番外編 〜とある英雄様の考察〜
番外編
メイド長筆頭代理。
本格的にメイド長筆頭にならないか、という話を受けないのは、貴女の為ですよ・・・・。
どこへ行かれたのですか___。
わたくしはリン=アクドゥール。
しがない魔術師でしたけれど、神託により魔王討伐へと向かわされた、いわば生け贄でした。
しかし、旅の結末は呆気ないものです。
魔王は優しい方でした。
まぁ、その、美青年でもありましたよ。
コホン、それはさておき、・・・黒幕は神託をした神官長でした。
わたくし達はなんとか神官長を倒しました。
これでめでたしめでたし。
・・・ではなく、わたくしには『英雄』という称号が常に纏わり着くようになりました。
どこへいってもそれは同じでした。
ある日、見覚えの無い二通の手紙が来ました。
それは、なんとまぁ勝手な事に書類審査通過の通知でした。
書類と行っても必要事項だけなのですが。
もう一つの手紙は差出人不明の水色の手紙でした。
『拝啓 リン=アクドゥール様
前略
この度は誠に勝手ながらメイドの応募をさせていただきました。
これは、貴女にとっても良い話かと思われます。
名前は同じだけで、容姿は同封の魔法薬で変えられれば貴女が英雄とはバレないでしょう。
しかし、魔法薬を飲んでしまえば、わたくし以外に魔法を解く事も掛ける事も出来ないです。
どうしても魔法を解きたい時には、〜〜〜〜〜〜〜という人物を訪ねてみると良いでしょう。
あ、その方はメイドですので。
敬具 唯の魔術師より』
肝心な人物の名前がにじんでいて、よくわかりませんでした。
何かと思いましたが、同封されていた魔法薬を騙されたと思って飲んでみると、わたくしの髪と目の色が変わりました。
ここから、メイドとしてのリン=アクドゥールは始まりました・・・・。
とりあえず、メイドの試験はなんとか合格(実技がボロボロ、筆記はカンペキ)しましたが、当時のメイド達は荒れていました。
時期も悪かったのでしょうね。
王の即位式が行われた後でしたから・・・・。
ですからメイドが増員されたのでしょうけれど。
最初は失敗ばかりです。
同期にはノエル=ブリュッセッタという子がおりまして、親友となりました。
ノエルは突然、「私がこの王宮(のメイド達)を変えるわ!!」と言い出しましたの。
あの子は好奇心旺盛、だけど重要な場面では冷静沈着で、わたくしも驚かされる場面が多々有りました。
それからノエルはメイド達の信用を得る為に寝る間も惜しんで(いえ、ちゃんと寝ていましたが)メイド達の信用を得ようとしていました。
全983名のメイド達から、とある提案の同意を貰ったのは、それから2年経った時でした。
その時には皆、ノエルを信頼していました。
そして、ノエルが作った提案とは『メイド長制度の改正』でした。
それは、メイド長は一人ではなく、大まかな持ち場にメイド長を決め、それをメイド長筆頭に選ばれた人物が週末に長会議を開き、纏める、という物でした。
最初は納得しなかった古参のメイド達も、ノエルの真摯な訴えに重い腰を上げた(裏で暗躍してい人物が居たらしいのですが)のも提案の同意に影響しているのでしょうが。
ノエルがメイド長筆頭になった時にわたくしをメイド長副筆頭として下さって、どれほど嬉しかったか・・・・。
わたくしを『英雄』という目で見ない方々といるのは心地いい日々でした。
わたくしとノエル、忙しい毎日では有りましたけど、楽しかったのです。
ある日、ノエルは姿を消しました。
「いずれ会えるでしょう。」という置き手紙を残して。
三日三晩寝込み、メイド達も士気が下がっていました。
とりあえずは副筆頭であるわたくしが僭越ながら指揮をとらせていただきましたが。
ノエルが帰ってきた時もこんな状態ではノエルは悲しみます、と言っただけで、『表面上』は、いつも通りに戻りました。
そうなる原因があったのか、わたくしは考えました。
大きな原因としては、あの阿呆王子の所為だと考えました。
あの女好き王子、例えケルフェリズ王国第一王位継承者だとしても、許せません!!
ノエルが女好き王子付きのメイドなのを良い事に、口説きやがりまして・・・。
ノエルは天然ですから、からかわれているのだと認識していますけれど、あの女好き(王子)、端から見たら本気ですのよ!!
・・・・とまぁ、これ以外が原因とは考えられないんです。
ノエルは自分を平々凡々だと言っていますけれど、分かる人から見れば、素敵な方ですのに。
その点ではあの女好き(王子)も見る目があるとは言えますわよ(・・・・それでも大嫌いな方ですが)。
あの女好き(王子)、会ったら嫌味と皮肉を言ってやりますのよ・・・・。
女好き(王子)では誰だか分からないですか?
え・・・と、(認めないですが)ケルフェリズ王国第一王位継承者、カインラーザ=ルンエス=ド=ケルフェリズ様でございますよ。
顔が(無駄に)良い、女好きです。
ですから、ノエルに口説きが標準装備だと思われているというのに・・・。
まぁ、敵に塩を送るマネは致しませんけれど。
早く御気付きにならないカインラーザ様(女好き)が悪いのですから。
そんなこんなで月日は過ぎ、気付けばもう、1年と半年がたっていました。
しかし、ノエルからの音沙汰はありませんでした。
そんなとき、新人のフィオルセッテ=グランジェルノという方が入ってきました。
なにか、ノエルと通ずるものがありました。
一瞬、ノエルと間違えてしまいましたから。
グランジェルノさんはアーセルイン様の推薦で入ってきてらっしゃりました。
大方何かの関係者なのだろうと思っております。
ですが、アーセルイン様は自己犠牲身が強い方です。
・・・そういえば、アーセルイン様が王子となる前、ある町に居たとご本人が申しておりました。
その時に約束を守れなかったからどうたらこうたら・・・。
いえ、どうでもいいことでしたね。
さて、グランジェルノさんは優秀でした。
何が、といいますと、メイドの仕事においては殆ど完璧であり、とても新人とは思えませんでした。
まるで、ノエルのような・・・。
ノエルが真昼の太陽とするならグランジェルノさんは朝の太陽。
輝きが違ったのです。
けれど、わたくしには無い統率力をお持ちかと思われます。
わたくしは力で統率してしまうタイプですけれど、ノエルは皆を惹き付けてやまなく、皆とともに有る事で統率するタイプですから。
・・・あら、あそこに居るのはグランジェルノさんですわね。
書庫も割当に入っておりましたけれど・・・。
わたくしは中を覗きましたけれど、グランジェルノさんが座り込んでいて、アーセルイン様が辛そうな顔をして・・・?
あれは、何の資料?
あ、一部読めましたわ。
【・・・皇女は皇女ではない。】
皇女?3つある帝国の中で皇女が居るのは・・・、アルフェミット帝国、パレングラザス帝国。
残る隣の隣の帝国は居なかった筈ですわね。
アルフェミット帝国は皇女が4人。
パレングラザス帝国は・・・・、とりあえず、不特定多数でしたね。
となると、アルフェミット帝国の皇女?
長女のリアンサ、次女のサフィラ、双子で三女のラーリとリール。
確か、アルフェミット帝国皇帝様が遊び心で庶民の遊びである『しりとり』を模して付けられたとか。
そんな理由で付けられてお可哀想に・・・・。
とりあえず、わたくしはその場を離れました。
途中、グレンアルス様の声が聞こえたので見てみると、知らない少年と遊んでおりました。
少年は自然を思い起こさせる緑色の髪に、深緑の瞳。
その人物そのものが自然に見えました。
面白そうだったので、暫く観察する事にしました。
「ハイラー、こっちこいよ!!
黄色い花がいっぱい有るんだ!」
「花だぁ?
そんな女々しいモン・・・、黄色い花。」
グレンアルス様は花がお好きなんですよね。
異母兄弟であるアーセルイン様は花が苦手だそうなのですが、アーセルイン様のお姉様にあたるお方、シェラリア様は花がお好きなのです。
あの少年、黄色い花のところに反応しましたわね。
「うわ—綺麗。
シェラ姉様に持って帰って・・。」
「触るな!!」
グレンアルス様は一瞬で手を引っ込めました。
そういえば、あの花、どこかで・・?
「・・・ごめん、その花は毒草だ。
触るだけでも害になる。」
「そうだったんだ・・・。」
少年は毒草だと言いつつ、黄色い花を摘み取りました。
あ、思い出しましたわ。
あの花、あまり知られていないですが毒草辞典に書いてありました。
確か・・・。
「毒草としてはマイナーな花、《マリエラ》だ。」
「でも、触っただけで害になるって・・・。」
「普通はな。
俺は自然の干渉を受けない。
だからいいんだ。
・・・ところで、」
少年はそう区切って、わたくしの方を向きましたわ。
バレました?
気配隠蔽には暗殺者にも負けないのですが・・・。
「そこに居るヤツは誰だ?
いい加減出てきやがれ。」
あらあら、バレてしまいましたの。
それにしてもあの少年、何者かしら・・・・。
そうは思いつつもわたくしは前へ出ましたわ。
「はじめまして。
わたくしはメイド長筆頭代理、リン=アクドゥールと申しますわ。」
「・・・・ハイラルディス=グランジェルノだ。」
まあまあ、『灰』ですか。
グランジェルノといえば、フィオルセッテさんのご姉弟ですか。
わたくしはとりあえず、無表情で勤めましょう。
あの時のわたくしを知るのは、あのときいた人間だけでいいのです。
「そういえば、《マリエラ》の花を良く知っておられましたね。
その件に関しては、ありがとうございます。
・・・しかしながら、わたくしが居る事をどうして?」
暗殺者より気配隠蔽に長けるわたくしが見つかったのでしょう。
「魔力だ。
魔力が、他の奴等とは違う、異質な魔力を持っていたからだぜ。
それと、自然が、な・・・・。」
3つの混合属性ですから、分かる人にはわたくしの魔力は異質ですが、分かるのは賢者や元帥など、高位の魔術師だそうですけれど?
・・・そこは敢えて放っておきましょう。
いずれわかるときが来ると、わたくしの勘は申しておりますから。
この少年、ハイラルディス君はどこかで見たような・・?
「俺、お前と会った事有ったか?」
相手も同じ事を考えていたようですね。
しかし、わたくしも分からないのです。
どこかで会ったような・・・?
まだ、ノエルの居た頃に・・・?
「・・・・あ。
やっぱりいい、俺の勘違いだったみたいだ。」
・・・・何か心当たりが有るようですけれど?
まあいいですわ、わたくしはいつものわたくしへ戻りましょう。
『英雄』や『しがない魔術師』ではなく、『冷徹なメイド長筆頭代理』へと・・・。
リン視点は難しいです・・。
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