第10話 〜メイド長副筆頭(メイド長筆頭代理)〜
長いので分けてほしいという意見が有りましたので。今回からエリス側とミリファ側の二つに分けてお送りします。
エリス側が先です。
「ふぁぁ・・・。
日向が心地いい・・・。」
唯今エリスはアーセルインの自室を掃除している真っ最中である。
しかし、アーセルインの自室は日当りが良いため、エリスは大欠伸をしてしまった。
「よし!!
大方片付いたかな。
あれ、この資料片付け忘れてた・・・。」
エリスは自分に呆れつつ資料を見た。
資料の上の方にはデカデカと【A級国家機密事項】と書かれていたため、エリスは思わず資料を落とした。
しかし、我に返って急いで資料を取り、アーセルインの机の上へ風で飛ばないように置いた。
「・・・私は何も見ていない。」
一人呟いたところで、エリスは足早にその部屋を退出した。
日も昇り、定時で仕事も終わってしまった為、エリスはメイド専用の休憩室に居た。
基本メイドの仕事は定時で終わるため、次々と他のメイド達は休憩室へと入る。
休憩室と言っても、全メイドが定時に集まるため、中々広い。
リンが来て、喋らないとメイドとしての一日は終わらない。
メイド長筆頭が居たときでも代理としてリンが喋っていたとか。
「ねえねえ、聞いた?
グレンアルス様の遊び役の少年が事故を起こしたらしいわよ。」
「どんな?」
「ん〜と、少年が宰相様を殴った、とか・・・。」
「あの宰相様を!?
・・・でも今回の宰相様、良い話はきかなかったわよね。
前々から横領問題問題とか浮気とかあったし・・・。」
「あ!そういえば、後宮にいらっしゃられるエミリ様がまた、嫌がらせを受け始めたらしいわよ!」
「後宮にいらっしゃるエミリ様、一番位が高いところにいらっしゃられるのに仕返しされないのよね。
遠慮深くて、聡明で博識な良いお方なのに嫌がらせを受けていらっしゃるのは私達としても心が痛むわ・・。」
「ええ・・・・。」
ドアが開いた。
その瞬間、メイド達は静かになった。
「今日も大変良い働きでした。
メイドの皆様、おつかれさまです。
・・・さて、話は変わりますが、わたくしはメイド長筆頭代理ですね?」
リンの問いかけに殆どのメイドは戸惑った。
それもそのはず、殆どは新しいメイドだからである。
当時を知るのは一割にも満たないメイドだけだ。
当時の983名も居たメイド達はもう100名程しか居ない。
残り約900名のメイド達の行方はいずれ話されるであろう。
「・・・ああ、そうでした。
あの話を知らない人たちばかりでしたね。」
リンは一瞬悲しそうな瞳をしたが、それは僅かな時間だったため、気付く者は居ないと思われる。
「いえ、話を戻します。
この一年以内にメイド長筆頭が戻られなければ、わたくしはメイド長副筆頭メイドや長筆頭代理ではなく、メイド長筆頭に就きます。
・・・異論は有りませんね?」
リンの問いに、殆どの者は頷いた。
しかし、当時のメイド長筆頭を知る者は難色を示した。
「お言葉ですが、わたくし達はメイド長筆頭以外をメイド長筆頭に据える気はございません。」
それは古参メイドだった。
もう一人の古参のメイドが追い討ちをかける様に言う。
「リン、諦めるのが早過ぎます。
貴女は少し、頭を冷やしなさい。
わたくし達はメイド長筆頭であるあの子以外をトップとは認めません。
メイド長筆頭となるならば、わたくし達古参のメイド達を納得させて見せなさい。
ただし、あの子が使った方法ではもう、わたくし達は納得致しませんからね。」
ピシャリ、と言い放たれた言葉にリンは唇を噛んだ。
「っっ、わたくしの親友であった彼女はあれから1年経った今も帰ってきておりません!
彼女がわたくし達を裏切ったとしか・・・。」
「だから頭を冷やしなさいと言うのです。
あれからまだ1年しか経っておりません。
それに、あの子が彼の所為でどれほど苦渋の決断を強いられたのか・・・・。」
「エイラ!!」
エイラと呼ばれた古参のメイドはもう一人の古参のメイドに名前を呼ばれて、ハッ!となり、あわてて口を閉ざした。
しかしもう遅かった。
「苦渋の決断・・・?」
リンはいぶかしげにエイラという古参のメイドを見た。
エイラという古参のメイドはくるっと後ろを向き、メイド達を見渡した。
パンパンと手を叩き、言った。
「リンがメイド長筆頭となる事に異論がある方は残って下さい。
それ以外の方は直ちに自室へ帰る様に!!」
声が響き、新人のメイド達は次々と退出して行った。
しかし、エリスは退出しなかった。
「フィオルセッテさん、だったかしら。
貴女は皆さんと帰らなくていいの?」
優しそうなメイドはエリスへ声をかけた。
エリスは首を横に振った。
「はい、いいんです。
元の原因は・・・。」
「さて、先ほどの事ですが、忘れて下さい・・・・というわけにはいきませんね。」
「ええ。
彼女が何の決断を迫られていたのですか!?」
密度が低くなったなったメイド達の休憩室にリンの怒声が響いた。
「それは言えません。
あの子が秘密にして下さいと頼んだのですから。
・・・あら、そこの方。」
エイラと言うメイドは今気付いたかの様にエリスを見た。
「どうかなさいましたか?」
「・・・いえ。」
エリスは知らず知らずのうちに冷や汗を流していた。
「・・・・。
彼女がやった方法以外と言えば、実力行使以外ありません!!」
リンはメイド服をはためかせてエイラへと突進して行った。
「・・・仕方ない子ですね。」
エイラはため息を吐きつつ防御壁を張った。
「前メイド長『元帥』エイラ=フォリー=ラ=ヴェノワールの名にかけてお相手致しましょう!」
防御壁を張ったエイラは高らかに宣言する。
防御壁に弾かれたリンも一度止まり、エイラと同じ様に高らかに宣言する。
「メイド長副筆頭『賢者』リン=アクドゥールの名に賭けて、エイラ=フォリー=ラ=ヴェノワールへ決闘を申し込みます!!」
順序は逆だったが、それでも戦いは始まった。
そこから二人の攻防が始まった。
時々流れ弾があたるため、優しそうなメイドは何かを唱え、結界を張った。
「争うならこの中で争って下さい。」
そして冷たく言い放った。
残ったメイド達は二人の戦いをどちらが勝つか予想している。
「わたくしはエイラ様だと思うわ。」
「けれどエイラ様は魔術階級が『賢者』の一つ下の『元帥』よ?
皮肉だけれどリン様が勝つと思うわ。」
いろんな予想が飛び交う中、先ほどの優しそうなメイドはエリスへと聞いた。
「貴女はどちらだと思うかしら?」
「私は・・・、エイラ様だと思います。
例えリン様が『賢者』であってもエイラ様には勝てないかと。」
「どうして?」
「・・・リン様は今、冷静さを欠いております。
あれでは見える真実も勝てる勝負も・・・・。」
エリスが悠長に話していたころ、あちらは・・・。
「エイラ様、わたくしを認めて下さい!!
<来たれ、雷精。
水精!
我が名、リンの名に於いて、集え。
2つの名に於いて・・・。
『水雷』>」
「わたくしは絶対に・・。
そちらが2種混合属性とくるならば。
<来れ、火精。
我が身を守れ。
かの敵を焼き殺せ。
『火の憤怒』>」
2つの属性と1つの属性がぶつかる。
当然2つの属性が勝つが、火の防御壁を破れなかった。
「相性が悪いですね・・・。」
リンはぽつりと呟いた。
「反属性同士は馬が合わないと言われていますからね。」
「ええ、そうみたい、ですっ、ね!!」
リンは無詠唱魔法を放った。
エイラは防御壁で受け止める。
それからリンは無詠唱魔法を打ち続ける。
何分続いただろうか。
両者ともに魔力を使い果たしそうになっていた。
「はぁ・・・はぁ。
次で、最後に、なりそう、です、ね。」
「・・ハァ、ハァ。
最後に、しましょ、う。」
「ええ・・・。」
二人は魔力を練り始めた。
「<来れ、雷精。
来れ、氷精。
来れ、水精。
我が名、リン=アクドゥールの名に於いて。
集え、集え、大気に満ちよ。
我が力となりて、歌を奏でよ。
『3つの誓い・3つの制約』>」
「<来れ、火を統べる火精よ。
来れ、天土駆ける光精よ。
我が名、エイラ=フォリー=ラ=ヴェノワールの名に於いて。
祝福を、光の加護を、火の加護を。
忘れし時の流れとともに忘れ去りし古を思い出せ。
我が空を駆けよ。
『光火ありし天空』>」
3つの属性を持つ力と、2つの属性を持つ力はまた、ぶつかり合う。
3つの属性が押したかと思われたが、2つの属性がギリギリのところで押し返す。
その瞬間、エイラが笑った。
「だから貴女では駄目なのです。」
その言葉を聞きながらも、リンは目を瞑り、敗北(死)を認めた・・。
「!!エイラ様、リン様を殺すつもりなんですか!?」
「状況を見る限りは、ね。」
「そんな・・・。」
エリスは2人を見る。
もう決着がつこうとしているところだった。
「そんなことをしては・・・・。」
ダメ!!とエリスが言おうとした時、群青色の魔力がエイラの魔力を相殺した。
「あ、お久しぶり・・・でもないですね。
ハイラルディスはお元気でしたか?」
「・・・・ルイ。
ハイラは元気すぎるぐらい元気だけど・・・ハァ。」
エリスはため息をつきつつ諦めた様に答えた。
どうでしたか?
やめてほしいという意見が多数有れば戻します。
ご意見、ご感想お待ちしております。