第45話:ブラッド様が来てくれました
「止めろ、アントアーネから離れろ!」
「ブラッド様!」
私達の元にやってきてくれたのは、ブラッド様だ。ラドル様を私から引き離してくれた。すかさずブラッド様の背中にしがみついた。本当に怖かった。まだ足が、ガタガタと震えている。
ブラッド様も、アイーナ様に襲われたとき、きっと今の私と同じように恐怖だっただろう。いいや、ブラッド様は薬を飲まされていて、体が自由に動かなかったのだ。私以上に、恐怖を感じていたのだろう。
「ブラッド殿、どうして君は、いつも僕の邪魔ばかりするのだい。アントアーネから離れてくれ。今大切な話をしていたのだから」
「大切な話だって?俺には嫌がるアントアーネを、無理やり襲っていたようにしか見えなかったけれど!」
「それはとんだ言いがかりだ。僕はただ、アントアーネとの時間を少しでも取りたくて、話しをしていただけだ。いつも君に邪魔されていて、時間が取れないからね。ブラッド殿、君はもうすぐリューズ王国に帰るのだろう?
それならさっさと、アントアーネを解放したらどうだい?アントアーネは、君が傍にいるせいで僕の傍に来られないのだよ。アントアーネと僕は、君には知らない絆があるのだから」
「絆ですって…その様なもの、あなたが私を裏切ったあの日に消え失せましたわ。とにかく、もう私達には関わらないで下さい。もしまたブラッド様に何かしたら、私は一生あなたを恨みますわ!」
「どうしてそんな酷い事を言うのだい?そうか、僕が皆から人気があるから、嫉妬してしまったのだね。アントアーネは可愛いな」
何を思ったのか、妄想に入ってしまったラドル様。ブラッド様も、さすがに顔を引きつらせている。
「ブラッド様、行きましょう。あの人に関わっていると、ろくなことはありませんわ」
「そうだね、行こうか」
急ぎ足でその場を立ち去る。
「待って、アントアーネ…」
「ラドル、ここにいたのだな。探したぞ。君に紹介したい令嬢たちが、君の事を待っているよ。さあ、行こう」
絶妙なタイミングで、彼の友人たちがやって来たのだ。
「君たち、何を言っているのだい?僕はアントアーネ以外の令嬢など、興味が…」
「ほら、いくぞ」
あっと言う間に、令息たちに連れていかれたラドル様。あの人たち、たまにはいい仕事をするわね。
そんな思いで、彼らを見送る。
「アントアーネ、大丈夫だったかい?」
「ええ、ブラッド様が助けて下さったので、私は大丈夫ですわ。私よりも、ブラッド様は大丈夫でしたか?得体のしれない薬を飲まされたのでしょう?」
「ああ、どうやらアイーナ嬢がすぐに何を飲ませたか白状した様で、解毒剤を飲んだから、今はすっかり元気だよ。先生の話だと、既に罪を認め、素直に話しをしている様だ。すまない。俺が油断したばかりに。アントアーネ、俺の事を信じてくれてありがとう」
「お礼を言われる様なことは、しておりませんわ。ブラッド様が、令嬢と教室であのような事をなさるわけがないですし、何よりもブラッド様の様子がおかしかったので」
「さすがアントアーネだね。それにしても、すっかり無駄な時間を過ごしてしまった。アントアーネ、中庭に行こう。まだライトアップされた中庭を、見ていないだろう」
「ええ、私は問題ありませんが、ブラッド様はアイーナ様から得体のしれない薬を飲まされたのでしょう?もう屋敷に戻って、休んだ方が…」
「解毒剤を飲んだから、もうすっかり元気だよ。それにせっかくの夜会だ。もう少し楽しみたいしね」
ブラッド様がそう言うのなら、まあいいか。
「承知いたしましたわ。それでは、中庭に参りましょう」
ブラッド様と一緒に、中庭へと向かった。
「ブラッド様、見て下さい。毎年こんな風に、ライトアップをしているのですよ。とても綺麗でしょう」
「本当に綺麗だね。いつも昼間の中庭しか知らないから、夜の中庭はとても新鮮だよ」
嬉しそうに中庭を見つめるブラッド様を見ていると、私もなんだか嬉しくなる。せっかくだから、あそこも見せよう。




