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私を陥れる様な婚約者はいりません!彼と幸せになりますから邪魔しないで下さい  作者: Karamimi


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第26話:束の間の安らぎ

「婚約者?君は一体何を言っているのだい?俺には婚約者なんていないよ」


「えっ?でも、ブラッド様はもう15歳だし。それにとても魅力的なのに…」


 あり得ないわ、こんなにも素敵なのに、どうしてまだ婚約者がいないのかしら。それに彼は、侯爵令息だ。もう婚約者がいても、おかしくはないのに。


「アントアーネから見て、俺は魅力的かい?それは嬉しいな。もしかして俺のいもしない婚約者に、遠慮したのかい?本当にアントアーネは可愛いな」


 そう言って笑ったブラッド様。本当に婚約者がいないのかしら?もしかして私が遠慮しない様に、気を使っているのかしら?


「熱もしっかり下がったね。良かった。汗をかいているみたいだから、着替えた方がいい。それにシーツも取り替えてもらおう。食事も食べないとね。この3日間、水以外口にしていないだろう。


 すぐに食べやすいものを準備してもらおう」


 ベッドから抜け出したブラッド様が、テキパキと使用人に指示を出していく。さらに


「はい、アントアーネ、口を開けて」


「子供ではありませんから、1人で食べられますわ」


 なぜか食事を私に食べさせ始めたのだ。


「夫人の話では、最近食欲もなく、ほとんど何も食べていなかったと聞いたよ。ただでさえ今君の体は弱っているのだから、しっかり食べないとね」


 そう言って食べさせてくれるのだ。さらに夜も


「また怖い夢を見ると大変だから、俺が寝るまで傍にいるよ。こうやって手を繋いでいれば、怖くないだろう」


「私は子供ではないのです。手を握ってもらわなくても、1人で寝られますわ」


 ぷっくりと頬を膨らませ、ブラッド様に訴えた。そんな私を見て、ブラッド様が笑った。


「はいはい、分かっているよ。でも、俺が心配ないんだよ。この3日間、君は何度も涙を流しながらうなされていたからね。それに俺がこうやって手を握ったり抱きしめると、どうやら落ち着くみたいだし」


「わ…私は別に、あなたに抱きしめられて落ち着く訳では…」


「はいはい、さあ、寝ようね」


 ガバリとベッドから起き上がった私を、再び寝かしつけるブラッド様。完全に子ども扱いだ。でも、なぜだろう。彼の手を握っていると、確かに落ち着くし安心する。それになんだか、心も穏やかだ。


 こんな風に穏やかな気持ちになるのは、いつぶりだろう。


 そっと目を閉じる。手から温もりがしっかり伝わってくる。


「ねえ、ブラッド様。覚えていますか。昔もこうやって手を繋いで一緒に寝ましたね」


「そうだったね、確か森にピクニックに行った時、君が勝手に森の中に入っていくから迷子になっちゃって。大きな毒蛇に襲われそうになったのだったね。幸いすぐに護衛が来てくれて助かったけれど」


「ええ、そうでしたわね。ブラッド様も蛇が苦手なのに、私を庇おうとして…恐怖で寝るのが怖いと泣く私の手を握って、ブラッド様が一緒に寝てくれたのでしたね。あなたのお陰であの日、悪夢を見ずに済みましたわ」


「それは俺も同じだよ。君の温もりを感じられたから、怖い夢を見ずに済んだんだ。ただ、未だに蛇は苦手だけれどね」


「私もですわ。イラストを見るのも無理ですわ」




 そう言って2人で笑った。


「さあ、もう寝よう」


「ええ、おやすみなさい」


 ゆっくり瞼を閉じる。手から伝わる温もり…この温もりがあれば、きっとあの悪夢は見ないだろう。正直最近、眠るのが怖かった。でも今は、何も怖くない。


 きっとブラッド様のお陰だろう。


 その日は悪夢を見ることなく、穏やかな気持ちで眠りについた。


 翌日

「アントアーネ、今日は天気がいいから一緒にお茶をしよう」


 体調が回復した私を、お茶に誘ってくれたブラッド様。早速2人でお茶を楽しむ。


「アントアーネはこのお菓子が好きだったよね。たくさん食べて」


「ありがとうございます、ブラッド様は、こちらのお菓子でしたよね」


「俺の好きなお菓子を、覚えていてくれたのかい?嬉しいな」


 そう言ってお菓子を頬張るブラッド様。その姿が、なんだか愛おしい。こんな時間が、ずっと続いてくれたら…


 ついそんな事を考えてしまう。


 でも彼は、リューズ王国の侯爵令息だ。近々リューズ王国に帰ってしまうだろう。そう考えると、胸がチクリと痛んだ。


 分かっている、この幸せな時間は、ずっと続く事はない。それでも今は、この幸せな時間を噛みしめたい。


 この楽しい時間があれば、きっと私は生きていけるはずだ。


 だからせめて今だけは、この幸せな時間を噛みしめていたい。今だけは、嫌な事を忘れて、楽しみたい。


 そう願いながら、ブラッド様との時間を楽しんだのだった。

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