイリは世界の色々な豆知識などの話を。

 日暮れになると、アイリは段々と意識が薄れて行きました。

 でね、その国王、ファクトーラ19世はね……。

 セトはアイリの変化に気付かず喋り続けます。

 アイリは意を決して話しかけました。

 セト、もう時間みたいなのです。

 わたくしの魔力は体が動けないので無理矢理魔力を集めている状態なのです。

 時期に、『眠り』の魔法がわたくしを襲います。

 一度寝れば次は魔力が弱る新月の日までわたくしは起きられません。

 その日だけがわたくしの『眠り』を醒まさせるのです。

 お手数をお掛け致しますけれど、次の新月も来て下さると嬉しい、です。

 ……お待ち、して、おり……ま………………。

 アイリは完全に『眠り』へと誘われた。


 暫く経っても反応のないアイリに、本当に眠ったんだ、とセトは思い、渋々帰ってゆきました。

 次の新月は丸々1年後です。

 侍女が死ぬ前、ちょうど50年前はちゃんと1ひとつきに一度は新月がありました。

 ですが、侍女の死ぬ頃にその周期は狂ってしまいました。

 1月に一度から2ふたつきに一度、3みつきに一度と年々変わっていってしまいました。

 それからは知っての通り、一年に一度だけでした。

 自分の居場所へ帰ったセトは自分の無知を知り、それからというもの嫌だった勉強に励む様になりました。

 実を言えば、アイリと遭った時はセトが自分の家庭教師から逃げているところでした。

 ファクトーラの国民は『アザミの塔』に不用意には近づきません。

 セトもそれを知っていたため、そこを隠れ蓑として選んだのです。

 しかし、何故『アザミの塔』へ近づいてはならないのかをセトは知りません。

 そういうものだとしか認識していなかったのです。

 セトは勉強に四苦八苦していても、新月の約束は忘れませんでした。

 翌年、セトもだいぶ勉強にも慣れてきた頃、新月は近づいていました。

 新月の前日、自由にできる様にとセトはその日の分の勉強を教えてもらっていました。

 そして、新月の日。

 セトは『アザミの塔』の前へ居ました。

 今度は朝から。

 けれども、アイリの声は聞こえませんでした。

 セトは夜まで待ちました。

 やはり、アイリの声は聞こえませんでした。

 セトはふと、空を見上げました。

 なんと、その日は月が出ていました。

 セトは驚愕きょうがくしましたが、同時に安堵あんどしました。

 ああ、だからアイリの声は聞こえなかったんだ。

 僕は見捨てられたんじゃなかったんだ、と。

 それからセトは自分の居場所に帰り、もっと多くの事を教える為に、より一層勉強に励みました。

 セトは魔法が使えない特殊体質だったため、魔法は覚えられませんでしたが、体術や剣術を磨き続けました。

 鍛錬や勉強に明け暮れるセトでしたが、やっぱり『新月の約束』を忘れてはいませんでした。

 アイリに逢えなくなって15年目。

 その年、王が崩御したために実は第3王子であったセトは、王権争いへ巻き込まれることとなりました。

 新月の日に抜け出す事も難しくはなってしまいましたが、セトは監視の目をかいくぐり、なんとか抜け出しました。

 セトは決心しました。

 今日逢えなかったら……もう、逢えない、逢わない、と。

 セトは深呼吸をしてからアイリへ話しかけました。

 アイリ、あれから15年も経ちました。

 ここに来るのも最後になりそうです、と。

 暫くして、アイリからの返事が返ってこないので、セトは去ろうとしました。

 セト? そこにいるのはセトなのですか?

 と、優しいソプラノの……アイリの声がしました。

 セトは振り向きました。

 次の瞬間、セトは大声を上げて言いました。

 本当に……本当に、アイリですか!?、と。

 アイリは優しく、ゆっくりと言います。

 はい、わたくしです。

 ……背、のびましたね。

 最初は誰だか分かりませんでした、と。

 アイリがクスクスと笑っているのがセトにも聞こえました。

 セトは慈しむような声で言います。

 それはそうです。

 あなたと最後にあったのは丸々十五年前なのですから。

 ……ずっと、待っていましたよ、アイリ、と。

 アイリは言いました。

 あら、もうそんなに経っていたのですか。

 通りで……、セトも青年になっていた筈ですね。

 ところで、新月とは、1(ひと)月に一度あるモノだと記憶しているのですが……?、と。

 セトは思い出した様に言いました。

 ああ、それは……。

 セトは新月の事や、前に分からなかった事を話した。

 夕暮れになっても、アイリに眠気は襲ってきませんでした。

 さらに、夜になってもアイリに眠気は襲ってきませんでした。

 アイリは嫌な予感がしていました。

 しかし、セトは15年分の事を話すのに必死のようです。

 アイリはやんわりとセトに言いました。

 セト、今日はもう遅いです。

 眠たくならないようなので、明日、又来て下さいませんか……?と。

 セトはアイリとの別れを惜しみましたが、渋々帰りました。

 ……いえ、帰ろうとしました。

 アイリの嫌な予感は的中してしまったのです。

 セトの後ろから暗殺者と思わしき人物が襲ってきたのです。

 間一髪で暗器を受け止めたセトはその人物と交戦していました。

 『アザミの塔』の近くにいれば、少しでも魔力を持つ者は魔力に当てられ、キツいものなのです。

 魔力を持たないセトと、魔力を持つ暗殺者と思わしき人物では、セトの方に少しだけ分があると思われました。

 これではらちがあかないどころか、負けかねないと思った暗殺者と思わしき人物は一度、身を隠しました。

 セトは構えて待っていました。

 その人物はセトの真上から降ってきました。

 セトとその人物が交戦中、アイリは違和感を感じました。

 あれは、ちがう、と。 

 アイリは直感的に感じました。

 注意深く周囲に思念を飛ばしたアイリは敵がセトの後ろに居る事に気付き、精一杯叫びました。

 セト、後ろを見て下さい!と。

 時既に遅く、セトに暗殺者と思わしき人物が刃を向けていました。

 もう間に合わない、と感じたアイリは最終手段を使いました。

 リィル、とアイリは言いました。

 すると、ギリギリで光の壁が暗殺者と思わしき者を弾きました。

 セト……逃げて、下さ……い…………。

 彼女が、守って、くれ、ま……す……、というアイリの弱々しい声が聞こえたかと思うと、セトはその場から消えてしまいました。

 アイリは『力』を使ってしまったため、再び眠りについてしまいました。

 アイリの『力』は『空間魔法』。

 それは、現在途絶えたとされる転移や瞬間移動などの魔法系統であり、アイリはその末裔でした。

 すべては、侍女が死んだ事によるものでした。

 その原因をここで語る事は出来ません。

 侍女が何者かは、侍女以外には知り得ないことです。


 その後、兄弟達の潰し合いにより、セトが強制的に王の位へと繰り上がる事になりました。

 セトが王になった後にも新月の日、『アザミの塔』へ秘密裏に足を運びました。

 アイリへ御礼を言う為に、アイリと話す為に。

 その年、アイリは眠っていました。

 しかたないか、と思ったセトは残念そうにその場を去っていきました。

 翌年、その次の年……そして、10年経ってもアイリが目覚める事はありませんでした。

 その頃に、セトは政略結婚をさせられ、完全に宮廷に捕われてしまいました。

 そしてその1年後、子を成し、更には不治の病にかかってしまいました。

 すっかり床に臥せっていたセトには未練がありました。

 それは、子の事でも、自分の事でもありません。

 

 アイリの事だけが、彼の最後の気がかりでした。


 彼の健闘もむなしく、その1年後の冬。

 粉雪の降る、寒い、さむい日に彼は独り……いえ、2歳である自身の子に看取られ、死んでゆきました。

 そこに政略結婚をした妻は居ません。



 王妃様アイリはまだ、眠っています。

 彼女が醒める日は来るのでしょうか……。


 アザミの花言葉は『触れないで』『独立』『厳格』『復讐』

 アネモネの花言葉は『儚い恋』『薄れゆく希望』『期待』『可能性』

 侍女は大量のアザミと、少量のアネモネに何を託したのでしょうか。

 それをもう、知る事はできません。

 彼女はいったい、何を知り、何をしたかったのでしょう。

 それもまた、闇へと消えてゆく疑問でした…………。

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