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第16話 〜眠る魔法〜

 あれは、ある昼下がり。最後の一撃、相手を負かした時に起きた事。

「いや〜、フェルマリーザの才色兼備さんがこんな低能な争いに付き合われるとは思いもよりませんでしたよ」

 そして、思い出すのは私に破れた兵士を見下す、整った顔の嫌味ったらしい彼。

 低能な争いって……、これは決闘です。

「私もこんな……貴男が言う、低能な争いをしたくありませんでしたよ」

「そうですか。

申し遅れました、僕はアイン。

アイン=ランヴァーツです」

 彼は自分で振った話のくせに、どうでもいい様に返す。

 ランヴァーツ家は、その時フェルマリーザ家と仲の良かった家系だった気がする。

 私は彼が嫌いなのです。

 もう会いたくないと思いながらも、結局は腐れ縁なのか、家が近いという事もあり、毎日の様に顔を会わせましたけれど。

 かくして、彼は(不本意ながら)私の幼なじみとなったのです。


 それは憂鬱な日常を送っていた時。

 私は彼と(嫌々)話をしていました。

「あ! ミリファお姉ちゃん!!

……あれ? アインも居るの?」

 タイミング悪く、その時に愛しい妹が来てしまったのですね。

「え、彼を知って……」

 彼は私の問いを遮る様に言う。

「やぁ、こんにちわ」

 彼はキラキラという効果音が付きそうな位の笑みを浮かべたのです。

 やっぱり、彼は嫌いです。

「ご機嫌麗しゅう、アイン。

あ、えっと、そんなことより……」

 あ、妹にそんなこと扱いされてちょっと落ち込んでる。

 ふふふ〜、ざまーみろ、です。

「お姉ちゃん! 本当の本当にセンブルクにするの!?」

 あ、思い出した。この時は確か、センブルクに残るか、他の国に引っ越すかって悩んでたときだよね。

 有力候補はケルフェリズだったかしら?

 結局、センブルクに残ったけれど。

「うん、引っ越したら色々面倒でしょう?」

「でもっ、……センブルクは……」

 妹は悲しそうな顔をしていた。

 ああ、そんな顔をしないで?

「駄目だよ、笑顔笑顔!」

 むにーと彼は妹のほっぺたを引っ張りました。

 かわいい……。でも、アインがやったことを無しにはしませんが。

「う、ん……。

あれ? レーネちゃんは〜?」

 妹にいわれ、周りを見渡した私。

 彼女は大体彼の隣に居るのに。

「あ、そう言えば居ない……」

「……そのことだけど。

レーネと僕はちょっと用があって……、引っ越す事になったんだ」

 唐突に彼は言った。

 私はすぐに立ち直ったけれど、あの時、妹は唯呆然としていて、悲しそうで。

 近くに居た私だけに妹の呟いた声が聞こえたけれど。

「もう、そんな時期。

後少し、巡れば始まる……」

 何が、と聞こうとして口を開いた私だったけれど、何も言えなかった。

 妹はとても悲しそうな顔をしていたから。

 何を、貴女は伝えたかったの……?





「……あ」

 ミリファの朝の第一声はそれだった。

「思い出した、かも」

 ミリファは少し思案顔になる。

「でも……昨日の人、アセイン=グランヴァーツと言っていたような?」

 それならば名前が違う……、しかも、彼達はケルフェリズへ引っ越したって、とミリファがブツブツ呟いていると、バンッと言う音がした。

 見てみると、そこには無惨に壊れた寝室の扉と座り込んでいたルティリアが居る。

「あ……壊しちゃったんですの」

 罰が悪そうにルティリアはミリファを見上げた。

「てへへ、加減を間違えてしまったのですの」

 ミリファへ向かってルティリアは言うと、よいしょ、と立ち上がり、笑顔を作った。

「おはようございますですの、おねえさま!」

 さも何もなかったかの様にルティリアは挨拶をする。

 色々突っ込みどころがあったが、いちいちリアクションするのに疲れたミリファは何も言わずに挨拶する。

「……おはよう、ルティリア」

「ルティリアったら……扉を壊しては駄目ですわ」

 声の主はいつの間にか部屋に居た。

「ぇ? ……ユティリア、何時からいたの?」 

 声の主こと、ユティリアはもっときつくルティリアに言うのかと思われたが、そう言っただけでさほど気にしていないようだった。

「ああ、お姉様。 おはようございますですわ」

 やはりユティリアは変わっていなく、冷静に、淡々と挨拶を済ませた。

「お姉様! 扉はわたくし達で直しておきますので、リビングへいってはどうですの?」

「直せるの?」

「はい! わたくし達からすれば、お茶の子さいさいですの〜!」

「あ、うん……ありがとう。

じゃあ私は先にリビングへ行ってるね」

「はいですの」

 ルティリアの勢いに押され、ミリファは寝室を出る。


 2人は扉を直すため、扉の方へ向き直った。

「『わたくしが命じます。扉よ、元あるべき姿へ直りなさいなのですわ』」

 一言でユティリアの詠唱は終わる。

 にこにことした表情でルティリアはその作業を見つめていた。

 扉を直すのにさほど時間はかからなかった。

 ミリファを部屋から出したのは、それだけではない。

 2人は扉に背を向き、誰もいない空間へと言った。

「ミリファをあなた方に殺されるのは今のところ少々良くないんですの」

 その時、ルティリアはニコニコとしていた表情を崩し、真剣な表情で言った。

「そうですわ、わたくしたちの身動きもとりにくくなってしまうのですから」

「だってそれは、」

「制約を破った事になるからですわ」

 言うだけ言って満足したのか、2人はミリファのいるリビングへ駆け足で向かっていった。

 雪の様に真っ白な少女。

 古風な侍の装いをした青年。

[制約……?]

[雪の達にも色々あるのだろう。

あの達の事は詮索するなとあの方々に言われたばかり、聞くべからず]

[……わかってる]

[ならば良いがな……]






 色々ハプニングがあったが、ミリファはやっとの思いで学校に着いた。

 ミリファの心情としては、学校の授業に興味をそそられないので暇なのである。

「ふぁぁ……」

 ミリファは寝足りなかったのか、それとも授業が退屈だったのか、大きな欠伸をした。

「おねえさま、寝不足ですの?」

 唯今、ミリファは双子と中庭で昼食を摂っている。

「う〜ん、そんな事無い筈なのだけれど……」

 ミリファは暫く考える素振りを見せた。

「違う事といえば、最近良く過去の夢をみることぐらいかしら」

「過去の夢? どんな夢ですの?」

 ルティリアは金色の瞳を益々キラキラさせながら言った。

「あれは、今から……ええと(今14歳の設定だから……)4年前の話よ。

今日見た夢はね、幼なじみと出会ったときの話と、その幼なじみから引っ越しの話を聞かされたときの話」

「ほへぇ〜、幼なじみさんのお名前は?」

「ん? 名前は……」

 その瞬間、色々な花が舞った。

 まるで、ミリファの言葉を遮る様に。

 そんなことを露にも思っていないミリファは続けて言う。

「アイン=ランヴァーツと、レーネ=ランヴァーツと言う兄妹よ」

 なにかが、繋がった。

 それが何かは彼女達以外には分からないけれど。

「それがどうかしたの?」

「いえ、特になんでもないんですの!

ね、ユティリア〜」

「そうですわね、ルティリア」

 ユティリアは淡々とお弁当を食べている。

 最初はかなりツンデレなユティリアかと思われたが、そうではなく単に冷静で淡白で少しツンツンしているだけであった。

「隙ありですの!」

 見れば、ルティリアがミリファのおかずを掴んでいた。

「わわっ、ルティリアー」

「お行儀が悪いですわよ、ルティリア」

 表面ではルティリアを嗜めつつも、ユティリアはルティリアのおかずを掴んでいた。

 ……いつの間に、と思ったのはミリファの密やかな疑問だ。 

「ねえ、おねえさま?」

 ルティリアは少々舌ったらずな口調で言う。

「ずっと、ずーっと、せめて卒業するまではおねえさまと一緒に居たいんですの!」

「ええ、そうですわね」

 ユティリアとルティリアは少しだけ悲しそうな顔をしながら言った。

「え?」

「ずっと、幸せな世界で居られたら良い、という事ですの」

「そうですわ、ずっと幸せな世界でい居られればいいのですわ」

 ルティリアとユティリアにはもう、さっきの悲しそうな表情は無かった。

 2人のいい分にミリファは首を横に振る。

「うん、そうね。

楽しくて幸せな日常が続けば……」

 でも、私はそのうちここから居なくなってしまうかもしれないけれど、という言葉をミリファは飲み込んだ。

「……本当にそう望んでいるんですの?」

 ルティリアは自分で言った事を否定しているような口ぶりで言った。

「? ルティリアが……」

「先ほどの言葉は無かった事にしてくださいですわ」

「でも、」

「無かった事に。

……そういえば、貴女の場合は出来ないのですわね」

 ユティリアはミリファの言葉を遮り、諦めたかのような口調で言う。

「どういうこと?」

「いえ、知らなくて結構なのですわ。

……時が来る時、分かるのですから。

『記憶よ、覚醒の水底へ眠れ。

我、ユティリアの名の下に』」

 ユティリアは一方的に術を唱えた。

 ユティリアが言い終わると同時にミリファは糸が切れたかの様に眠る。

 倒れかけたミリファをユティリアは自分の『風』で支えた。

「……失言ですわよ、ルティリア」

 ユティリアはルティリアを射殺さんばかりの視線で見た。

「失敗失敗、ですのー」

 しかし、当の本人はそんな視線など知らないかの様に笑みを浮かべた。

「失敗で済まされる事ではないんですわ!」

「……分かっているんですの」

 その声はルティリアと思えない程冷たい声を響かせた。

「それならばいいのですわ。

……全てはあるべき未来の為に」

「……夢の未来の為に」

 2人は何かの暗号かの様に言う。

 カツン、と何かが落ちた音がした……。

これからはサブ連載もちょくちょく更新します

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