[超短編]コーラ
『drink money』
「なんだこれ」
教室の後ろに、突如として設置されていた机。
『drink money』の紙を三角に折って立てて、横に紙コップが積まれている。
紙コップの前には、『30yen』と書かれた紙と、おそらくお金を入れられるべくして置かれたであろう豚の貯金箱。
後ろには、1.5リットルのペットボトルにコーラが詰まっている。
「30円って、普通に買うより安い?」
「さあ…」
ぞろぞろと、クラスメイト達が集まる。
誰かが、写真を撮った。
「あ、写真」
みんなスマホを取り出して、写真を撮り始める。
シャッター音だけが周囲に響く。
「これ、飲んでいいのかな?」
「勝手に飲むのは?」
「流石に……」
誰も、コーラにも、紙コップにも、触れなかった。
チャイムが鳴る。
チラチラと、コーラ販売所を振り返りながら席につく。
「先生、何かありません?」
「ん?後ろのやつか?」
「そうです、販売してるっぽくて」
「そうだな、学校のやつじゃないぞ」
「へぇ」
授業中、一番うしろの席の誰かが不意に、席をたった。
椅子の動く音。
足音。
硬貨のぶつかり合う音。
プシュッ
何人か振り返って、彼の行動を見ていた。
先生も、彼の方を見ていたが何一つ、注意をしようという素振りはなかった。
彼は紙コップギリギリまでコーラを注ぎ、口をつけてすする。
誰かの、唾を飲む音がした気がした。
彼は、その場でコーラを飲み干した。
「ハァ、」
飲み物を一気に飲んだあとの気の抜けた、息を解放した音。
彼は紙コップを畳んでゴミ箱に捨てた。
足音。
椅子の動く音。
彼は着席した。
5分経った。
10分経った。
一人立った。
すぐ右下の席のも立った。
ゴソゴソと、鞄を探る音が教室内の所々で起こっている。
チャイムが鳴った。
「じゃ、挨拶はなしで、大問3まで解けたら解散で」
先生はそれだけ言い残して、教室を去った。
5本おいてあったコーラのペットボトルの中身は、なくなっていた。
最初に席を立った彼の、話し声が聞こえる。
「なあなあ、計算してみたけど、殆ど変わらんのだと、コーラの値段。いいよな、遠くまで買いに行かなくていいから」
しばらくして、放課後。
誰もいない教室。
最初に席をたった彼は、貯金箱から、10円硬貨の音を鳴らしていた。




